第219回: “日本娘”はロシアに渡って自由の象徴となった
『右ハンドル』
2020.06.02
読んでますカー、観てますカー
強烈なインパクトを与えた日本車
巣ごもり生活も悪いことばかりではない。試乗会も試写会もなくなったおかげでまとまった時間ができ、積ん読状態だった本を何冊か読むことができた。その中で今回紹介するのは、『右ハンドル』。ロシア人ジャーナリストのワシーリイ・アフチェンコの作品である。“ドキュメンタリー小説”とうたわれているが、著者の体験をもとにした長いエッセイと言ったほうが正確だろう。タイトルからわかるように、テーマとなっているのは日本車だ。
アフチェンコが住んでいるのは、ロシア沿海地方のウラジオストク。ロシア東部の日本海に面した町で、中国と北朝鮮はすぐ近くだ。日本ではかつて“浦塩” と表記していたが、もちろんこれは当て字。ロシア語表記はВладивостокで、征服するという意味の言葉владетьの命令形владиと東を意味するвостокが合体した地名だ。歴史的にはそういう位置づけの土地だった。
しかし、この本で描かれているのは、逆の動きである。西から膨大な数の自動車が海を渡ってやってきたのだ。そのことがロシア沿海地方に大きな変化をもたらす。経済的に、政治的に、そして文化的に。アフチェンコが記述するのは、日本車がこの地域に与えたインパクトと、それによって引き起こされた社会のダイナミックな変動である。ソビエト連邦崩壊後の20年間に極東ロシアで起きた出来事の記録として読むこともできるだろう。
「男は毎日をお前と共に過ごし、お前に触れ、お前の中に入った」と、いきなり安物の官能小説のように始まるが、渡辺淳一が墓からよみがえったわけではない。この作品では、日本車は“日本娘(ヤポンカ)”と記されている。地の文が続いた後に“お前”と呼びかける言葉は、自分の愛車に対するものだ。序章で作者が呼びかけているのは、「トヨタ・カムリグラシア」らしい。
![]() |

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
NEW
ホンダCRF250ラリー<s>(6MT)【レビュー】
2021.4.21試乗記ラリーマシンをほうふつとさせる、ホンダの250cc級アドベンチャーモデル「CRF250ラリー」がフルモデルチェンジ。車体もエンジンも新しくなった新型は、普段使いでも「ホンダの本気」を感じられる一台に仕上がっていた。 -
NEW
第647回:コンフォート性能を追求したブリヂストンのSUV用タイヤ「アレンザLX100」を試す
2021.4.21エディターから一言ブリヂストンが2021年2月1日に発売した「アレンザLX100」は、静粛性の向上や乗り心地の良さを追求したというSUV用のコンフォートタイヤ。オンロード向けに特化して開発されたその背景や試走の第一印象を、河村康彦がリポートする。 -
NEW
「LF-Zエレクトリファイド」が旗印 レクサスは今後どんなブランドを目指すのか?
2021.4.21デイリーコラムEVコンセプトモデル「LF-Zエレクトリファイド」を発表するとともに、将来のブランド変革に向けての取り組みも発表したレクサス。ニッポンが誇るラグジュアリーブランドは今後どのような変化を遂げ、どのようなポジションを目指すのだろうか。 -
プジョー3008 GTハイブリッド4(4WD/8AT)【試乗記】
2021.4.20試乗記プジョーの人気SUV「3008」にプラグインハイブリッドモデルの「GTハイブリッド4」が登場。プジョー史上最強をうたう最高出力300PS、最大トルク520N・mの電動4WDパワートレインの仕上がりを試してみた。 -
第646回:思い描いた未来がそこに! トヨタの最新運転支援システムを試す
2021.4.20エディターから一言2021年4月8日にトヨタが発表した、高度運転支援機能「Advanced Drive(アドバンストドライブ)」。従来の技術とは何がどう違うのか? 同機能を搭載する「レクサスLS」に試乗して確かめた。 -
レクサスES(マイナーチェンジモデル)
2021.4.19画像・写真トヨタがマイナーチェンジを施した「レクサスES」を上海ショーで発表。快適性や運動性能の改善、予防安全・運転支援システムの拡充などに加え、内外装のデザインにも手が加えられている。従来モデルとは異なるその意匠を、写真で紹介する。