ランボルギーニ・ウラカンSTO(MR/7AT)
ファン・トゥ・ドライブの頂点 2022.02.01 試乗記 「ランボルギーニ・ウラカンSTO」は、ウラカンの競技車両「スーパートロフェオ」や「GT3 EVO」のテクノロジーを用いて開発された、レーサーレプリカのような存在だ。富士スピードウェイでの初試乗に続き、公道でそのパフォーマンスを確かめてみた。ウラカンの最終章を飾るモデル
過日、海外から舞い込んだスクープ写真に仰天させられたのは僕だけではないだろう。白銀の圧雪路を走るそれは、ノーマルより明らかに地上高が高く、バンパーガードやルーフレールが組み込まれたランボルギーニ・ウラカン。記事によるとそれは、2019年に突然発表されたウラカンベースのオフローダーコンセプト「ステラート」の市販化に向けたテスト走行だという。
もし本当なら、よりによって描いたその絵が餅になろうとは……という話だ。が、それが仮に十八番の上得意向け限定車だったとしても、こういったとっぴなコンセプトも形にしておこうという動きの向こうに感じるのは、ウラカン世代の店じまいが近づきつつあるということだ。
現在はF1マネジメントグループの代表を務めるステファノ・ドメニカリ氏の後を受けて、2021年からランボルギーニに復帰したステファン・ヴィンケルマンCEOは直近で、2025年までにウラカンの後継にハイブリッド化されたパワートレインを与える計画を表明した。この「ミスター・ランボルギーニ」の指針は、前任のドメニカリ氏が示していたプランともほぼ一致している。当然でしょうと言われればそれまでだが、ランボルギーニの電動化戦略は水面下で着々と進行しているわけだ。
F1出自のフェラーリとマクラーレンの陰に隠れてひたすら油を炊いている無頓着風情にみられがちだが、実はスーパーキャパシタを電源とする「シアンFKP 37」のようなスポーツハイブリッドのあり方も既に提示するなど、ランボルギーニは他に先んじたハイテクな一面も持ち合わせている。しかもピン立ちでも存分にドスが利いているというのに、バックに控えるのは電動化にどっぷりの1000万台グループだ。その技術的アセットも生かせるとくれば、アタマのひと声で一気に最先端に躍り出ることも難しくはない。
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それはまさにレーサーレプリカ
そんな背景が透けて見えてくるほどに、僕のようなオッさん世代の心はザワザワしてしまう。日常ではやれSDGsだのDX(デジタルトランスフォーメーション)だのと、ひっきりなしに示される新しい指標を受け入れ続ける強迫観念に駆られながら「せめてクルマの趣味くらいは好きにさせろや」と思う気持ちは痛いほどわかる。まわりがBEVネイティブになろうが「俺は内燃機関と一蓮托生(いちれんたくしょう)だ」と、そんな燃焼組の頂点ともいえたランボルギーニも、しかし、オッさんと心中するわけにはいかないのも確かだ。
ユーザーもメーカーもそうした岐路に立つなか、ウラカンに潜むダイナミクスを極限まで引き出したモデルとして投入されたのがSTOだ。ランボルギーニのレース部門であるスクアドラコルセが、ワンメイクレース「スーパートロフェオ」やカスタマーレーシングの頂点であるFIA-GT3への車両供給で得られた知見をフィードバック、見た目の印象的には限りなくスーパートロフェオ用マシンに近いという、バイクで言うところのレーサーレプリカ的な位置づけとなる。
その詳細は先に行われたクローズドコースでの試乗に記しているが、端的にいえば空力の化け物という印象だった。ヘタレ用にリアウイングを最大ダウンフォースに調整していただいた、ドラッグの塊と化した車体が富士スピードウェイのストレートでは250km/hを超えてなお、ふん詰まることなくスルスルーッと速度を上げていく不思議な感触、フルブレーキや高速コーナーでの地面に貼り付けたような安定性は、まさに現在のレース車両的なダイナミクスだと参加したレーシングドライバーが教えてくれて、へぇーっとうなったのを覚えている。
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常速域では望外に快適
見た目はいかにもながら、決して空力性能が良いわけではないのがスーパーカー……というのは昔の話。現代のそれは、強烈な高速性能に見合った空力特性を「らしい」スタイリングと両立させなければならない。そうやってできたウラカンをさらにエフェクトパーツでバチバチに固めているのがSTOだ。空気のいなしのためにフェンダー類まで形状を違えるし、そもそも背びれをまとった市販車なんてタトラの「T77」系くらいしか思い浮かばない。
そのZZガンダムみたいな空力付加物のマシマシぶりはクローズドコースのパドックでは違和感はなくも、さすがに一般道では目に余り、乗る側もさすがに萎縮してしまう。が、ちょっと端っこのほうを走ってますんでお構いなく……と、しずしず乗る限り乗り心地ではその大仰さをあまり伝えてこない。
もちろん大きめの凹凸を越えるような状況ではサーキットスピードを受け止める硬いバネものが車体を揺するが、目地やマンホールなどの段差くらいはきれいにいなしてくれるので、常速域のライド感は望外に快適だ。これは微小入力の応答性が高いダンパーに加えて、タイヤに「ブリヂストン・ポテンザ スポーツ」を採用している点が大きいだろう。
この欧州専用銘柄の位置づけをブリヂストンのエンジニアに聞くと、「S007」よりもややスポーツ寄りのマルチパフォーマンス型になるというが、直近までランボルギーニのCTOを務めたスクアドラコルセの副社長、マウリツィオ・レッジャーニ氏はその採用理由を「STOはサーキット偏重というわけではなく、多様性の高いクルマであり、デイリーユースを考えるとこのタイヤが最適という判断に至った」と話している。
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魅力的な自然吸気V10エンジン
常速域でのクルマの動きを体に染みわたらせながら速度域を上げていくと、目に見えぬ何かが車体の動きをヒタッと安定させていることが法定速度内でも明らかに伝わってくる。目をつり上げることなく普通に転がしていて、ここまで空力の成果が表れるストリートモデルというのも他にはないのではないだろうか。
640PSのMRにして、真っすぐも不安なくピタリと走るのもまた、空力によるところが大きい。しかしながらSTOの生来の大好物がコーナリングであることは間違いないところだ。もちろん、持てるパフォーマンスを思いっきり引き出すのは、どだいサーキット以外では無理な話。でも一方でSTOは、自制心と引き換えにその一片を垣間見るくらいの余幅は持ち合わせたクルマでもある。
ドライブモードセレクターである「ANIMA」を最も適応幅の広いSTOに設定している限りは、オープンロードのギャップにもある程度は対応してくれるし、スロットルの反応にも腫れ物のようなヤバさはない。レッジャーニ氏がSTOを指して多様性を持ち出してきた時には悪い冗談だと思ったが、抜き身の刀でも振り回しているかのような“なり”の割には意外や融通の利くところがあって、そのギャップに驚かされた。
過給機を用いるライバル勢に比べると、ここ一発のパンチ力に劣る自然吸気V10は、何よりSTOの最大の財産だ。4000rpm向こうでひと伸び、そして7000rpm向こうでさらにひと伸びと、回すほどに情感のある加速を独特の音色の高まりとともにみせてくれる、そのずぬけた官能性は他に代わるものがなく、対すればコンマ何秒程度の優劣などささいなことにしか思えない。純粋にクルマを走らせることを趣味とする、そのための選択肢として、このクルマは今間違いなく頂点にいる一台だと思う。
(文=渡辺敏史/写真=花村英典/編集=櫻井健一/撮影協力=河口湖ステラシアター)
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テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウラカンSTO
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4547×1945×1220mm
ホイールベース:2620mm
車重:1339kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:640PS(470kW)/8000rpm
最大トルク:565N・m(57.6kgf・m)/6500rpm
タイヤ:(前)245/30R20/(後)305/30R20(ブリヂストン・ポテンザ スポーツ)
燃費:13.9リッター/100km(約7.2km/リッター 欧州複合モード)
価格:4125万円/テスト車=5778万1460円
オプション装備:ブルーラウフェイ<メタリックボディーカラー>(225万9290円)/カーボンツイルパック(67万7820円)/アンチセフトアラーム(8万2830円)/ランボルギーニライティングオンダッシュボード(10万5490円)/クルーズコントロールシステム(10万5490円)/ステッカーパック2<フロントリップ&リアフィン>(9万0310円)/リアビューカメラ(24万1010円)/スマートフォンインターフェイス&コネクトサービス(40万6780円)/スポーツシート(82万8520円)/CCMRブレーキキャリパー<オレンジ>(15万0590円)/ランボルギーニテレメトリー(60万2580円)/カーボンファイバーフットプレート(52万7230円)/リフティングシステム(45万1880円)/コントラストカラーロワースキーム<ネロノクティス&ロッソマーズ&ジアッロベレヌス&アランチオクサント&ヴェルデセルバンス&ブルーニーラ>(67万7820円)/カーボンスキンパッケージ(45万1880円)/Hek20インチモノブロックフォージドホイール<マットブラック>(22万5940円)/リアウイングインカーボンシャイニー&エアスクープインコントラストカラー(105万4650円)/ルーバーフレーム+フロントボンネットプレート+リアフィンカーボンファイバーシャイニー(18万0840円)/コファンゴパーツインビジブルカーボンファイバーシャイニー(94万8970円)/リアディフューザーインビジブルカーボンファイバーシャイニー(105万4350円)/フルリバリーエクステリアパック(432万2890円)/コントラストカラーロワースキームADP(22万5940円)/カラーアコーディングトゥカスタマーデザイアー(85万8660円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1919km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:264.8km
使用燃料:44.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.0km/リッター(満タン法)/7.3km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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