ホンダCRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツESデュアルクラッチトランスミッション(MR/6AT)
欲張りな万能アドベンチャー 2020.04.30 試乗記 オン/オフを問わないマルチパーパスな走りが魅力の、ホンダの大型アドベンチャーモデル「CRF1100Lアフリカツイン」。従来モデルから扱いやすさやトータルバランスをさらに向上させたという新型の実力を、ハイテクを満載した最上級モデルで試した。ハイテクを直感的に使いこなせる
「ホンダの最新技術をフルに注ぎ込んで生まれたビッグオフローダー」。アフリカツインを一言で表現するとこうなる。今回試乗した上級モデル「アドベンチャーツアラー」のDCTモデルは電子制御サスペンションを装備しており、あらゆるステージで先進の走りを楽しむことができるマシンへと進化していた。
マシンにまたがって驚かされたのが左スイッチボックス。さまざまなマネジメントシステムをコントロールするため、まるでゲームのコントローラーのようになっているのだ。最初はどうなることかと思ったけれど、実際に使ってみると思いの外操作しやすかった。スイッチを減らしたマシンの場合は操作が難解で、マニュアルとニラメッコしないと走行モードの設定すら行えないものもあるが、アフリカツインの場合は大きなモニターを見ながら直感的な操作が可能だ。
ただ、これだけたくさんのスイッチがあると左のスイッチボックスを見ながら作業する必要がある。日中はいいけれど、夜間はスイッチボックスにもライトが欲しくなる。
1082ccのエンジンはスムーズかつ滑らか。絶対的なパワーよりもオフロードでの走りや扱いやすさなどを重視しているため、オンロードで全開にした時の加速はリッタースポーツバイクのように強烈なわけではないのだが、ストリートでも回し切ることができるためにストレスもないし、中速からパワーが盛り上がって気持ち良く伸びていくフィーリングがとても楽しい。一方で、低回転域を使ってノンビリ走る時も、ツインの排気音が小気味よく、トルクがあって扱いやすい。レスポンスも過敏でないから、のんびりツーリングのお供にも好適。マシンにせかされるような感じにもならない。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
素晴らしい出来栄えの電子制御サスペンション
組み合わされるDCT(デュアルクラッチトランスミッション)も、このマシンで大きく進歩している。ライダーが思った通りのタイミングでスムーズに変速してくれるし、ハイペースでコーナーに飛び込んでいく時は、ブリッパーが作動して見事にシフトダウンする。この時のフィーリングと排気音はまるでレーシングマシンに乗っているかのよう。つい気分が盛り上がってしまう。
このDCTをはじめ、最新アフリカツインにはいろいろと素晴らしい機構が用意されているが、一番の注目はなんといっても電子制御サスペンション「EERA(Electronically Equipped Ride Adjustment)」だろう。ライディングモードに応じてセッティングが変わり、例えば「ツアー」モードを選択すると、オンロードバイクを意識したハンドリングになるのである。さらにIMU(慣性計測装置)が走行状態を感知し、細かくサスペンションの設定を変化させる。コーナーの進入でハードブレーキングした時は減衰力が上がるため、オフロードバイクでネックになっていた減速時のノーズダイブも少ない。すごいのはオフロードでジャンプしたことを感知してサスペンションの減衰が瞬間的に立ち上がること。空中でセッティングが変わり、着地のショックに備えるのである。
このサスペンションのおかけで、アドベンチャーモデルでありながらワインディングロードではロードスポーツのような安定感と旋回性能を発揮。そこにオフロードバイク独特の軽快感が加わるのだから面白くないはずがない。ただし、ある程度スピードが出ている時のことを考えたセッティングになっているようで、低速域で走っている時はハンドリングが「少し重めかな」という感じはする。さらに極低速でバンクさせるとステアリングが若干切れ込むから町中だけを走ると少し気になる。個人的には電子制御サスの設定でこのあたりも変えられるのかいじってみたい。ただ、これもロードバイクから乗り換えた人などはまったく気にならない範囲のことだろう。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
電子制御がかなえた多才
オフロードはアフリカツインのまさに本領。このエンジンとサスのおかげで走破性は高く、DCTのおかげでシフト操作に気を取られることがない。クラッチもないから左手もしっかりとグリップを握っていられる。ABSとトラクションコントロールの完成度も秀逸。重量車のパワーを路面にたたきつけるようにして砂煙を上げながら走る爽快感は格別だ。ただし砂地は苦手。フロントタイヤが潜ってしまうと一気に車体の重量がのしかかってくる。マシンを降りてバックさせるのも砂に潜った状態では一苦労。アフリカツインでハードにオフを攻めるのなら、相応の体力も必要になる。そして、それもまた魅力なのである。
CRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツESは、マシン自体の完成度が高いことに加え、さまざまな電子装備のおかげで、ビッグオフローダーの魅力を損なうことなくロードスポーツ的な性格やツアラーの要素を組み合わせた欲張りなバイクに仕上がっている。しかも電子装備は単にイージーライディングをするためではなく、これまでのバイクにない楽しみを与えてくれている。素晴らしく魅力的なマシンである。
(文=後藤 武/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
![]() |
![]() |
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2310×960×1520mm
ホイールベース:1560mm
シート高:830mm
重量:250kg
エンジン:1082cc 水冷4ストローク直列2気筒SOHC 4バルブ
最高出力:102PS(75kW)/7500rpm
最大トルク:105N・m(10.7kgf・m)/6250rpm
トランスミッション:6段AT
燃費:32.0km/リッター(国土交通省届出値)/21.3km/リッター(WMTCモード)
価格:205万7000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。 -
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(前編)
2025.10.19思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル」に試乗。小さなボディーにハイパワーエンジンを押し込み、オープンエアドライブも可能というクルマ好きのツボを押さえたぜいたくなモデルだ。箱根の山道での印象を聞いた。 -
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】
2025.10.18試乗記「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。 -
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】
2025.10.17試乗記「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。