各社がそろってライバル視 「ホンダN-BOX」はどこがどうスゴイのか!?
2020.03.11 デイリーコラム負け組だったホンダの軽
Cセグメントのクルマで世界基準となっているのは、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」である。初代から最新モデルまで、一貫してその地位を守り続けてきた。ライバルと目されるモデルのエンジニアは、必ずゴルフの名を挙げて自分のつくったクルマの優位性を主張するのだ。
軽自動車の世界にも、同じような状況がある。軽スーパーハイトワゴンの業界基準は、間違いなく「ホンダN-BOX」である。当然だろう。2014年から5年連続で軽自動車販売台数1位となっているのだ。登録車を含めても、2017~2019年で3年連続1位という快挙を達成した。2019年に販売されたN-BOXは25万3500台。登録車を含めても第2位だった「ダイハツ・タント」は11月の月間販売台数で久しぶりに首位になったが、年間を通してみると17万5292台で、N-BOXには大きく水をあけられている。
第3位は16万6389台の「スズキ・スペーシア」だった。これも登録車を含めても第3位だ。つまり、軽スーパーハイトワゴンが表彰台を独占したのだ。日本で販売される乗用車の約4割が軽自動車で、その半分をスーパーハイトワゴンが占める。子育て世代から老後のダウンサイザーまで、満遍なくカバーする国民車的ジャンルなのだ。その中で、なぜN-BOXが絶対的王者であり続けているのか。軽自動車規格でサイズも出力も上限が定められているから、性能的には大きな差は生まれないはずである。
以前のホンダは、むしろ軽自動車では負け組だった。3代目「ライフ」は派生モデルの「ダンク」がゴツいルックスでそこそこの人気を得ていたが、4代目になると中途半端なフェミニン路線に変更して販売が激減。ターゲットをとらえられずに迷走していたのである。2003年にタントが登場して好評を博していたのに、ホンダには対抗するモデルがなかった。
燃費バトルには参戦せず
初代N-BOXがデビューしたのは、2011年である。開発を主導したのは、1980年代にF1マシンのエンジンを開発していた浅木泰昭氏。まったく異なるジャンルのようだが、以前インタビューした時に「レギュレーションがあって、その中で戦うということは共通です」と答えていた。制約があるからこそ技術力が発揮できるとも話していて、軽自動車規格の中で何ができるかを徹底的に考えたのだろう。その結果、スーパーハイトワゴンの強みを最大限に生かしたモデルが誕生したのだ。
当時は、燃費競争が主戦場だった。リッターあたりコンマいくつという数字を競い合っていたのである。しかし、N-BOXは燃費競争からは一歩身を引き、室内の広さやユーティリティー、乗り心地や見た目の立派さなどを突き詰めていった。この判断が正しかったのだと考えられる。燃費性能は一昔前と比べれば飛躍的に向上しており、ユーザーにとっては最優先事項ではなくなっていた。他メーカーも、今では燃費の数字を前面に出してアピールすることはなくなっている。
コンセプトの新しさで優位を築いたN-BOXだが、もちろんライバルたちも指をくわえて見ているばかりではない。タントは2代目から採用されている「ミラクルオープンドア」を磨き上げ、乗降性のよさを強調する。存在感の薄かった「スズキ・パレット」はスペーシアに改名し、室内の広さを強く打ち出した。しかし、N-BOXの牙城はなかなか崩せない。チャンスがあるとすれば、N-BOXが2代目となった時だったはずだ。
デファクトスタンダードである強み
首位の座を保ち続けたN-BOXは、2017年にフルモデルチェンジする。他メーカーの願いはむなしく、一切のスキを見せなかった。プラットフォームとエンジンを一新するという荒業を繰り出したのだ。エクステリアデザインはキープコンセプトで、ライフの時の失敗は犯さない。「助手席スーパースライドシート」を採用し、シートアレンジの多彩さもウリにする。
他社に明確な差をつけたのは、先進安全装備「ホンダセンシング」を全車に標準搭載したことだ。英断である。それによって10万円以上値上がりしてしまうが、問題ないと判断した。先進安全装備はすでに必須アイテムになっていると考えたのだろう。またもや攻めの姿勢が奏功する。一部レスオプションもあるが選ぶユーザーはほとんどなく、安全を重視したことがさらなる販売増につながったのだ。
しかし、である。他メーカーも安全性能を高めているのは同じだ。ほかの面でも魅力を高めるためにさまざまな策をとっている。スペーシアはSUVライクな内外装を持つ「スペーシア ギア」を投入して、デザイン面で差別化を図った。2019年に4代目となったタントは新世代プラットフォームを採用し、「ミラクルウオークスルーパッケージ」と全車速対応のアダプティブクルーズコントロールで魅力アップ。新エンジンと「デュアルモードCVT」で走行性能も向上させている。
それでも、N-BOXは快調に首位を走り続けている。タントもスペーシアも、性能やルックスで見劣りするとは思えない。N-BOXが一人勝ちしている現状は、機能や装備が突出しているといった合理的な説明が難しいのだ。デビューから10年となり、N-BOXこそがこのジャンルの王道だというイメージが広まったことが強みとなっているのだろうか。売れていることが売れる理由になっているのである。日産・三菱連合も新型スーパーハイトワゴンを発表し、競争はますます激しくなるだろう。しかし、デファクトスタンダードであることは、圧倒的なアドバンテージである。“軽自動車界のゴルフ”たるN-BOXを追撃するのは簡単ではない。
(文=鈴木真人/写真=本田技研工業、ダイハツ工業、スズキ、日産自動車、三菱自動車/編集=藤沢 勝)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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