ホンダ・フィット ネス(FF/CVT)/フィットe:HEVホーム(FF)
世界になごみを 日々にくつろぎを 2020.03.04 試乗記 ホンダの人気コンパクト「フィット」がついにモデルチェンジ。4代目となる新型は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 使う人の「心地よさ」を追求したというコンセプトに、ホントに沿うものになっているか? 仕様の異なる2モデルに試乗して確かめた。ホッとするデザイン
ご存じのように、新型フィットにはユーザーの好みにあわせて5つのタイプが用意されている。パワートレインは2モーターハイブリッドの「e:HEV」と1.3リッターガソリンエンジンの2種類。今回の試乗会ではパワートレインが異なる2台を取材できるよう枠が組まれており、webCGはe:HEVの「HOME(ホーム)」と1.3リッターエンジンの「NESS(ネス)」の組み合わせを選択した。駆動方式はいずれもFF。パワーが小さいほうから試乗したい質(たち)の私は、先にネスのキーを受け取った。
「健康的で快活なフィットネスライフ」がテーマのネス。案の定、名前の由来は“FITNESS”なのだが、シャイニンググレー・メタリックにライムグリーンのアクセントが組み合わされるボディーカラーはネスのみの設定で、確かに軽快な印象を受ける。それ以上に好感を抱いたのが、優しい雰囲気のフロントマスク。攻撃的な表情のクルマが増えるなか、この新型フィットは、外から眺めるだけでもホッとする。せめて、コンパクトカーや軽自動車くらいは優しい表情であってほしいと願う私にとって、新型フィットの第一印象は好ましいものだった。
早速運転席に座ると、前評判どおり、広く開放的な視界に驚かされる。細身のフロントピラーと、広くフラットにデザインされたダッシュボード上部の効果は絶大である。ダッシュボードの前面は、このネスでは明るい色のファブリック製ソフトパッドが施され、開放的な視界や、面で体を支える座り心地の良いシートなども手伝って、ますますホッとするフィットなのである。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
受け継がれるセンタータンクレイアウト
フィットといえば、燃料タンクを前席の下に収める「センタータンクレイアウト」により、広いキャビンを実現するのが伝統だが、もちろんこの4代目もその特徴を受け継いでいる。実際に、身長167cmの筆者が運転席のポジションを決めて後席に移ると、膝の前には拳3個ぶんの余裕があり、足が組めてしまうほど広い。足先のスペースにもゆとりがあり、前席のシート下に爪先を入れる必要がないほどだ。ヘッドルームも私の体格なら10cm強確保されるなど、大人でも十分に快適なスペースに仕上げられている。
一方、荷室はサイズ相応の広さというところだが、後席を倒せばほぼフラットになる荷室のフロアや開口部の広いテールゲートは、大きな荷物を収納するのに便利であるし、後席の座面を跳ね上げれば高さがある荷物が積めるのもフィットの良き伝統である。IPU(インテリジェントパワーユニット)と呼ばれるバッテリーを積むe:HEVでも、荷室のフロアはガソリン車に比べて数cm高いだけで、後席背後の段差も実用上はさほど気にならないレベルだ。
話を1.3リッターのネスに戻すが、搭載される自然吸気の直列4気筒エンジンは、最高出力98PS、最大トルク118N・mと、取り立ててパワフルではないが、CVTと組み合わされることで発進から必要十分な加速を見せる。高速の合流などでアクセルペダルを大きく踏み込んだときに、エンジン回転だけが高まり、あとからスピードがついてくるという“CVTのクセ”が抑えられるのも見逃せないところだ。
「i-MMD」から「e:HEV」へ
それだけに、1.3リッターのガソリンエンジンでも十分に満足できる仕上がりといえるのだが、e:HEVのホームに乗り換えると、そのスムーズで力強い加速に心が動かされる。
2代目には「IMA」、3代目には「i-DCD」というエンジン主体のハイブリッドシステムが用意されてきたフィットだが、新型では基本的にモーターで走行するe:HEVを採用する。走行用と発電用の2つのモーターを持つこのシステムは、これまで「i-MMD(インテリジェントマルチモードドライブ)」と呼ばれていたもので、名前からハイブリッドであることがわかりにくいということから、e:HEVに改名したという。コンパクトカーのフィットに搭載するにあたっては、モーターなどのパーツを小型化することで、1.5リッターエンジンとともにボンネット下に収めることに成功した。
通常の走行では、最高出力80kW(109PS)の走行用のモーターが前輪を駆動。0-3000rpmで253N・mの最大トルクを発生するこのモーターは、動き出しからとても力強く、しかもスムーズで静かだ。より大きな加速が必要なときなど、バッテリーの電気だけでは足りない場面ではエンジンが始動し、発電用のモーターを回してその電気で走行用モーターを駆動することになるが、急加速でもしないかぎりはエンジンの音は控えめだ。急加速の場面でも、ガソリンエンジンとCVTの組み合わせ同様、エンジンの回転だけが高まらないよう制御を行うことで、違和感のない加速を実現してくれるのがいい。
一方、高速道路を巡航するような場面は、エンジンがタイヤを回し、場合によってはこれをモーターがアシストするので加速もスムーズ。短時間の試乗のため、燃費のチェックはできなかったが、WLTCモードの27.4km/リッターは現実的な数字に思える。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
“なごみ系デザイン”の効能
新型フィットを走らせてみると、剛性感の増したボディーやしなやかな動きを目指したサスペンションなどのおかげで、落ち着いた挙動を示す。特に高速道路での安定性は高く、VGR(可変ステアリングギアレシオ)を搭載した試乗車では、それがよりいっそう感じられた。高速のランプといったコーナーでも、タイヤがしっかりと路面を捉える印象だ。ただ、試乗会場付近の一般道は路面の舗装状態が悪く、ネスに標準、ホームにオプションの185/55R16サイズのタイヤがコツコツと軽いショックを伝えることも。それを除けば、おおむね快適な乗り心地だった。
「リラックスできるこだわり空間で、質の高い暮らし」を目指すホームのインテリアについて触れておくと、ダッシュボードのソフトパッドがスムーズな素材に変更になることに加えて、2スポークのステアリングホイールやセレクトレバーが本革巻きになるのがうれしいところ。個人的には本革巻きステアリングは譲れないポイントなので、私のなかではe:HEVのホームがベストチョイスである。
温かみのあるデザインと、余裕あるパワー、そして、落ち着いた走りをコンパクトなボディーで実現した新型フィット。販売台数が期待できるモデルだけに、良い意味で緩さを感じるこの新しいコンパクトカーが、同じ道路を走るドライバーの心をなごませる存在になってくれたらいいと思う。
(文=生方 聡/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ホンダ・フィット ネス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1695×1540mm
ホイールベース:2530mm
車重:1090kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:98PS(72kW)/6000rpm
最大トルク:118N・m(12.0kgf・m)/5000rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ヨコハマ・ブルーアースA)
燃費:22.2km/リッター(JC08モード)/19.6km/リッター(WLTCモード)
価格:187万7700円/テスト車=228万7164円
オプション装備:アクセント2トーン<シャイニンググレー・メタリック×ライムグリーン>(5万5000円)/コンフォートビューパッケージ(3万3000円) ※以下、販売店オプション 9インチナビ<VXU-205FTi>(19万8000円)/ナビ取り付けアタッチメント(4400円)/ドライブレコーダー<DRH-197SM>(2万7500円)/ETC2.0車載器 ナビ連動タイプ(2万7500円)/ETC車載器取り付けアタッチメント(6600円)/フロアカーペットマット プレミアム<エクステンションマット付き>ブラック(2万8600円)/工賃(2万8864円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:745km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ホンダ・フィットe:HEVホーム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1695×1515mm
ホイールベース:2530mm
車重:1180kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5600-6400rpm
エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm
モーター最高出力:109PS(80kW)/3500-8000rpm
モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3000rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ヨコハマ・ブルーアースA)
燃費:27.4km/リッター(WLTCモード)/35.0km/リッター(JC08モード)
価格:206万8000円/テスト車=259万2964円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムサンライトホワイト・パール>(5万5000円)/Honda CONNECT for Gathers+ナビ装着用スペシャルパッケージ(4万9500円)/コンフォートビューパッケージ(3万3000円)/16インチアルミホイール(6万6000円) ※以下、販売店オプション 9 インチナビ<VXU-205FTi>(19万8000円)/ナビ取り付けアタッチメント(4400円)/ドライブレコーダー<DRH-197SM>(2万7500円)/ETC2.0車載器 ナビ連動タイプ(2万7500円)/ETC車載器取り付けアタッチメント(6600円)/フロアカーペットマット プレミアム<エクステンションマット付き>ブラック(2万8600円)/工賃(2万8864円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:938km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。