第651回:空いた時間はクルマのケアを ある旧車クラブから届いた「自動車好きの心得」
2020.04.17 マッキナ あらモーダ!“雇われマダム”ゆえに
イタリアでは、新型コロナ対策による外出制限の解除が再び後ろ倒しとなった。
ジュゼッペ・コンテ首相は2020年4月3日、国土封鎖の期限を5月3日まで延長する首相令に署名した。去る3月10日にひと月弱の予定で開始された外出制限は、2度の期間延長によって2カ月弱続くことになった。
そうした中、ある自動車クラブから筆者のもとに届いた「心得」を今回は紹介しよう。
その前にイタリアの最新情報を。
2020年4月の第2日曜日はイースターだ。警察は正当な理由なく外出する市民の取り締まりを強化した。特に市外への移動禁止を無視して別荘で過ごそうとする人々を警戒してのことだった。内務省によれば休暇直前の4月9日の一日で、全国で約10万人を摘発したという。
ただし、一般市民から政府に対して、強い抗議の声は上がらない。背景にはあまり減少しない死者数に対する警戒感とともに、現政権の性格があることは確かだ。
コンテ首相は1964年生まれ。弁護士でもある彼は1997年から大学の法学部で教鞭(きょうべん)をとっていた。
やがて2013年にポピュリズム政党「五つ星運動」が躍進すると、行政司法会議のメンバーとして迎えられた。
それまで無名の市中の人だったコンテ氏が脚光を浴びる契機となったのは、2018年の総選挙後だった。
五つ星運動が中道右派政党「同盟」との連立政権を樹立。しかし、双方の党首が首相の座を巡って3カ月近く争うという異常事態となった。妥協策として共和国大統領がとったのは、コンテ氏を首相に指名することだった。
連立は約1年で崩壊。各種政策で両党が対立し、同盟が離脱を表明したためだった。しかし2019年8月、代わりに中道左派政党「民主党」と共に立ち上げた新連立政権でもコンテ氏を選択。現在に至っている。
コンテ氏は本来学者であり、政治経験がなかった。限りなくテクノクラート(実務派)に近い人物が首相を務めていることになる。
しかしながら、政党色が強くない、いわば“雇われマダム”のコンテ政権は、この緊急時に無用な政治闘争を誘発しないという意味で、適切な政権ではないかと筆者は考えている。
仮に、若い政党である五つ星運動が単独で政権にあったら、既存の政党支持者からの反発は強まったであろう。
コンテ政権前期で連立にあった同盟は「すべての税金凍結」を訴えて支持を集めようとしているが、かつて過激な姿勢でイタリア北部の自治拡大を主張した政党だけに、他地域での警戒感は強い。
現在連立にある民主党も、単独で人気は保てない。彼らが主張する高額所得者を対象とした「コロナ復興税」も広い支持は得られていない。長年にわたる汚職・不正体質の印象が強いからだ。
かといって、あのシルヴィオ・ベルルスコーニ元首相が復帰したとしても、在任中と同じように警察機能の拡大を図り、反感を招いたであろう。
彼が掲げる「フラット税(あらゆる税率をすべて均等にする税制度)」の実現による経済活性化も、その実現性を疑問視する国民は多い。かつてユーロ通貨導入のときに電子換算機を全戸に配った彼のことだから、もし政権についていたら特製マスクを配布していたかもしれないが、もはやそうした“モノ”で人心を掌握することは難しい。
当然のことながら、コンテ政権に対する批判の声も存在する。4月10日に出された追加の営業許可業種が「文房具店、書店、新生児・幼児用衣料品店」のみだったことへの失望や、「国土封鎖を即座に解除しないとイタリア経済は壊滅してしまう」といった意見も向けられている。
鉄道や自動車のユーザーが政治に無関心ではいられない事態も連発している。新型コロナ禍が深刻化する直前の2020年2月には高速特急「フレッチャロッサ」が292km/hで走行中に突如脱線。運転士2人が死亡した。
先日4月8日には、筆者が住むトスカーナ州内で、県道の橋が全長300mにわたって突然崩落した。2018年8月、ジェノバで高速高架橋が落下した事故(本連載の第568回)に次ぐ重大事故だ。鉄道・道路網の安全確保は、この国が避けて通れない課題だ。
この非常時に、少なくとも低次元な言動やパフォーマンスで混乱を生じさせていないコンテ首相。新型コロナ禍収束の暁には、円滑な経済復興のためにも、交通インフラの刷新も忘れないでもらいたい。
ガレージに行こう
さて、本題である自動車の話に移ろう。
毎年この時期に行われているものといえば、自動車のツーリングイベントだ。
イタリアの4月は日本の春とは異なる。一日の気温の変化が激しすぎるのだ。本稿を執筆している日も、昼は24度まで上がり、向かいの家の若者は上半身裸になって日光浴をしている。いっぽうで朝晩は3度前後だ。家中ヒーターをつけなければならない。
一日を通して暖かくなるのは、5月の中旬である。かといって酷暑にはならない。
それは古いクルマにとって最も優しい季節だ。オープントップモデルしかり、クローズドルーフしかり。ドライブがそれほど苦行にならず、かつエンジンの水温にも負担にならない。沿道では木々の緑色が増し、クルマが通るたびにケシの花が揺れる。
いっぽう今年は、新型コロナの影響で「ミッレミリア」のような有名なイベントから、メイク別の小さなクラブまで、春のツーリングは軒並み延期、または中止を強いられることになった。
そうした中、ある自動車愛好家クラブからメールが届いた。往年のイタリア車であるアウトビアンキの歴代モデルをこよなく愛する人たちの団体「レジストロ・アウトビアンキ」のマルコ・レルダ会長が送り主だ。氏は数年前にイタリア公営放送局RAIのジャーナリストを定年退職し、今はクラブざんまいである。
タイトルは「家にいよう。ガレージに行こう」だ。文面は以下のように始まった。
「新型ウイルスが私たちの間や世界中でまん延し、科学者や保健機関がアクションを起こしています。私たちは規則を守らなければなりませんが、家族や家庭、趣味に、より多くの時間を割ける好機です。
自宅の書類を整理し、特にクルマに関する全書類が最新の状態になっているか確認しましょう。疑問がある場合は、私たちに知らせてください」
続いて「ガレージでは、あなたの美しいクルマを眺められますし、いくつかのケアを施すことができます。次のミーティングを待っているクルマの整備に、より注意を払ってもらうべく添付します」とつづられている。
添付ファイルには、次のようなアドバイスが記されていた。
前向きさに脱帽
「以下は、小さな引き出しやカバンに整理して入れておきましょう。必要なものを素早く見つけるためです。
- 予備の電球とヒューズのセット
- オルタネーターおよびウオーターポンプ用ベルト
- コンデンサーが付いたディストリビューター
- スパークプラグ
- バッテリーケーブル
- ブレーキオイル
- エンジンオイル
- スプレー式防さび・潤滑剤
- ステンレスバンドとさまざまなサイズのナイロンストリップ
- 絶縁テープ1巻およびダクトテープ1巻
- レンチ(6/8/10/11/13/14/17/19mm)、またはソケットレンチとエクステンションバー
- 細いワイヤを数m分
- プライヤーとグリッププライヤー
- カッターと電気工事用ハサミ
- マイナスおよびプラスドライバー(各サイズ。高品質の製品)
- 金属用糸ノコ
- さまざまな大きさのネジ、ボルト、ナット、ワッシャーが入った瓶
- 作動する懐中電灯(懐中電灯は必要なときには決して点灯しないものです!)
- 救急箱(慌てているときはケガをしてしまうもの)
- ポケットティッシュとウエットティッシュを各1パック
- 軽作業用手袋
- 簡単な軍手
- 車両が水冷式または液冷式(原文ママ)の場合は、ラジエーターホース一式と冷却系統水漏れ防止剤、補充用冷却液
- 車載ジャッキと、ホイールのボルトを外すレンチ(車載品よりいいのは、クロムバナジウム鋼のユニバーサルレンチ)
スペアタイヤの空気圧確認も忘れずに。
小型消火器も!」
メールの本文に戻ろう。
イタリアの自動車関連ウェブサイトで紹介されたイベントのリンクを張ったうえで「家族との貴重な時間に、過去にクラブが開催したミーティングにおける、あなたの素晴らしい経験を語ってあげてください」と結んでいる。
なんと前向きな現状の捉え方だ! かくもイタリア人の古いクルマ仲間たちのポジティブさを知ると、筆者まで困難を乗り越える元気が湧いてくる。
クルマが高級かどうかは関係ない。事実、アウトビアンキは「小さな高級車」をうたっていたものの、歴代モデルの中身はフィアットであった。
彼らにとっていつも大切なのは、どうクルマと関わり、いかに仲間と苦楽を分かち合うかなのである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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