スズキ・ジクサーSF250(MR/6MT)
スズキの矜持 ここにあり 2020.07.10 試乗記 伊達(だて)な見た目より中身で勝負。スズキが満を持して投入した250ccクラスの最新モデル「ジクサーSF250」は、久々の復活を遂げた油冷エンジンの強みを存分に生かした、走りにおいて妥協のない実直なマシンに仕上がっていた。復活を遂げた油冷エンジンの完成度
250ccスポーツバイクの競争が激化し、高回転化・高出力化していったとき、スズキはその流れに加わらなかった。ストリートの楽しさを独自の視点で追求していたからだ。そして今回、満を持してジクサー250/ジクサーSF250が発売された。
ジクサー250に搭載されているのは新開発の油冷単気筒エンジンである。スズキの油冷エンジンといえば有名だが、このバイクの場合、名前は同じでも過去のものと冷却メカニズムは異なる。過去の油冷は、ヘッドまわりなど熱的に苦しい部分に大量のオイルを噴射して冷却するシステムだった。しかしジクサー250はウオータージャケットならぬオイルジャケットを設け、オイルを冷媒として使用。必要な部分を効果的に冷却する仕組みとしたのだ。またSOHC 4バルブの動弁機構にローラーロッカーアームを採用するなど、高効率と軽量コンパクト化を追求。この結果、「ジクサー150」のエンジンよりもさらにコンパクトな250ccエンジンを開発することに成功している。
このエンジン、スズキがストリートでの性能を追求しただけあって、実に扱いやすい。低回転域のトルクが十分にあって、3000rpmから4000rpmも回せばストレスなく加速してくれる。振動も少なくスムーズだ。実用域では同じ排気量のツインとは比べ物にならないくらい力強い。
回転を上げていくと7000rpmくらいからパワーが増し、レブリミットの1万rpmまでキレイに回っていく。力強く気持ちのいい回り方だ。ビッグバイクから250ccクラスに乗り換えると「もう少し力が欲しい」と思うこともあるのだが、今回ストリートをジクサー250で走ってみても、そんなふうに感じることはなかった。十分なトルクがあることに加え、エンジンのフィーリングが洗練されているからである。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ラジアルタイヤに見る走りへのこだわり
ジクサー250は、先に発売されたジクサー150の車体をベースとしている。そこに150よりもコンパクトなエンジンを搭載していると聞けば、軽量マシンらしいクイックなハンドリングを想像するのも自然だろう。しかし、実際に乗ってみると少し違っていた。ハンドリングは安定成分が高めの味付けだ。バンクさせていったときも、ステアリングがゆったりと動く。タイヤの接地感も強く、ライダーがバイクに身を任せてコーナリングできるような安心感がある。
しかし、鈍重なわけではない。スポーティーに走ろうとしてステップやステアリングに荷重を乗せてやれば、気持ちよくコーナーに飛び込んでいく。安定性と運動性、このあたりの味付けが絶妙なのだ。ライダーのレベルを問わず、ストリートからワインディングロードまで楽しむことができる性格だ。
このハンドリングには、採用されているラジアルタイヤの効果も大きいはずだ。価格の安さがウリのジクサー250だから、バイアスタイヤを選んでさらに価格を下げるという選択肢もあったはず。そこをあえてラジアルにしたあたり、このマシンの走りを妥協しないスズキの考えが見て取れる。
車体を見ていくと、つくりが少しチープな感じもするが、価格を抑えた上でこの走りなら納得できるはずだ。もともとスズキには、華やかな装飾よりも走りを重視したマシンが多い。そういう意味で言えば、ジクサー250は実にスズキらしい実直なバイクづくりがされているのである。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2010×740×1035mm
ホイールベース:1345mm
シート高:800mm
重量:158kg
エンジン:249cc 油冷4ストローク単気筒SOHC 4バルブ
最高出力:26PS(19kW)/9000rpm
最大トルク:22N・m(2.2kgf・m)/7300rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:37.7km/リッター(WMTCモード)/45.0km/リッター(国土交通省届出値)
価格:48万1800円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。