アルピーヌA110S(MR/7AT)/A110(MR/7AT)
スポーツカーのお手本 2020.03.20 試乗記 アルピーヌのピュアスポーツカー「A110」に、さらなる高性能バージョン「A110S」が登場。サーキットでステアリングを握った筆者は、速さだけを追い求めないチューニングの成果に、大いに感銘を受けたのだった。わかってる人のさじ加減
新生アルピーヌA110の高性能版が出ると聞いて、せっかくのクリーンなボディーにニョキニョキとツノ……じゃなくてエアロパーツが生えたり、大きなウイングが後方視界を遮るようになったらどうしよう? と市井のいちファンとして心配していたのだが、杞憂(きゆう)でした。エンジンとサスペンションには手が入れられたけれど、シンプル&スタイリッシュなデザインはそのままだ。
「A110ピュア」と「A110リネージ」で構成される従来のラインナップに加わったのは、アルピーヌA110S。「“S”を名乗るなら、リアサスペンションはネガティブキャンバーがカッコいいスインググアクスルにしていただかないと」というエンスーすぎるクレームは捨て置いて、21世紀のA110Sを紹介するとポイントは3つ。エンジンのパワーを引き上げ、足まわりをスポーティーに硬め、新たにカーボンルーフを採用した。まっこと正当な高性能版である。
素晴らしいのは、全方位的にポテンシャルを上げたにもかかわらず、「走行会仕様!」とばかりにやりすぎることなく、日常使いをメインとしたチューンナップにとどめていること。ノーマルA110の、ロール大きめでしなやかなサスセッティングも、スポーツ走行時のわかりやすい挙動といかにもフレンチスポーツらしい乗り心地のよさが上手にバランスされていて大いにうならされたものだ。が、「スポーツ性が際立つダイナミックな走りとスタイリング」とうたわれるA110Sにサーキットで試乗する機会を得て、あらためてルノー・スポール……もとい! アルピーヌ開発陣の手腕に感銘を受けた次第です。パチパチパチ。A110Sの価格は899万円。804万6000円のピュアより94万4000円、844万4000円のリネージからは54万6000円高となる。
より軽く さらにハードに
ベーシックなA110とA110Sを見分けるのは簡単だ。本国ではオプション扱いとなるカーボンルーフが、日本仕様では標準となる。ノーマルルーフも樹脂製の軽量なものだったが、そのカーボン化によって1.6㎏の軽量化を果たした。トヨタがラリーマシンの「ヤリス」に関してカーボンルーフのモノコックを競技車両で使いたいがために、わざわざ「GRヤリス」を開発したことは記憶に新しい。車両の最も高い位置にあるルーフの軽量化は、ダイレクトに戦闘力に響くのだ。
1.8リッター直4ターボは、ピークパワー発生ポイントを6000rpmから6420rpmに引き上げたことで、最高出力を252PSから292PSへと40PSアップ。2000rpmから得られる320N・mの最大トルクはそのままだが、台形になるトルクカーブの上底が後ろに伸びたカタチだ。
サスペンションは、スプリング、ダンパー、そしてアンチロールバーとそれぞれが強化され、ざっくりノーマル比1.5倍の硬さとなる。スペック表記には反映されないが、車高も4mmほど下がっているという。
比較用に試乗させてもらったリネージから、Sに乗り換える。ドアを開けると、サベルト製の軽量モノコックのバケットシートが待っている。リネージのそれとは異なり、バックレストは角度調整に工具が必要な、実質的な固定式だ。シートの構造そのものはピュアと変わらないが、表面を覆う生地がレザーと起毛素材(マイクロファイバー)のコンビネーションとなっている。シート、ステアリングホイール、センターコンソールと、室内各部に施されたオレンジ色のステッチがSの証し。
違いははっきり体感できる
早速走り始めると、ピットロードからコースに出るまでの間で、すでに違いがハッキリわかる。4輪ダブルウイッシュボーンのサスペンションがシャキッとして、路面からの情報がよりストレートに伝わってくる。ステアリング操作に対するレスポンスも鋭い。通り雨が降ったあとのサーキットは軽いウエット路面だったが、かえってA110Sの特性が浮かび上がってよかった。
ステアリング、スロットルといったドライバーの操作に、これまで以上に機敏に、間髪入れず反応するので、微細なコントロールが利きやすい。タイトなカーブでは右足のわずかな動きでフレンチミドシップのリアをじんわりと振り出して姿勢をつくることができる。「もしかして自分、運転うまくなった?」と勘違いさせられるほど。開発中には、チューンの方向性として「ドライビングの精度向上」が掲げられたというが、まさにその通りだと思う。
タイヤは、40の偏平率と18インチの径は同じながら、ノーマルの前205/後235から、Sでは前215/後245と、前後とも1cm太くなっている。これが、チューンドサスペンションとのマッチングが抜群で、自然にクルマをスライドさせる余地を残していて、運転者を喜ばせてくれる。楽しい!
一方で、スポーツカーとしての素材のよさは、ドライバーの技量をも素直に結果として投影させる。前後重量配分44:56という良好なバランスを持つミドエンジン車ながら、やはりカーブの手前ではしっかりブレーキングしてフロントに荷重してやらないとキレイに曲がらないし、ノーマルと同じギア比のツインクラッチ式7段ATは、キチンと回転が落ちたのを見計らってパドルを引かないとシフトダウンしてくれない。雑にハンドルを切るとぶざまにアンダーステアを出して恥ずかしい思いをし、粗忽(そこつ)者はパタパタとパドルを何度も引いてギアが変わるのを待つことになる。どちらも、ワタシのことですが。
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おせっかいな装備もない
うれしいのは、スタビリティーコントロールのトラックモードがよく調教されていることで、ヘアピンでリアを振りすぎて「あわや!」という場面でも介入しなかった。おそらく最後の最後に手を差し伸べてくれるはずで、つまりは電子デバイスを意識することなく、サーキット走行を堪能できるわけだ。
日常とスポーツのはざまで、タイムやスペックではない、なかなか数字にできない「ドライバーを楽しませる」性能を追求する。スポーツカーを販売し続けるにあたって今後も難しい舵取りを迫られるアルピーヌだが、まずはA110Sでみごとなベンチマークを示した。
日本市場で用意されるカラーは、ホワイトとブルーのメタリック、そしてマット調のグレー。もしA110Sを購入する僥倖(ぎょうこう)に恵まれたなら、ブラックが追加されるのを待つかな。ルーフのカーボンブラックを目立たなくするために。
試乗を終え、クールダウンさせながらパドックに向かう途中で、そんな幸せな想像に浸った。ドライバーの背後からは、マイクで拾ったり、合成したものではない、“生”のエンジンサウンドとタービン音が響いてくる。スロットル操作に合わせて歌っている。新世代のワンテンほど、身近で息遣いが感じられるスポーツカーは珍しい。
(文=青木禎之/写真=三浦孝明/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
アルピーヌA110S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4205×1800×1250mm
ホイールベース:2420mm
車重:1110kg
駆動方式:MR
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:292PS(215kW)/6420rpm
最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)215/40R18 89Y/(後)245/40R18 97Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:12.8km/リッター(WLTCモード)
価格:899万円/テスト車=908万3500円
オプション装備:フロアマット(2万7500円)/ETCユニットキット<ブラック>(4万0700円)/リアトランクマット(2万5300円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:5082km
テスト形態:ロード&トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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アルピーヌA110リネージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4205×1800×1250mm
ホイールベース:2420mm
車重:1130kg
駆動方式:MR
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:252PS(185kW)/6000rpm
最大トルク:320N・m(32.6kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)205/40ZR18 86Y/(後)235/40ZR18 95Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:14.1km/リッター(JC08モード)
価格:844万4000円/テスト車=853万7500円
オプション装備:フロアマット(2万7500円)/ETCユニットキット<ブラック>(4万0700円)/リアトランクマット(2万5300円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:3072km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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