ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィーPHEV(4WD/8AT)
砂漠の王者の余裕と焦り 2020.03.18 試乗記 ランドローバー伝統の最上級SUV「レンジローバー」に設定されたプラグインハイブリッドモデル「オートバイオグラフィーPHEV」に試乗。EUの厳しい排ガス規制に対応すべくパワーユニットの電動化を推し進める同ブランドの戦略と、その走りをリポートする。2リッターターボ+モーターのPHEV
お恥ずかしい話だが、実は走りだすまですっかり新しいマイルドハイブリッド(MHEV)のレンジローバーだと勘違いしていた。さすがに動き出しは滑らかでしかも力強いが、MHEVにしてはずいぶんと強力なモーターを使っているのかな、でもエンジンがかかると6気筒らしくないビートが伝わってくるな、などと的外れの印象を頭の中でぐるぐるめぐらしながら走ることしばし、EVモードが選べることに気づいた。なんだ、そうだったのか。
昨2019年末に「レンジローバー スポーツ」に新型3リッター直6ターボエンジンと48Vシステムを備えたMHEVが投入されたばかりなので紛らわしいが(言い訳です)、こちらは300PSを発生する2リッター4気筒ターボに142PSを生み出す電動モーターと容量13kWhの駆動用バッテリー、そして外部充電システムを備えたプラグインハイブリッド(PHEV)モデルである。
すでに2年近く前に国内発表されたモデルだが(レンジローバーとレンジローバー スポーツに設定)、ようやく試乗できる機会がめぐってきたというわけだ。ご存じのように、2019年に発売された2代目の「イヴォーク」にも、4気筒ターボの「インジニウム」エンジンに48Vで駆動されるBISG(ベルトインテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を備えたマイルドハイブリッド仕様が設定されている。ランドローバーはいわゆる“電動化”モデルを続々と拡充中なのである。
ペナルティーを避けたいのは皆同じ
万能高級SUV(と本当は呼ばれたくはないだろうが)のパイオニアであるレンジローバーも今年で生誕50年である。かつては砂漠のロールス・ロイスとあだ名されたものだが、本家ロールス・ロイスが「カリナン」を投入するに至って、その通称も取り下げなければならなくなった。半世紀の間に自動車界もすっかり様変わりして、プレミアムSUVはもう当たり前だし、巨大なSUVについてもCO2削減は待ったなしである。
とはいえ、そもそも全長5m全幅2mの巨大で重い4WD車(V6ディーゼルターボ仕様でも2640kg)をPHEV化しても、どれほどの効果があるのかと疑問を抱く人も多いだろう。しかしながら、欧州勢には少しでも温室効果ガスを削減しなければならない切実な事情がある。
一足飛びに内燃エンジン自動車がバッテリー電気自動車(BEV)に切り替わるというシナリオが現実的でないことはもはや明らかだろう。こう言うと、EV推進派の皆さんからは「ガソリンエンジンの肩を持つ守旧派」と攻撃されるが、「すべてのモデルをいついつまでに電動化します!」と勇ましい発言をしているメーカーも、「電動化=ピュアEV」であるとは明言していないのが実情だ。
それでも、厳しい目標は待ったなしに目の前に迫っている。EUのCO2排出基準(企業別平均値)は現行で130g/kmだが、2021年には95g/kmに削減することが求められており、さらに2030年には60g/kmに引き下げられる予定だ。日本ではこれまで重量区分別の基準が用いられてきたが、2020年度からは同様の出荷台数平均値が導入されることになっている。
CO2排出量は64g/km?
切実なのは、現状でも超過分に対しては販売台数一台につきグラムあたり95ユーロのペナルティーが科せられているはずだから、各メーカーはすでにかなりの罰金を支払っているということだ(どのメーカーも詳細を明らかにしていないが)。少しでもペナルティーを減らしたいのは言うまでもないが、同時に従来の内燃エンジンだけでは今後の規制値をクリアできないことも明白である。
しかも生産しただけではなく、販売・登録されることが条件で、PHEVやBEVを高い価格で売り出しても実際に売れなければ平均値には算入されない。ある日本メーカーのパワートレイン開発担当役員から聞いた話だが、今や「売れないと分かっているクルマをつくるか、あるいはペナルティーを払うか、いずれにしてもかなりの金額を覚悟しなければならない」という状況なのだという。
そこでCO2排出量64g/km(NEDC値)を誇るレンジローバーPHEVが重要になってくる。ちなみに「トヨタ・プリウスPHV」のCO2排出量は(計測モードが異なるが)だいたい60~70g/kmである。プリウスと同じぐらいなの? と驚くのは当然ながら、これにはもちろん訳がある。
ご存じの方も多いと思うが、EUの現行モードではPHEVの場合、ハイブリッド走行時の排出量を「(25km+EV走行距離)÷25km」という計算式で求めた削減係数で割った数字が排出量とみなされる。すなわち電池だけで25km走れる性能を持っていれば(25+25)÷25で係数は2となり、ハイブリッド走行時のCO2排出量をそれで割ると半分になる。レンジローバーPHEVのEVモードでの最大航続距離は41.4km(WLTCモード。発表時は51kmとされた)だから、実際のCO2排出量のほぼ3分の1として扱われるのだ。
この算出方法には批判もあるが、ヨーロッパのとりわけブレミアムブランドは、平均値低減に効果大のこのルールを活用するPHEVのラインナップを拡充している。もともと価格が高くても納得してもらえるプレミアムブランドにとって有利なルールであることは言うまでもない。
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ますます遠い存在に
300PS(221kW)/5500-5900rpmと400N・m(40.8kgf・m)/2000-4500rpmを生み出す2リッター直4ターボエンジンに142PS(105kW)のモーターを備えたレンジローバーPHEVのシステム合計出力は404PSと640N・mとされ、特に最大トルクはV6ディーゼルターボやガソリンV8スーパーチャージドユニットを凌(しの)ぐほど強力だ。
当たり前だが、実用域では滑らかにモリモリとトルクがあふれ、思う通りに加速してくれる。0-100km/h加速は6.8秒というから、車重2.6t超(オプション満載のこの車両は車検証値2720kg)の巨体にしてはかなりの俊足。モーターの支援効果が大きい速度域を超えるとやはり重さを感じざるを得ないが、日本の平均的交通環境ならば不満を覚えることはないだろう。
それ以外はいつもの安心快適で優雅なレンジローバーである。いや、もうひとつだけ、駆動用バッテリーをフロア下に収めるためにラゲッジスペースのフロアが5cmほど盛り上がっており、その分荷室容量は少なくなっている。ガソリン車のスタンダードシート仕様の標準900リッター/最大1943リッターから98リッターほど減るというが、そもそも十分なのであまり気にならないはずだ。
ちなみに普通充電のみだから、電源完備の大きなガレージなど使用環境が整っている人には使いこなせるはずだが、価格を考えても庶民の手からはさらに遠くなってしまった。もっとも、レンジローバーとはもともとそういうクルマである。
(文=高平高輝/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィーPHEV
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5005×1985×1865mm
ホイールベース:2920mm
車重:2680kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:300PS(221kW)/5500-5900rpm
エンジン最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2000-4500rpm
モーター最高出力:105kW(142PS)
モーター最大トルク:275N・m(28.1kgf・m)
システム最高出力:404PS(297kW)
システム最大トルク:640N・m(65.3kgf・m)
タイヤ:(前)275/45R21 110W M+S/(後)275/45R21 110W M+S(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3 SUV)
燃費:8.8km/リッター(WLTCモード)
価格:1831万円/テスト車=2300万6440円
オプション装備:ボディーカラー<アルバ>(10万1000円)/セキュアトラッカー(9万9000円)/インテリアトリムフィニッシャー<アルジェントピンストライプ>(27万8000円)/ドライバーアシストパック(34万4000円)/イオン空気清浄テクノロジー(1万9000円)/アクティブリアロッキングディファレンシャル(18万7000円)/シャドーエクステリアパック(17万1000円)/ヘッドアップディスプレイ(19万3000円)/スライディングパノラミックルーフ(6万1000円)/ブライトメタルペダル(3万1000円)/フロントフォグランプ(3万2000円)/ピクセルレーザーLEDヘッドライト<シグネチャー付き>(14万3000円)/アクティビティーキー(6万2000円)/シグネチャーエンターテインメントパック(96万8000円)/ヘッドライニング<レザー>(45万1000円)/シートスタイル10 24ウェイフロントシート<ヒーター、クーラー、ホットストーンマッサージ機能付き>&エグゼクティブクラスコンフォートプラスリアシート(86万3000円) ※以下、販売店オプション デプロイアブルサイドステップ(69万3440円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:2296km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:506.0km
使用燃料:68.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.4km/リッター(満タン法)/8.1km/リッター(車載燃費計計測値)