第618回:タフさが魅力の「三菱デリカD:5」 そのアシにピッタリのタイヤとは?
2020.04.22 エディターから一言![]() |
大胆なデザインチェンジからはや1年。ヘビーデューティーなミニバン「三菱デリカD:5」にあらためて試乗。あわせて装着したトーヨータイヤのSUV用タイヤ「オープンカントリーR/T」とのマッチングを、オンロードとオフロードでチェックした。
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付き合ううちに長所がわかる
初対面ではウマが合いそうにないと感じたのに、付き合ってみると意外にいいヤツで、まったく予想していなかったのにふたりで飲みに行くようになる──。こういう人間関係はなかなか味わい深い。
最初から気が合うに越したことはないけれど、「えっ、見た目と全然違う人柄だ」とか、「無愛想に見えたのは照れ屋だからだな」という発見があるのはおもしろい。意外と、こういう人のほうが付き合いが長くなったりもする。
これと似たような経験をしたのが、三菱デリカD:5だ。初めて見たときにはウマが合わないというか、最低、最悪だと思った。最初に見たのはプレスリリースの写真で、そのフロントマスクを見た瞬間に、このクルマをデザインした方に話を聞いてみたいと思った。
自動車デザイナーって、ジョルジェット・ジウジアーロが手がけた初代「フィアット・パンダ」に憧れたとか、ピニンファリーナの「ディノ」にシビれたとか、父が乗っていた「いすゞ117クーペ」がジマンでしたとか、そういうきっかけで志す職業ではないだろうか。それなのに、電気シェーバーのようなフロントグリルをデザインしてしまうなんて……。
ところが、である。まず最初に、クローズドコースでプロトタイプに乗った時に、フロントマスクへの嫌悪感は薄らいだ。急勾配の凸凹道をぐいぐい登っていく走破性能は、計算されつくしたデパーチャーアングルやアプローチアングルなどに裏打ちされたもの。中身はしっかりしているんだと感心する。オンロードでスピードを上げると、パリダカやWRCを席巻した三菱伝統の四駆技術にうならされた。がっちりグリップしながら、キュキュッと曲がる。うーん。
トドメは、北海道の雪上試乗会だった。絶対に登れないと感じた雪の壁(のように見えた)を、ジマンのヨンクとディーゼルエンジンのぶっといトルクを利してじわじわと進み、見事に登りきったのだ。登り終えた瞬間、雪の壁の頂上で写真を撮っていたカメラマン氏が、「ビクトリー!」と叫んだ。ディーゼルも四駆システムも、信頼感は抜群だ。
SUV用タイヤがよく似合う
あれから1年ちょっと。久しぶりに対面したデリカD:5の顔は、随分と見慣れたものになった。そんなにイヤだと感じなくなったのは、まじめに、タフにつくられた中身を肌で知ったからだろう。
大体において、ヘビーデューティーなミニバンというのは、世界的に見ても唯一無二の個性だ。中身が個性的だから、顔もほかとは違ったものになるのは道理だ。このクルマの顔に見慣れた理由は、もうひとつ思い当たる。それはマスクをした人の顔に慣れたからだと思う。このクルマの顔、見ようによってはマスクをした人の顔に似ていませんか?
で、久しぶりにデリカD:5に試乗した理由は、トーヨータイヤの「オープンカントリーR/T」というSUVやクロスオーバー用のタイヤを試すためだった。R/Tとはラギッドテレインの意味で、ゴツゴツした地形を走ることを想定したタイヤだ。このゴツいブロックパターンを持つタイヤが、デリカD:5に似合っていた。ヘビーデューティーなミニバンという特徴を、わかりやすくアピールしているからだ。
このクルマはミニバンとSUVのクロスオーバーともいうべき存在で、ノーマルタイヤを履いていたときのルックスは、ミニバン:SUVの比率が7:3ぐらいだった。けれどもこのゴツいタイヤを履くことで比率が6:4程度になり、ぐっとSUVに寄ってくる。ミニバンとSUVのクロスオーバーという個性が、一段と際立つ。
高速道路を巡航すると、よい意味で普通のミニバンだと感じる。乗り心地は体がとろけるようなものではないけれど、4本のアシがよく動いて路面からのショックを吸収すると同時にフラットな姿勢を保つ。これだけ大きなブロックパターンのタイヤを履いているのに、車内も静かだ。オープンカントリーR/Tの性能に負うところもあるだろうけれど、クルマの遮音・防音もしっかりしているはずだ。
おもしろいのが、ワインディングロードでも意外と運転が楽しめることだ。ディーゼルエンジンは低回転域からのピックアップがよく、踏めばズシンとしたトルクで2t近い車体を押し出す。クローズドコースでタイヤを鳴らしながら走らせたときとは違い、一般道を制限速度内で走る程度では四駆のありがたみは感じられない。それでも、安定感と旋回性能がうまくバランスしていることは伝わってくる。
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“コワい”ではなく“強い”顔
市街地から高速道路、そしてワインディングロードへとステージを移すと、次第に大きなブロックパターンのタイヤを履いていることを忘れる。ノイズが大きいとか高速のレーンチェンジやワインディングロードでブロックがヨレるとか、この手のタイヤにありがちなネガを感じさせないからだ。オープンカントリーR/Tの手柄でもあり、デリカD:5の出来のよさでもあり、両者のマッチングのよさでもあるだろう。
といった具合に、最初は大嫌いだったデリカD:5に好意を持つようになった。オフロードや雪道での安心感を知ったことで、オンロードでの評価が1割増しぐらいになったことは否定できない。でもそれは、「スズキ・ジムニー」や「ジープ・ラングラー」のオフロード性能を知ったあとには、オンロードでの乗り心地の評価が甘くなるのに似ている。デリカD:5はコワい顔のクルマではなく、強い顔のクルマだと評価は変わったのだった。
じゃあ一緒に飲みに行くかと問われれば……。ノーマルタイヤを履いているときのルックスだと、ちょっとご遠慮したい。やっぱり、好きにはなれない。けれども、SUVの風味が増すこの手のタイヤを履いているのだったら悪くない。焼き鳥か煮込みをごちそうしたいと思うのだった。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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