第744回:エンジニアの夢がつくった万能マシン 「ランボルギーニ・ウラカン ステラート」が荒野を駆ける
2023.05.19 エディターから一言![]() |
ミドシップのスーパースポーツが荒野も走れるクロスオーバーに!? 二兎(にと)を追う「ランボルギーニ・ウラカン ステラート」の実力は? 過去の枠にとらわれないニューモデルはいかにして誕生したのか? 米国での取材を通して、その実像に迫る。
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言うなればスーパーカー版のクロスオーバー
世の中がSUV全盛の時代となり、その流れはスポーツカーや超高級車をつくり続けてきたメーカーにとっても無視することができない。あのフェラーリも「プロサングエ」というSUV的なクルマ(フェラーリの説明ではSUVではなく、4ドア4シーターのスポーツモデルとされている)をついにデビューさせたし、少し前ならポルシェの「カイエン」やベントレーの「ベンテイガ」、最近ではロールスの「カリナン」やアストンマーティンの「DBX」など、背の高いクルマとは無縁と思われたブランドでも軒並みSUVをラインナップに加えるのが当たり前になっている。
「カウンタック」(かの地ではクンタッチと呼ばれる)によってスーパーカーブームの主役となったランボルギーニにおいても、2018年にデビューしたスーパーSUVの「ウルス」が爆発的にヒットし、今や同社の販売台数の約半分がこれ、という屋台骨となっているのはご存じのとおりだ。
そんなランボルギーニが、オフロード走行に対応できる「全天候型スーパーカー」として登場させたのが、今回試乗した「ウラカン ステラート」(以下ステラート)。その名のとおり、ベースモデルとなったのはスーパーカーのウラカンで、サブネームのステラート(Sterrato)はイタリア語で未舗装の道路という意味。つまりスーパーカーの形をしていながらもダートやオフロード走行が可能な二律背反の性能を備えるという、SUVとは異なる全く新しいジャンルに挑戦したものだ。乗用車のボディーをリフトアップしたクロスオーバーの、スーパーカー版と言ってもいい。
最初に話を聞いた際には「ウソでしょ?」と疑ったこのコンセプト。筆者はウラカンとウルスの各モデルをサーキットやオフロード、はたまたアイスバーンに近い雪道など、さまざまなシチュエーションで乗ってきたけれども、ステラートは1台でそれぞれが持っているおいしいところを味わえるモデルに仕上がっているのだろうか。「BEYOND THE CONCRETE(コンクリートを超えて)」と銘打ち、米カリフォルニア州パームスプリングスで開催された試乗会に参加して確かめてみた。
外観に漂うただならない存在感
ステラートのボディーサイズは全長×全幅×全高=4525×1956×1248mmで、ベースモデルより5mm長く、23mm広く、83mm高い。最低地上高は44mmアップしていて、トレッドはフロントが30mm、リアが34mm拡大されている。パワートレインはリアミドに搭載した5.2リッターの自然吸気V型10気筒。最高出力610PS/8000rpm、最大トルク560N・m/6500rpmはベースモデル「ウラカンEVO RWD」と同じ数値で、7段DCTと組み合わせたその性能は、0-100km/h加速が3.4秒、最高速が260km/hとなっている。
エクステリアは、フロントに取り付けられた2灯の小型LED補助ライト、カーボンと複合樹脂で整形したブラックの大型オーバーフェンダー、ほこりを避けてクリーンな空気を吸い込むためルーフに取り付けられたエアスクープ、ルーフレールなどとともに、ブリヂストン製のオールテレインランフラットタイヤ「デューラーAT002」が、普通のウラカンではないことを強く主張している。
試乗コースは、パームスプリングスから110kmほど離れた砂漠のど真ん中にある「チャックワラ・レースウェイ」。全長3.75kmの半分は舗装された本コース、残り半分はコースから離れてダートに突入するというスペシャルステージが設定されていた。未舗装路は細かい砂地でさほど大きな凹凸はないものの、600PSのスーパーカーで突っ走るにはいささか勇気がいるのだ。
万能選手ぶりを一度に味わう
とはいえ、ドライブモードセレクター「ANIMA」に追加された「RALLY」モードの足さばきや、ハルデックス製の機械式セルフロッキングディファレンシャルを備えた四輪駆動システムを信じてアクセルを踏み込むと(同乗の教官役からはヘルメットのスピーカーを通じて、絶えず「ガス! ガス!」の声が飛んでくる)、左右に流れるお尻を一発の当て舵で修正できたりするので、ちょっとしたラリードライバーの気分が味わえる。
一方、「スポーツ」モードを使って高速で通過するS字の最終コーナーでは、ノーマルウラカンにはないわずかな左右のロールを発生しながら、メインストレートに進入。短い距離ながらも強いトラクションで190km/h程度まで加速し、そこからのブレーキングではオールテレインタイヤがヨレることなく急減速を見事にこなしてみせた。
走行後は、背後のロールケージに取り付けられたカメラによって撮影された自分の走りを、車速、アクセル開度、ギア選択、G(加速度)などを表示するテレメトリーシステムとともに専用アプリを通じてすぐに確認できるという、楽しい仕掛けがあった。これにより、他のつわものたちの豪快な走りが分析できるだけでなく、自らの遅さ? なんかががすぐにわかるのも面白いところだ。
帰路は広大な砂漠の「ジョシュア・ツリー国立公園」を通り抜ける遠回りの一般道約200kmを選んで走ることに。途中にある「ジャンボロックス・キャンプグラウンド」(そのままの名前ですが)では巨石の下で写真撮影をしようと砂地の小道に入り込んでみたのだが、こんな思いつきはノーマルウラカンでは絶対に実現できないことは間違いない。また車載ナビの「WAT3WORDS」を使えば、仲間を同じところまでピンポイントで呼ぶこともできる。そして3時間を超えた連続走行を終えても、乗員に全く疲れを感じさせないという良好なツアラーぶりを発揮してくれたのは新しい発見だった。
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設計者の夢が生んだステラート
試乗会に参加していた設計者の一人、ミーティア・ボルケート氏によると、「ウラカンにこんなクルマがあったらいいな」と、まずは背の高いウラカンの試作車を製作したのだそう。それを地元のジャーナリストの何人かに試乗してもらうと、あまりにも評判がよかったので正式につくることが決定したのだという。つまり、カスタマーからの要求ではなく、自分たちでつくりたかったものを製品化したのがステラートということになる。
V10を搭載したウラカンは、2014年の「610-4」に始まり、RWDの「580-2」、パワーアップした「ペルフォルマンテ」、いわゆる“後期型”の「EVO」、公道走行可能なレーシングモデルの「STO」、完成形ともいえる「テクニカ」と、さまざまなモデルバリエーションを展開してきた。もうこれで出尽くしたのか、と思っていたところに最後に登場したのが、地形や天候を気にせずに高速走行を可能にした本モデルだ。恐らくはランボルギーニ最後の純内燃機関モデルともなりそうなステラートは、「勇ましさ、信頼性、斬新さ」というランボルギーニブランドが掲げる方針を見事に体現したクルマに仕上がっていたのだ。
(文=原アキラ/写真=ランボルギーニ、原アキラ/編集=堀田剛資)
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