フォルクスワーゲンTロックTDI Rライン(FF/7AT)
君はロックを聴かないのか 2020.09.17 試乗記 フォルクスワーゲンから“コンパクトSUV 3兄弟”のトリをかざるニューモデル「Tロック」が登場。「コンパクトSUV市場をロック(rock=揺さぶる)する」というメッセージとともに送り出された新顔の実力を確かめた。ゴルフに近いサイズ感
「T」の名がつくフォルクスワーゲンはSUV、と覚えればいいらしい。新たに導入されたTロックは、「ティグアン」と「Tクロス」の間に入る大きさだ。大兄貴の「トゥアレグ」は日本から去ってしまっているので、現行のラインナップはその3台。TTT兄弟である。Tクロスを発売したとき、フォルクスワーゲン グループ ジャパン(VGJ)はスモールサイズであることを伝えようとして “TさいSUV”という表現を使っていたが、今回はダジャレを封印したようだ。賢明な判断だと思う。
Tロック(T-Roc)という名前は岩(rock)の転がる悪路をものともしないというイメージを担うとともに、揺り動かす(rock)というメッセージも込められているという。コンパクトSUVというジャンルを揺さぶって新たな価値をつくり出そうという意欲が感じられる命名だ。怒りとプロテスト精神で既成概念を転倒させようとするロック(Rock Music)の心意気も備えているはずである。激戦区を勝ち抜くための準備は整っているのだろう。
全長4250mm、全幅1825mmという大きさは、売れ筋SUVのど真ん中だ。日本では「トヨタC-HR」「ホンダ・ヴェゼル」「マツダCX-30」「日産キックス」といったモデルが直接のライバルとなる。それぞれ微妙にサイズが異なっていて、その中でTロックは全幅が一番広い。全高が1590mmなので立体駐車場に入れるのはちょっと厳しそうだ。
同じフォルクスワーゲンの中では、サイズ感が「ゴルフ」と近い。もちろん全高だけは大きく異なっていて、Tロックのほうが110mm高くなっている。ホイールベースは2590mmと、ゴルフと「ポロ」のちょうど中間。プラットフォームはいずれも共通=「MQB」で、サスペンション形式もポロやゴルフの標準モデルと同じである。「○○のSUV版」といったアナウンスはないから「トヨタ・ヤリス」と「ヤリス クロス」のような関係性ではないのだろうが、Tロックを例えば「ゴルフのSUV版」と受け止めるユーザーがいてもおかしくはない。
トレンドを取り入れながらも生真面目
ただし、実物を見るとゴルフやポロとの共通点は何も感じられない。それらが堂々たるオーセンティックなたたずまいであるのに対し、Tロックはカジュアルさと新しもの感が強いのだ。ツートーンの外板色は、フォルクスワーゲンのSUVとしてはこれが初だそうで、意識的にトレンドを取り入れている。試乗車はグレーメタリックとブラックルーフの組み合わせだったので目立たないが、彩度の高いカラーとホワイトルーフならポップ感が強くなるはずだ。“クーペSUV”と位置づけているように、Tロックはビジュアルを重視したモデルである。ルーフが後方に向けて緩やかに下降し、Cピラーははっきりと前傾している。
スポーティーなシルエットを得たことの代償で、荷室スペースはTクロスの455リッターより少ない445リッターにとどまった。ただ、日本のライバルにこの容量を上回るモデルはなく、十分に実用的な荷室である。もちろん、ゴルフの380リッターに比べればはるかに大きい。60:40の分割可倒式リアシートを倒せば、1290リッターの大スペースが出現する。
インテリアはフォルクスワーゲンらしい実直さを保ちながら、最新のテクノロジーと装いを取り入れている。「Active Info Display(アクティブインフォディスプレイ)」と名付けられたメーターパネルはフルデジタルで、高解像度のモニターは視認性が高い。アナログのスピードメーターと回転計を主とした表示はもちろん、パネルの幅いっぱいにマップを映し出すこともできる。インフォテインメントシステム「Discover Pro(ディスカバープロ)」の機能はダッシュボードのモニターに集約されており、一方で、エアコンのスイッチなどはごく一般的なダイヤル式。奇をてらわずに使いやすさを優先するのがこのブランドの哲学である。
流行のコンパクトSUVであっても浮ついた気分は見せず、生真面目に良質なクルマづくりを貫く。内外の設(しつら)えに色気はあまり感じないが、フォルクスワーゲンのファンはそういうものを求めてはいないはずだ。
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高速コーナーでも安定した走り
試乗車を受け取って走りだしたとき、おや? と思った。初めて乗るのだから慎重にスタートしたのだが、それにしても思いのほか穏やかな発進である。アクセルを踏みそこなったのかと思ったほどで、少々もどかしく感じた。エンジンの回転が上がっていけば不満は解消されるが、低速域では反応の悪さに困惑したのは事実だ。7段DSGのしつけはよく、ギクシャクすることがないのはありがたい。
搭載されているのは2リッターディーゼルターボエンジン。現状では、日本で買えるTロックに用意されているのはこのパワーユニットのみである。最高出力150PS、最大トルク340N・mという数値は決して物足りないとはいえない。意図的に出足を抑えているのだとすると、排ガス的に何か問題が生じるのを気にしているのかしらんと、いらぬ勘ぐりをしてしまった。本国にはガソリンエンジンモデルもあるので、これから選択肢が増える可能性がある。駆動方式がFFだけとなっている状況も変わるのではないか。
最初に乗ったのが雨の夜で、しかもフロントガラスが油膜でギラついているという最悪の状況だった。それでも狭い道をクリアできたのだから、見切りがいいということなのだろう。最小回転半径が5.0mということで、小回り性もいい。都市部の道路状況でも不便を感じることはなさそうである。
やはり高速道路での巡航は得意科目だ。アイドリング時や街なかの運転ではディーゼルエンジンらしい音が侵入してくるのを意識したが、スピードに乗ってしまえば低い回転で静かに走る。高速コーナーでも安定していて、背の高さがネガティブに感じられることはない。路面の悪いところではそれなりにショックを伝えるが、剛性感があって安心できる。
試乗車は最上級のRラインで、アダプティブシャシーコントロールの「DCC」が装備されていた。「ノーマル」「コンフォート」「スポーツ」という3つのモードを切り替えられる。ただし、スポーツモードを選んでも、ワインディングロードで特にエキサイティングな経験ができるわけではない。スポーティーな運転を楽しむことより、安全で確実な移動を提供することを重視したクルマなのだ。
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優等生でオールマイティー
歩行者も検知する最新の先進安全装備が取り入れられており、ほとんどの機能が全車に標準装備されている。ACCは全車速対応だから、渋滞でも快適だ。ブレーキエネルギー回生システムが装備されていることもあって、燃費はWLTCモードで18.6km/リッターと良好な数値。突っ込みどころが見当たらない優等生キャラである。
それを自覚しているのか、Tロックのウェブサイトのトップページには「毎日とことん使える、オールマイティなSUV。」と記されている。ほかにも「とにかく便利で、どこまでも自由に走れるSUV」「あなたの365日を豊かに彩るクーペSUV」といった文言が並ぶ。CMのキャッチコピーは「いい日、そこに、T-ROC」。このクルマの特徴を表現するのに苦労しているようだ。
誰にでも自信を持って薦められるが、ライバル車に比べて突出している部分をアピールするのは難しい。動力性能や安全性能、環境性能はすべて基準以上だが、ぶっちぎりのダントツと主張するのは無理だ。オシャレ度は高いけれど、クーペSUVというコンセプトは目新しいものではなくなっているし、フランス勢に目を向ければデザイン性に振り切ったモデルも存在する。平均点が高く、スキを見せない。その堅実がドイツ車らしさ、フォルクスワーゲンらしさともいえるのだが。
思えば、1997年に登場した「トヨタ・ハリアー」は衝撃的だった。それまでには存在しなかったプレミアムクロスオーバーSUVというジャンルをつくり出したのだ。「WILD but FORMAL」を体現したハリアーは、確かにクルマのあり方を揺り動かしたのである。SUVというのはまだ歴史の浅いカテゴリーで、新たな価値を創造する余地はいくらでも残されている。かつてゴルフという革命的なコンパクトカーを誕生させたフォルクスワーゲンなら、もっとロックなSUVがつくれるに違いないと期待してしまう。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲンTロックTDI Rライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4250×1825×1590mm
ホイールベース:2590mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/3500-4000rpm
最大トルク:340N・m(34.7kgf・m)/1750-3000rpm
タイヤ:(前)225/40R19 93W/(後)225/40R19 93W(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:18.6km/リッター(WLTCモード)/19.5km/リッター(JC08モード)
価格:453万9000円/テスト車=457万5300円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万6300円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:4071km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:490.4km
使用燃料:41.4リッター(軽油)
参考燃費:11.8km/リッター(満タン法)/12.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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