ボルボXC60 B5 AWDインスクリプション(4WD/8AT)
ECO以外もいいコ 2020.06.30 試乗記 順次、全モデルをモーター付きにするというボルボの電動化戦略。その意欲的な計画を支える一台が、セールス好調のSUV「XC60」にも設定された。最新のマイルドハイブリッドシステムを搭載する「XC60 B5」、その走りやいかに?ハイブリッドは事業の要
「ボルボXC60 B5 AWDインスクリプション」のステアリングホイールを握って、渋滞のなかノロノロと交差点に近づく。黄色に変わりそうな信号を気にしながらスロットルペダルをわずかに踏み増すと、XC60はスッと電気モーターにアシストされてスムーズに加速した。「なるほど『B5』だ!」と感心するが、新しい運転感覚を特別に意識したのはその一瞬だけで、その後、すぐに“慣れ”の中に埋没してしまった。
2017年6月5日、ボルボは内燃機関だけを搭載したクルマの終焉(しゅうえん)を発表した。2年後の2019年からは「すべてのモデルが電動化される」と宣言し、電動化を将来の事業の中心に据えることを明らかにした。
うーん、スゴい! さすがは「安全」と「環境」に厳しい北欧の自動車メーカーだァ!! ……と、オッチョコチョイの意識高い系の人たちは思ったことでしょう。ワタシも思いました。
ただし、「全モデルを電動化させる最初のプレミアムブランドとなります」と胸を張るボルボの言う“電動化”とは、必ずしもバッテリーからの給電だけで動く、いわゆるピュアEV(電気自動車)のみを指すのではない。プラグインハイブリッド、ハイブリッド、そしてマイルドハイブリッドといった、電気の助けを借りるシステムも「オッケー!」というわけだ。
「なぁ~んだ」と拍子抜けした方も多いことでしょう。ワタシも拍子抜けしました。「ハイブリッドだったら、トヨタもホンダもガンガン推し進めてるじゃん」と。ただ欧州メーカーがうまいのは、同じことをしていても、場合によっては多少出遅れた状態でも、コンセプトを強力に押し出して自社の姿勢を明確にすることで、個々の事例としてではなく、いわば全体のルールを変えるゲームチェンジャーとして振る舞うところだ。グランドデザインを描ける強さ、ともいえる。
欧州勢の巻き返し策
昨今、ヨーロッパのプレミアムブランドから次々と電気自動車が発表されているのは、ある日突然CEOが環境保護に目覚めたから……ではもちろんなく、厳しくなるばかりの法規制下で、大型にして高級なSUVやスポーツカーを売り続けるための、バーターの手段として使えるからだ。かつては「あまりにも複雑で、高速走行ではお荷物にしかならない」とハイブリッドシステムに冷笑的だった欧州メーカーが、昨今、当たり前のようにハイブリッドシステムを採用し始めた背景には、大きな開発余地があると頼みにしていたディーゼルエンジンや、実用化間近と期待された燃料電池がいずれも行き詰まっている現状がある。メルセデス・ベンツや今回のボルボが推進する「48Vマイルドハイブリッド」は、いうなればメーカーを横断した、欧州ブランドの“現実的な”巻き返し策と見ることができる。
……とまぁ、論を大上段に振りかざし過ぎてわれながらビックリですが、それはともかく、もう少し詳しくXC60 B5を見ていきましょう。
念のため確認すると、ボルボXC60は、グローバルで約70万台が販売されるボルボ車のうち、約20万台を占める同社のトップセラー。全長×全幅×全高=4690×1900×1660mmのボディーサイズは、余裕あるSUVとして使いやすい大きさで、日本でも人気が高い。2865mmのホイールベースを持つSPAシャシーは、同社の大小2種類に大別できるプラットフォームの、前者。伸縮自在のフレキシビリティーの高さがジマンで、電動化、プラグインハイブリッド化を前提に開発された。
B5に搭載される48Vマイルドハイブリッドは、その名の通り48Vバッテリーを積む簡易型ハイブリッドシステムで、2リッター直4ターボエンジン(最高出力250PS、最大トルク350N・m)と組み合わされる。制動時の減速エネルギーを、「ISGM」が0.5kWhのリチウムイオンバッテリーに回収する。ISGMとは、スターターにして電気モーター、そして発電機を兼ねたデバイスで、加速時にはエンジンの低回転域でアシストしてくれる。アウトプットは、最高出力が13.6PS/3000rpm、最大トルクが40N・m/2250rpmである。
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従来モデルよりお買い得?
ハイブリッドに慣れ親しんだ日本市場では、正直、目新しさはない。ボルボとしても、B5をして特別なグレードとみなすつもりはなく、全モデル電動化にあたってのベースとなるシステムと考えている。ちなみにB5のBはバッテリーのBではなく、ブレーキ回生システムのBである。
今後のボルボ車の道筋を示すXC60 B5が興味深いのは、現実的な方策がてんこ盛りされているところ。ハイブリッド、アイドリングストップはじめ、高速巡航時にエンジンとトランスミッションを切り離すセーリング、そして新たな目玉機構としての気筒休止システムである。さらに電動化の波に乗って、電動パワーステアリングに加え、シフトとブレーキも「バイ・ワイヤ」こと電子制御化された。
価格は、今回の試乗車であるB5 AWDインスクリプションが734万円、下位グレードの「B5 AWDモメンタム」が634万円。従来の「T5」と比較すると10万円前後の価格上昇をみるが、実はお買い得かもしれない。なぜなら、新技術の導入に合わせて、機関各部に大幅に手が入れられ、クルマ全体のブラッシュアップが図られているからだ。
相変わらずハンサムな北欧SUVのドアを開けて、運転席へ。スカンジナビアンデザインあふれる、ラグジュアリーだけれど嫌みのないインテリアが広がる。ホワイトウッドのパネルもナチュラルですてき。インスクリプションには、クリスタルのシフトノブがおごられる。
“エコなメカ”は主張しない
いざ走り始めると、ハイブリッドモデルであることをすぐに忘れさせる、自然で穏やかなドライブフィールが印象的。乗り心地もいい。試乗車は、オプションの電子制御式エアサスペンション(31万円)を備えていた。
高速道路に乗ってクルージングを始めると、4気筒のうち1番と4番シリンダーが休止するはずなのだが、意地悪く観察していても、その切り替えはサッパリわからない。エンジンの中では、アクチュエーターがカムを制御して、該当シリンダーのバルブを全閉しているはずだ。
第3世代と称される最新のDrive-E型ユニットは、1968ccの排気量、82.0×93.2mmのボア×ストロークといった数値は従来どおりだが、エンジンマウントや遮音材が変更され、これまで以上に静粛性に配慮された。シリンダーヘッドとエキゾーストマニフォールドは一体化され、触媒の早期活性化と、組み込まれるギャレット製ターボのレスポンス向上が図られたことも新しい。トランスミッションは、シーケンシャルシフトも可能な8段ATである。前輪駆動をベースに、必要に応じて後輪にも駆動力を送るAWDシステムを持つ。
ドライブモードは、「コンフォート」をデフォルトとして、「エコ」「ダイナミック」「オフロード」そして「インディビジュアル(個別設定)」が用意される。エコモードでは通常より10mm車高を落として、条件が許せばエンジンとトランスミッションを切り離すセーリングを実施する。巡航中のドライブフィールに変化はないが、回転計の針がガクンと落ちるので、運転者はそれと知る。
コンフォートモードでは、ある意味セーリングに代わって気筒休止が採用された。「やはり空走状態というのは、エンジニアリング的にスマートと感じられなかったのでは」と、ボルボスタッフの人が説明してくれた。
実用面もなかなか
XC60の前席は、運転しながらもリラックスできる空間だが、セカンドシートも快適だ。足元、頭まわりとも余裕があって、ゆったり座れる。クッションが厚くて座り心地もいい。ただしフロアのセンタートンネルがゴツいので、実質的には2人のための後席である。大きなガラスルーフ(21万円のオプション)がうれしい。
ベストセラーを続けるXC60の魅力として、よく考えられた使いやすい荷室も見逃せない。テールゲートが、ボタンをワンタッチするだけで開閉できるパワー式なのは当然として、いかにも実用的な工夫が散見される。まず、シンプルな形状がいい。リアバンパー上部とラゲッジフロアに段差がないので、重い荷物を滑らせて入れられるのがありがたい。持ち上げる量を多少なりとも減らすため、側壁のボタンでリアの車高を下げることもできる。
荷室の奥行きは94cm、幅は110cm(いずれも実寸値)。搭載物をある程度安定させる太いゴムバンドが備わり、ネットで仕切られた小物入れもある。パーセルシェルフ(トノカバー)が、水平に前後するのではなく、Dピラーに沿って斜め上に動くのも、開口部を広げる親切な工夫だ。後席背もたれは、60:40の分割可倒式で、スキーなどの長尺モノを積むため、後席中央にはトランクスルーが設けられる。
今回、ビッグマイナーチェンジともいえる改良を受けて、洗練度をさらに向上させたXC60。実用燃費は、ディーゼルモデルと同等になったという。「マイルドハイブリッドを採用した、ボルボの完全電動化路線の第一歩!」……と力んで試乗するとちょっと肩透かしの感はあるけれど、一方で、堅実な底上げが施され、見ても乗っても、素直に「いいクルマだなぁ」と感心させられる。たとえ環境問題にことさら高い意識も持っていなくとも、買って後悔はしないんじゃないでしょうか。
(文=青木禎之/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ボルボXC60 B5 AWDインスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1900×1660mm
ホイールベース:2865mm
車重:1940kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:250PS(184kW)/5400-5700rpm
エンジン最大トルク:350N・m(35.7kgf・m)/1800-4800rpm
モーター最高出力:13.6PS(10kW)/3000rpm
モーター最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/2250rpm
タイヤ:(前)235/55R19 105V/(後)235/55R19 105V(ミシュラン・ラティチュードスポーツ3)
燃費:11.5km/リッター(WLTCモード)
価格:734万円/テスト車=832万4000円
オプション装備:チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ(21万円)/有償ボディーカラー<クリスタルパールホワイト>(12万円)/パワーチャイルドロック(14万円)/Bowers & Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステム<1100W、15スピーカー、サブウーハー付き>(33万円)/電子制御式4輪エアサスペンション+ドライビングモード選択式FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー(31万円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:2418km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:106.2km
使用燃料:11.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.5km/リッター(満タン法)/10.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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