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軽乗用車と軽商用車はどう違う? ホンダの「N-BOX」と「N-VAN」で検証する

2022.03.16 デイリーコラム 渡辺 陽一郎

乗用車ベースの商用車

2021年12月にフルモデルチェンジを受けたダイハツの「アトレー/ハイゼット カーゴ」は、軽自動車の商用バンに属する。ライバル車の「スズキ・エブリイ」も含め、エンジンを前席の下に搭載する。乗用車とは違う独自のプラットフォームが必要だが、荷室長を長く確保することが可能だ。

一方、ホンダの「N-VAN」は、外観からも分かるように乗用車の「N-BOX」をベースに開発された。以前はエンジンを荷室の下に搭載して後輪を駆動する専用設計の「アクティバン」を用意したが、これを廃止してN-VANを投入している。

専用設計を廃止した理由は、開発と製造のコストが高いからだ。2015年の時点で、ハイゼット カーゴは1カ月平均で4900台(他社に供給するOEM車も含めると5800台)を届け出したが、アクティバンは「バモスプロ」やワゴン仕様の「バモス」まで含めても1150台と少なかった。これでは薄利多売の軽商用車としては成り立たず、その後にアクティバンは廃止され、大量に売られるN-BOXと基本部分を共通化するN-VANが開発された。

ただしN-BOXがベースのN-VANは、エンジンを室内空間の前側に搭載するから、軽商用バンとしては荷室長が短い。以前のアクティバンは荷室長が1725mmあったし、新型アトレーでは1820mmにも達するが、N-VANは1510mmだ。アクティバンと比べても200mm以上短い。

これではアクティバンのユーザーがN-VANに乗り換えた場合、以前は運べた荷物が積めなくなることも考えられる。N-BOXをベースにN-VANを開発すると、コストを大幅に抑えられる代わりに、荷室長の不足という軽商用車では致命的な欠点を抱えることになるのだ。

そうなるとN-VANは、荷室長の欠点を補える特徴を備えねばならない。ちなみにかつてのダイハツは、軽乗用車の「ウェイク」をベースに、後席を取り去った軽商用バンの「ハイゼット キャディー」を開発したが、まったく売れなかった。つまりN-BOXを単純にバンに変更しても、軽商用車としては成立しない。

新型「ダイハツ・アトレー」。先代モデルでは「ハイゼット カーゴ」が商用、アトレーが乗用と分けられていたが、全車が商用車に一本化されている。
新型「ダイハツ・アトレー」。先代モデルでは「ハイゼット カーゴ」が商用、アトレーが乗用と分けられていたが、全車が商用車に一本化されている。拡大
ホンダの新しい軽商用車「N-VAN」は「N-BOX」がベース。「アクティバン」などとは異なり、エンジンをフロントに積んだFFパッケージだ。
ホンダの新しい軽商用車「N-VAN」は「N-BOX」がベース。「アクティバン」などとは異なり、エンジンをフロントに積んだFFパッケージだ。拡大
ニッポンのベストセラー軽乗用車「N-BOX」。2021年末の改良でパーキングブレーキが足踏み式から手動スイッチによる電動式に変更された。
ニッポンのベストセラー軽乗用車「N-BOX」。2021年末の改良でパーキングブレーキが足踏み式から手動スイッチによる電動式に変更された。拡大
ホンダ N-BOX の中古車

N-VANの後席は補助席

そこでN-VANは、N-BOXをベースにいろいろな工夫を施した。まず後席は、N-BOXよりもコンパクトに格納できる。後席の足場が床に埋め込むように内蔵され、座面と背もたれを倒すと荷室の床とほぼ同じ高さになる。加えて助手席も後席と同様、床面へ落とし込むように畳まれ、1人乗車時には運転席の周囲をすべて平らな荷室として活用できる。

その結果、畳んだ助手席の部分から測った最大荷室長は、2635mmにも達する。丸めたカーペットのような幅が狭くて長い荷物なら、助手席を畳めないアトレーやエブリイよりも、N-VANのほうが積みやすい。

また左側は、中央のピラー(柱)をドアに内蔵させた。従って前後のドアを両方ともに開くと、開口幅が1580mmに達する。ダイハツの「タント」も同様の機能を備えるが、開口幅は1490mmだから、N-VANのほうがワイドだ。

つまりN-VANは、右側のスライドドアやリアゲートを含めて開口部がとても広い。大勢のスタッフがN-VANを取り囲み、比較的小さな荷物を一気に積み降ろしするような用途にも適する。これらの機能は、ベース車のN-BOXと比べた時の優位点でもある。

その代わりN-BOXに劣る点も多い。後席と助手席は小さく畳む機能を優先させたから、座り心地はかなり硬い。片道30分以上の距離を移動する場合、乗員が疲労を感じないで済むのは運転席だけだ。

また商用車の規格では、後席よりも荷室の面積が広くなければならないため、後席の足元空間も狭い。身長170cmの大人4人が乗車した場合、N-BOXであれば、後席を後端までスライドさせると膝先には握りコブシ4つぶんほどのスペースがある。

しかしN-VANでは、膝先が前席の背面に接近して、握りコブシが1つも収まらない。しかも背もたれが直立しているから、着座姿勢も窮屈だ。前述のように座り心地も悪く、後席は荷室に装着された補助席のような存在になる。快適装備も異なり、スライドドアの電動機能などは、N-VANには装着できない。

「N-VAN」ではセンターピラーをフロントドアと一体化し、最大1580mmの開口幅を実現。テールゲート側と合わせて複数人数で荷室スペースにアクセスできる。
「N-VAN」ではセンターピラーをフロントドアと一体化し、最大1580mmの開口幅を実現。テールゲート側と合わせて複数人数で荷室スペースにアクセスできる。拡大
「N-VAN」のシート。助手席も後席も格納して荷室スペースにすることを前提としているため、座面は薄くて硬く、なおかつ狭い。
「N-VAN」のシート。助手席も後席も格納して荷室スペースにすることを前提としているため、座面は薄くて硬く、なおかつ狭い。拡大
助手席と後席をすべて格納したところ。この状態の荷室長はライバル車を大きくしのぐ2635mmにも達する。
助手席と後席をすべて格納したところ。この状態の荷室長はライバル車を大きくしのぐ2635mmにも達する。拡大

コストメリットはほどほど

以上のようにN-VANは、使用目的を荷物の積載に絞り込んで開発された。4人で乗車したうえで荷物も積むようなニーズでは、N-BOXを絶対的に推奨したい。走りの面でもN-VANは、ステアリングの操舵感がN-BOXに比べると曖昧で、乗り心地も硬い。外観はN-BOXに似ていても、機能は大幅に異なるので慎重に選ぶべきだ。

価格は装備が似ていて比べやすいターボ同士で見ると、「N-VAN+スタイルファン ターボ」が173万9100円、「N-BOX・Lターボ」が177万8700円だから、同程度になる。

このほか軽乗用車と軽商用車では、維持費などの違いもある。N-BOXのような乗用車は、購入後に最初に受ける車検は3年後だが、N-VANなどの軽商用車は最初から2年ごとだ(ただし小型/普通商用車のような毎年車検にはならない)。

軽自動車税(自家用)は、乗用車が年額1万0800円、軽商用車は5000円と安いが、任意保険料については、軽商用車は加入の仕方によって年齢条件などの割り引きを受けられないことがある。従って軽商用車の維持費が必ずしも安くなるとは限らない。そこに先に述べた後席の居住性の違いなども含めると、N-VANの機能をしっかりと使いこなせるユーザー以外は、乗用車のN-BOXを選ぶべきだ。

(文=渡辺陽一郎/写真=ダイハツ工業、本田技研工業/編集=藤沢 勝)

「N-BOX」の室内の様子。見てのとおり助手席と後席のシートは「N-VAN」とは比べ物にならないほど上質で、後席は左右個別にスライドとリクライニングが可能。
「N-BOX」の室内の様子。見てのとおり助手席と後席のシートは「N-VAN」とは比べ物にならないほど上質で、後席は左右個別にスライドとリクライニングが可能。拡大
さまざまな条件を勘案すると、普通のユーザーは「N-BOX」を選んでおけば間違いがない。
さまざまな条件を勘案すると、普通のユーザーは「N-BOX」を選んでおけば間違いがない。拡大
渡辺 陽一郎

渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。

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