第122回:ラリーを戦う、東大の授業!? これが「ラリー・モンテカルロ・ヒストリック2011参戦プロジェクト」だ!
2011.05.27 エディターから一言第122回:ラリーを戦う、東大の授業!? これが「ラリー・モンテカルロ・ヒストリック2011参戦プロジェクト」だ!
2011年5月22日、東京・文京区の東京大学で「ラリー・モンテカルロ・ヒストリック2011参戦プロジェクト 成果報告会」が開かれた。
東大とラリーの関係は? そこでリポーターが見聞したものは……?
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教授はベテラン・ラリースト
国内トップレベルの大学として、知らぬ者のない存在である東京大学。その象徴である安田講堂をバックに並んだ、2台の往年のラリーカー。とても絵になる光景ではあるが、これらのクルマはいったい……? 自動車部の部車? そうではない。じつはこのうちの1台は、正規の単位が取得できる東大の「授業」に使われた、言うなれば“教材”なのである。
東京大学工学部および大学院工学系研究科では、ものづくり大国ニッポンを背負って立つ学生を育成するための共通科目として、学部生向けの「創造的ものづくりプロジェクト」と、大学院学生向けの「創造性工学プロジェクト」を開講している。プロジェクトのテーマはロボットもあればインターネットもあり、「学生フォーミュラ」や「EVフォーミュラ」といったクルマ関連のテーマも存在している。
そうしたテーマのひとつして、昨年春に立ち上げられたのが、「ラリー・モンテカルロ・ヒストリック参戦プロジェクト」。なぜラリーかといえば、これを企画し、指導した工学系研究科特任教授の草加浩平氏によるところが大きい。というか、草加教授の存在なくしてこのプロジェクトはあり得なかった。
東大工学部のOBである草加教授は、在学中に自動車部でラリー参戦を開始。以後今日までの約40年間にコ・ドライバーとして参戦した国内ラリーは300戦以上、WRCを含む国際ラリーは30戦以上を数え、1990年には全日本ラリーでナビゲーターチャンピオンを獲得したこともあるという、生粋のラリーストなのだ。
とはいえ、もちろん自分の趣味だけでラリーをテーマに選んだわけではない。その理由について教授はこう語っている。
「部品の入手がままならない古いクルマをレストアして競技に参加することは、創意工夫が必要とされ、ものづくり教育としての価値が高い。また長丁場の戦いとなるため、予期せぬ状況変化への対応能力が問われ、チームワークの重要性を身をもって知ることができる。さらに海外ラリーということで、ものづくり教育と国際化教育を融合させるという大学の方針にも合致している」
さすがに理路整然として説得力のある言葉だが、平たく言えば「今どきの弱い学生を鍛えるのに、筋書きのないドラマが展開する国際ラリーはかっこうの場」ということらしい。
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このプロジェクトにはもうひとつ、他校とのコラボレーションという新たな試みもあった。車両のレストア、競技車両への改造そして整備を、自動車整備士養成校である関東工業自動車大学校(関東工大校)の学生が担当したのだ。対して東大生の担当は、計画の立案、スポンサー獲得、予算管理などラリー出場にまつわるすべてのマネジメントである。
「普段の生活では、あまり接点がない総合大学と専門学校の学生。だが双方が社会に出て、たとえば自動車メーカーに勤めたとしたら、仕事で出会う可能性はある。そういうときに、教育背景の垣根を越えたプロジェクトで協力した経験は役立つはず」というのが、コラボレーションの意図するところである。
日本人過去最上位で完走
安田講堂の前に並んでいた2台のうち、右側の型式名「TE27」こと1973年式「トヨタ・スプリンタートレノ」が、東大と関東工大校のジョイントによって今年の「ラリー・モンテカルロ・ヒストリック」(ヒストリック・モンテ)に参戦したマシンなのだ。
ヒストリック・モンテについては、以前に『webCG』でもリポートしているので、詳しくはそちらを参照していただきたいが、WRCの中でも伝統と格式を誇る「ラリー・モンテカルロ」のヒストリック版タイムラリー。マシンの出場資格は1955年から80年の同ラリーの出場車または同型車で、かつFIA発行のヒストリックカー証明書を所有していること。彼らが選んだトレノはモンテには出場していないが、双子車である「カローラレビン」には参戦歴があるため出走が許可された。
プロジェクトに参加する両校の学生が顔合わせを行い、草加教授が後輩から譲り受けた「TE27トレノ」のレストアが関東工大校で始まったのが昨年の5月末。それから車検取得、競技車両への改造を経て、11月にはテストとして東京〜京都間を走るヒストリックラリー「ラリーニッポン2010」に参加。トラブルに見舞われながらもどうにか完走した後、12月には本番に向けて「TE27トレノ」を船便で送り出した。
ちなみにプロジェクトに必要なおよそ1000万円超の予算は、草加教授が教育・研究を目的として企業から集めた約400万円の寄附金を除いては、現物支給を含めすべて学生がスポンサーから調達したという。
ヒストリック・モンテは欧州5カ所からスタートし、数日後に全エントラントが終結してからモンテカルロを目指すという方式だが、東大/関東工大校チームは1月27日にスコットランドのグラスゴーをスタート。そこから2月2日のモンテカルロのゴールまで、6日間で約3500kmを走破する。
国際ラリー未経験の学生に競技を走らせることは危険なため、ステアリングを託されたのは、チューニングショップ「オリジナルボックス」代表で、ドライバーとしてラリー/ダートラの経験も豊富な国政久郎氏。コ・ドライバーはもちろん草加教授である。東大/関東工大校の学生は、10人が渡欧してサービスクルーを務めた。
学生たちが持てる能力をすべて注ぎ込み、国内イベントでダメ出しをして仕上げたクルマとはいえ、草加教授いわく「最初は横に乗っていても不安で、イギリスからフランスまでたどり着けるか疑問だった」という。しかし、「フランスに入ってからは、なんとかいけるかな?」と思い始め、やがてそれは確信に変わり、目標としていた完走を無事に果たした。しかも日本人エントラントとしては過去最高となる、出場 322台中総合42位という望外の好成績をおさめたのだった。
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今年もプロジェクトは継続
3班に分かれ、競技車に先行してサービスを行った学生たちも、初めての土地でさまざまな困難に見舞われながらも、無事に任務を遂行した。また、日本人であることに加えて学生チームによるヒストリック・モンテ参戦は初めてということもあって、行く先々で取材攻めにあうオマケもついたという。
プロジェクトに参加した学生たちは「プロジェクトを通じて他人とのコミュニケーション、チームワークの大切さを学んだ。大変だったけれど、なんとも濃密で充実した1年間だった。スポンサーをはじめ、支えてくれた方々に深く感謝したい」と口をそろえて語った。
草加教授によれば、当初は「草加が自分の趣味で学生たちを走り回らせてる」といううがった見方も学内にあったそうだ。しかし、終わってみれば参加した学生たちの成長ぶりがほかの教授連にも伝わり、「草加にしかできない、すごい授業だった」という高評価に変わったという。
「参加した学生たちは、間違いなく『人間力』を身に付けた。ものづくりを通じて人間力を鍛えることはプロジェクトのテーマのひとつであり、ラリーがその場にふさわしいことが明らかになった」
その結果、車種や参加するラリーは未定だが、今年もメンバーを入れ替えてプロジェクトを継続することが認められたそうだ。
報告会が終了した後、学生たちとしばし歓談した。「若者のクルマ離れ」が語られるようになって久しいが、こうしたプロジェクトに参加するだけあって、彼らはこちらがいささか驚くほどのクルマ好きだった。「先週、富士のドリフトコースで、ハチロクで勢い余ってつっこんじゃいました〜」などと楽しげに語る姿は、東大生といえどもその辺のクルマ好きのお兄ちゃんとまったく変わらない。
絶対数こそ多くはないだろうが、草加教授が言う「ものづくり大国ニッポンを背負って立つ」であろう若者の中にも彼らのようなクルマ好きがいることを、旧世代のクルマ好きとしては頼もしく思った。期待してますよ。
(文と写真=沼田 亨)
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沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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