メルセデス・ベンツGLA200d 4MATIC(4WD/8AT)
スリーポインテッドスターの威光 2020.09.14 試乗記 「メルセデス・ベンツGLA」がフルモデルチェンジして2代目に生まれ変わった。各ブランドの自信作がひしめき合う激戦区に投入された、メルセデスの最新コンパクトSUVの仕上がりをリポートする。出そろった新世代NGCC
MINIブランドを手に入れ、コンパクトな商品を展開してユーザーの裾野拡大に成功したBMWにならって、多くのプレミアムブランドがそれまで手を出さなかったコンパクトシリーズを新設してもう何年もたつ。メルセデス・ベンツの場合、彼らが「ニュージェネレーションコンパクトカーズ(NGCC)」と呼ぶエンジン横置きモデル群がそれに当たる。「Aクラス」「Bクラス」「CLA」と順次モデルチェンジして新世代へ切り替わったが、この度GLAがモデルチェンジしたほか、「GLB」というニューモデルが加わり、新世代NGCCが出そろった。
初代GLAは2013年発売。コンパクトSUV隆盛のきっかけとなるほど早くはないが、乗っかったというほど遅くもないタイミングで出てきた。日本市場にフィットするサイズということもあって、CLA同様、メルセデス・ベンツ日本の販売台数拡大に大いに貢献した。
新型は、SUVに多い実際以上に大きく見せようとするデザインではなく、初代と同様に車高は高くタイヤは大きいけれど、つるんと丸みを帯びたデザインで登場した。先に刷新されたA/Bクラスに似たフロントマスクが採用された。フロントグリル中央に大きなスリーポインテッドスターがあるのでメルセデス・ベンツだとひと目でわかる。ユーザーにとってはこれが重要。
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静かでスムーズなディーゼルエンジン
エクステリアよりもインテリアのほうが断然新しさを感じさせる。カウルを伴わない超横長タブレット風ディスプレイ(実際には2つのディスプレイを並列している)は未来感あり。ステアリングスポークには左右の親指がくる辺りに多数のスイッチが配置されていて、一見ややこしいのだが、右親指でドライバー正面のディスプレイを、左親指でセンターのディスプレイを操るという大原則がわかると、使いやすい。エアコン吹き出し口が多い。
しかしもっと使いやすいのは「メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス(MBUX)」。「ハイ、メルセデス」と呼びかけてシステムを起動させた後に、カーナビの目的地設定やオーディオ選曲、エアコン設定温度変更、電話など、してほしいことを言えば対応してくれる。もちろんできることとできないことがあるが、走行中に手を放さずにできるとうれしいことはたいていできる。総合的には車載の音声認識システムで一番デキがよいと思う。
新型GLAは現時点では「200d 4MATIC」のワングレード(「AMGライン」というコスメティックパッケージを装着するかしないかを選択可能)。パワートレインは2リッター直4ディーゼルターボエンジンと8段ATの組み合わせとなる。最高出力150PS、最大トルク320N・mとおとなしめのスペックだが、一般道から高速道まで実によく走る。トルクモリモリ型ではなく、シュルシュルよく回る回転馬力系なので、ディーゼルならではの力感はない。半面、静粛性は4気筒ディーゼルとしては最も高く、振動も少ない部類だ。ガソリンかディーゼルかを特に意識することなく使えるエンジンだと思う。
燃費もまずまず。300kmあまりを走行し、満タン法で15.5km/リッター、車載燃費計計測で16.9km/リッターだった。取材(撮影)時にはどうしてもアイドリング時間が長くなるので、一般的な使い方だともう少し期待できるはず。
ADASはさすがの仕上がり
ボディー剛性が非常に高い。計測したわけではないが、高いと感じさせる。いいクルマかそうでないかを分ける要素はいくつかあるが、剛性感の高い堅牢(けんろう)な骨格だと感じられるかどうかはそのうちのひとつだ。過去にいろいろなメルセデス・ベンツに乗ったが、頼りないボディーだと感じたモデルはひとつもない。スタイリングや動力性能は他のブランドと同じように好みだったりそうでもなかったりするが、ボディーは必ずしっかりしていて、必ず好ましい印象をもつ。
乗り心地は総合的には良好だが、40~50km/hで不整路面を通過した際にバタつくきらいがある。不快というほどでもないが、他の速度域では乗り心地がいいだけに、この速度域での挙動が気になった。ステアリングフィールには品がある。全域でアシストは強めだが、手応えはちゃんとある。同社の往年のモデルのようなねっとりとしたフィーリングを懐かしく思うことはあるが、今やそんなの知らない世代も多いハズ。知らなければ懐かしく思うこともない。ステアリングコラムから生えるATセレクターレバーの素材がプラスティッキーで、操作性もやや安っぽく感じるのは残念。他の部分と品質がそろっていないように思える。
先進運転支援システム(ADAS)はメルセデス・ベンツが他を大きくリードする領域だ。GLAのアダプティブクルーズコントロールは、まず先行車両追従時の車間調整が適切で正確。車間距離を最も短く設定しても不安を一切感じない。先行車両への追いつき方、追いついた時の減速の仕方がうまい。車線内でのセンタリングもごく自然に行われる。
ラゲッジスペースは左右幅が狭くゴルフバッグを積載するには向いていないが、天地と奥行きがしっかり確保されているため、容量は435リッターと十分。
誰にでも薦められる
価格は500万円を超えるが、動力性能や装備の充実度、それにブランドパワー(を背景に期待できる数年後の残存価額)を考慮すると高くない。むしろコストパフォーマンスはよいのではないか。クルマに興味と関心をもつ人には「(何周かして)結局これだよ」と、そうでない人には「黙ってこれ買えば大丈夫」と、安心して誰にでも薦められるクルマだ。
プレミアムブランドのエンジン横置きモデル群は、本来ブランドの新規顧客を増やし、その顧客が将来利益の大きい高価なモデルを購入するためのステップとしての役目を期待されて生まれたが、世界的に環境意識が高まり、それにも絡んで立派なクルマに乗ることへの見られ方が変化したことで、むしろ世の中はどんどん“エンジン横置きのコンパクトSUVくらいがちょうどいいよね”的な風潮となってきた。とはいえどんなブランドでもいい(=どう見られてもかまわない)というわけではないという人たちにとって、GLAはちょうどいい落としどころなのだ。
(文=塩見 智/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGLA200d 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4440×1850×1605mm
ホイールベース:2730mm
車重:1730kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:150PS(110kW)/3400-4400rpm
最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/1400-3200rpm
タイヤ:(前)235/50R19 99W/(後)235/50R19 99W(ブリヂストン・トランザT005)
燃費:16.5km/リッター(WLTCモード)
価格:502万円/テスト車=585万1000円
オプション装備:ナビゲーションパッケージ(18万9000円)/AMGライン(28万円)/AMGレザーエクスクルーシブパッケージ(19万4000円)/アドバンスドパッケージ(16万8000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1543km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:552.0km
使用燃料:35.7リッター(軽油)
参考燃費:15.5km/リッター(満タン法)/16.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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