小型車の運転支援装備が飛躍的に進化!? ZFの前輪用電動パーキングブレーキの先進性
2020.04.01 デイリーコラム駐車中は使えない“油圧”
ドイツのパーツサプライヤーであるゼット・エフ・フリードリヒスハーフェン(以下、ZF)は、2020年3月12日に業界初となるフロント電動パーキングブレーキの市場投入を発表した。既存のパーキングブレーキは後輪を制動するのが常識であり、それに一石を投じるユニークな製品といえるだろう。
なぜ、これまでのパーキングブレーキは後輪用ばかりだったのだろうか。その名の通り駐車中に使うパーキングブレーキは、普通のブレーキとは違って油圧を使いにくい。エンジンが停止した後もずっとブレーキを利かせておかねばならないからだ。そのため、ワイヤーなどを使って物理的に動かし、機械的にブレーキを固定する。ワイヤーを引っ張るため、操舵で動く前輪よりも、固定されている後輪に搭載するのが自然な流れだ。
しかし、2000年代に入って新しい技術が生まれた。それが電動パーキングブレーキだ。ワイヤーではなく電動、つまりモーターでブレーキを利かせる。これにより、いくつものメリットが生まれた。
まず、ユーザーのメリットといえば、スイッチ操作だけで、確実に作動させることができる。つまり、サイドブレーキを力いっぱいに引く、という苦労がなくなるのだ。力の弱い方にはうれしいことだろう。また、解除を電気的にできるので、解除忘れによる「ブレーキの引きずり」を防ぐことができるのだ。
また、作り手側のメリットもある。サイドブレーキやフットブレーキといった、大きな操作用のレバーを小さなスイッチに代えることができる。室内空間に余裕が生まれるし、レイアウトの自由度も高まる。さらに、運転席から後輪までのワイヤーを敷設する必要がなくなる。つまり部品数が減るので、その分の重量減になるし、スペースにも余裕が生まれる。これらはすべてユーザーにとってのメリットでもある。
ただし、これがそのままコストダウンにつながるとは限らない。実際、電動パーキングブレーキの採用は、プレミアムな大型車から始まった。電動化にかかる費用が高かったのだ。また、初期の電動パーキングブレーキはディスクブレーキ用が主であったため、後輪にディスクブレーキを使う中型車以上を対象としていた。
メリットばかりの前輪用電動パーキングブレーキ
しかし、近年になって様子が一変した。それが先進運転支援システムの注目度アップと普及だ。特に重要だったのがアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)である。便利なACCだが、停止と再発進を繰り返す渋滞追従機能のような高度な制御に対応するためには、電動パーキングブレーキが基本的には必要だ。
だが、軽自動車のような小さなクルマは後輪に比較的安価なドラムブレーキを使うことが多い。先に書いた通り、従来の電動パーキングブレーキはディスクブレーキ用が主流。そこで、いくつかのメーカーがドラム用の電動パーキングブレーキを開発し、すでに採用が始まっている。リコールなどに見舞われたものの、新型「ホンダN-WGN」はドラム用の電動パーキングブレーキを搭載している。
しかし、ZFは違った道を選んだ。もともと同社は、2001年に後輪用の電動パーキングブレーキを世界で初めて実用化したTRWを、2015年に買収している。つまり、電動パーキングブレーキのパイオニアの流れをくんでおり、全世界で7800万台を超える車両にそのシステムを搭載してきたという。しかし、このシステムはディスクブレーキ用であり、コストにシビアな小型車には展開しづらいのは先に書いた通りだ。そんな状況で開発されたのが、「フロントディスクブレーキ用の電動パーキングブレーキ」ということになる。ZFジャパンの広報担当氏に聞くと「フロント電動パーキングブレーキはもともと、小型車などでコスト的な優位性のあるドラムブレーキを変更することなく、どうやって電動パーキング機能を付加するかを主眼に開発されました」という回答が帰ってきた。
前輪のディスクで電動パーキングブレーキを実現できれば、小型車は安価な後輪のドラムブレーキをそのまま利用できるというわけだ。しかもZFの新システムは、フロントブレーキキャリパーの構造を少し変更するだけで対応できるという。電子構成部品やソフトウエアは既存のESC制御ユニットに統合できるほか、後輪まわりのパーキングブレーキのシステム一切が不要になる。つまり、コスト的にも相当に優秀ということ。かかる荷重が大きい前輪(フロントエンジン車の場合)を制動するので、後輪のパーキングブレーキよりも、駐車中のクルマがより動きにくくなるというメリットもあるのだ。また、ライバルとなるリアドラムブレーキ用の電動パーキングブレーキに対しても、ZFのフロント用電動パーキングブレーキは「システムコストしては、ほぼ同等です」と広報担当者は胸を張る。
これまでの電動パーキングブレーキのメリットに加えて、コスト面や安全面での価値もプラスされるのが、ZFのフロント電動パーキングブレーキというわけだ。
これを機に、渋滞追従機能付きACCを搭載した小型車の開発が、より活発になることだろう。とりわけ日本では軽自動車に注目したいところだ。今後デビューする軽自動車に電動パーキングブレーキが採用されていたら、それが前輪用なのか後輪用なのかに注目したい(地味ですが)。
(文=鈴木ケンイチ/写真=ZFジャパン、トヨタ自動車、本田技研工業/編集=藤沢 勝)

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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