マクラーレンGT(MR/7AT)
ストレートな変化球 2020.03.11 試乗記 新たなスポーツカー像を提案するというマクラーレンのニューモデル「GT」に試乗。利便性の高さが特長とされ、グランドツアラーを示す名称が与えられてはいるが、その走りのパフォーマンスはスーパースポーツで知られるメーカーの名に恥じないものだった。座っただけでも非日常
黄金色のマクラーレンGTのディヘドラルドアを跳ね上げて、車内に乗り込む。Dihedralとは、「上反角」という意味で、飛行機の翼端の角度のことをいうらしい。そのディヘドラルなドアは、ボディーの四角いボタンを押すと、ぷかりと浮き上がり、適当なところをつかんで引き上げると、ごく軽い力でそのまま跳ね上がる。油圧が大きなドアを押し上げているのだ。
ドアが跳ね上がると、カーボンのバスタブの部分がサイドシルとして残るから、写真で見ると、「ロータス・エリーゼ」に乗り込む並みに乗り降りが大変のように思えるけれど、全然そうではない。エリーゼは、それが長所でもあるけれど、ボディー全体がちっちゃい。エリーゼはホイールベースが2300mmしかない。マクラーレンGTは2675mmある。375mmの差が大きな差になっている。
試乗車の内装は白と黒の2トーンだけれど、どうしたって白いほうに目がいく。白いレザーは汚れちゃうので、いかにもぜいたくである。でも汚れを気にしていると座れないので、もうしわけないけれど、座っちゃう。シートは座ると見えなくなるので、白いことは忘れ得る。ドアのほうを眺めると、普通の前ヒンジのドアだと、ドアが開いている状態でも、ヒンジの近くは比較的に閉まっているわけである。でも、ディヘドラルドアだと、ボディーがヘラでスッポリ切り取られたみたいにサイドシルの断面が見えて、地面、ないしは隣のクルマのボディーの下のほうが目に入ってくる。非日常的で、新鮮な景色だ。
ドアを閉めて、ドアミラーを確認すると、リアのエアダクトが映っている。四角形のダクトがボディーからはみ出していて、「フォードGT」乗ったことないのに、フォードGTに乗っているような気分になる。映画『フォードvsフェラーリ』を見た影響かもしれない。
コックピットはモダンで機能的、だけれど、なにがどこにあるのか、わかりにくい。オーナーのみぞ知る、というつくりになっている。エンジンのスタートボタンは、センターコンソールの前方付近にある。なので、そのボタンを押す。そうすると、M840TEと呼ばれる、マクラーレンの90度3994cc V型8気筒DOHC 32バルブ+ツインターボチャージャーが爆裂音をあげて、目覚める。
「620GT」というべきマシン
センターコンソールの、通常だったらパーキングブレーキのレバーがあるあたりに並ぶD、N、Rの3つのスイッチのうちのDを押す。7段のシームレスシフトギアボックス(SSG)がDレンジに入り、アクセルを軽く踏めば、パーキングが自動的に解除となって、マクラーレンGTはスルスルと走りだす。
乗り心地は快適だけれど、マクラーレンとしては意外と硬いのではないか。というのも、2019年、「マクラーレン570GT」に富士スピードウェイで試乗したおり、その快適性の高さに驚いた記憶があるからである。570GTは最高出力570PSと600N・mを発生する、3799㏄のV8ツインターボを搭載し、最高速328km/h、0-100km/h加速3.4秒を記録するというスーパーカーで、車重は1498kg(DIN)しかない。タイヤのサイズは前225/35R19、後ろが285/35R20で、私が指摘できるのは、マクラーレンGTはより高出力で、よりタイヤが太くて大きいということである。
570GTがマクラーレンの“スポーツシリーズ”であるのに対して、マクラーレンGTは、そのひとつ上の“スーパーシリーズ”の「720S」をベースにしている、と推測される。720Sは3994㏄のV8ツインターボを搭載している。こちらの最高出力は720PS、最大トルクは770N・mで、排気量が200㏄ほど異なるだけだけれど、570GTよりも一枚上手の性能を発揮する。2670mmというホイールベースはマクラーレンGTより5mmだけ短い。つまりマクラーレンGTというのは、スーパーシリーズのカーボンモノコックのリアの上端を改造して、排気管等の位置を工夫して、エンジンの上に荷物を積めるようにした720Sなのだ。
一応、エンジンはデチューンしていて、最高出力は620PS/7500rpmに、最大トルクは630N・m/5500-6500rpmにとどめられている。なので、勝手にマクラーレンの呼称に従って命名すると、「620GT」ということになる。前後オーバーハングを延ばして荷物を載せられるスペースをつくった代償として、車重が720Sの1419kg(DIN)に対して、GTは1530kg(DIN)と100kg以上も重くなっている。ボディーの全長が140mmも延びているのだから致し方ない。
荷物の積載量に耐えるためなのか、いや、デザインのバランス上でだろう、タイヤサイズを、720Sが前245/35ZR19、後ろ305/30ZR20なのに対して、前225/35ZR20、後ろ295/30ZR21と、前後ともに若干細くする一方、1サイズ大径化している。
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意外とスーパースポーツ的
前述したように、乗り心地の第一印象は、従来のマクラーレンのレベルから申し上げて、乗り心地がちょっと硬い。若干の突き上げを感じる。とはいえ、基本的にはストローク感があって、快適といえる範囲ではある。筆者は実は720Sに乗ったことがないので、720Sとの比較ではなんとも申し上げられないのですけれど、GTを名乗る割には意外と硬派なグラントゥーリズモなのだ。
背後のV8ツインターボはコンフォートモードで普通に走っていると2000rpm程度でシフトアップしていく。100km/h巡航は7段SSGのトップで1500rpm程度である。蛮勇を奮って、コンフォート、スポーツ、トラックからなるドライブモードをスポーツにして、トラックは、ま、ちょっとやめておいたわけですけれど、アクセルを床まで踏みつけた、と想像してほしい。
タコメーターの針が3000rpmを超えるとガオオオオオッと背後のV8ツインターボが叫び始め、4000から5000まではアッという間、5000から上でターボがもう1段、グワッと加速させ、上昇カーブを描いてトンデモナイ速度に達する前に、ハッとわれに返る。
狂気の沙汰ともいえる。もはや公道で試すことは不可能な性能を持つスーパーカーに、185cmのスキー板2セットとブーツ、あるいはゴルフバッグと手荷物を収納できる荷室を設けたというのだから。だって、ゴルフバッグはともかく、スキー板を積んでスキー場までの雪道を行けるのだろうか? 暖冬だから大丈夫か……。
引かれるところもさまざま
マクラーレン・オートモーティブは2018年7月、「トラック25」と名付けた中期経営計画で、2025年までに派生モデルを含む新型車を18車種導入すると発表している。2020年のいま、残り何車種になったのかつまびらかではないけれど、マクラーレンGTはこのプログラムから生まれたプレタポルテなのだ。カーボンモノコックとV8エンジンを使ってつくった新しいモード。こういうのはいかが? という新しいファッションを毎年、数台のペースで精力的に送り出すという大胆な戦略である。
創業10年を迎えて、ようやく累計販売台数が2万台に達した小さなスーパーカーメーカーである。前後ボンネットの建て付け等、明らかに要改善のポイントは、試乗車が生産初期モデルゆえだろう。そういうのはささいなことで、マクラーレンの魅力というのは、工業製品としての完成度よりも、サーキットで披露するのと同様のチャレンジスピリットにこそある。
荷室といえば、初代「ポルシェ・ボクスター」の国際試乗会のときだから1996年、かれこれ四半世紀前、当時の輸入代理店のミツワの広報のアイハラさんのことを思い出す。ポルシェ久々のミドシップスポーツカーの前後の荷室を巻き尺で測りながら、アイハラさんは「ゴルフバッグが入らないとダメなんですよ」と言っておられた。ゴルフとは無縁の私は、そういうものなのか……と初めて知った。ということは、ゴルフ好きのスーパーカー好きにとってマクラーレンGTは、私には見えない金ピカの魅力を放っているのかもしれない。
で、終わろうと思ったのだけれど、後日、広尾のマクラーレンのショールームの前を通ったおり、ブラックのマクラーレンGTが展示してあって、ブラックだとボディーが引き締まり、精悍(せいかん)で、ちょっとフォードGTを思わせるクラシックさがあって、これなら欲しい、と私は思った。
車両価格は2645万円。フェラーリのエントリーモデル「ポルトフィーノ」の2631万円より少々お高く、新しい2+2クーペ「ローマ」の2682万円より、こころもちお求めやすい。夢のあるお話です。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
マクラーレンGT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4683×2045×1213mm
ホイールベース:2675mm
車重:1466kg(乾燥重量)/1530kg(DIN)
駆動方式:MR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:620PS(456kW)/7500rpm
最大トルク:630N・m(64.2kgf・m)/5500-6500rpm
タイヤ:(前)225/35ZR20 90Y/(後)295/30ZR21 102Y(ピレリPゼロ)
燃費:11.9リッター/100km(約8.4km/リッター WLTPモード)/10.8リッター/100km(約9.3km/リッター 欧州複合モード)
価格:2645万円/テスト車=3256万4000円
オプション装備:パックスP22 Luxe(178万3000円)/プレミアムパック(91万7000円)/MSOブライトパック(81万5000円)/エクステリアエリートペイント(66万3000円)/エレクトロパノラミックルーフ(101万9000円)/15スポーク鍛造ホイール(51万円)/ポリッシュドキャリパー<ブラックロゴ>(18万9000円) ※以下、販売店オプション カーカバー(8万7000円)/バッテリーチャージャー(3万4000円)/ラゲッジリテンションストラップ(9万7000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:5584km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:283.0km
使用燃料:39.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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