アストンマーティンDBX(4WD/9AT)
血筋のよさは隠せない 2020.09.25 試乗記 デビューから1年近くがたち、ようやく日本上陸を果たした「アストンマーティンDBX」。英国のラグジュアリーブランドが初めて手がけたSUVは、待ち焦がれたファンも納得するであろう上質な走りを味わわせてくれた。見るからにアストン!
アストンマーティン・ジャパンが入ったビルディングの地下駐車場は、当たり前だが日本で最もアストン密度の高い場所である。「DBS」「DB11」「ヴァンテージ」と、どれも同じような顔をした……もとい! イメージを統一したブリティッシュスポーツがズラリと止められている。もしかしたら、「DB9」や「V8」も交じっていたかもしれない。
「こんな3密なら大いにけっこう」とすっかりうれしくなった視線の先に、やはり同じ系統のハンサムSUVが1台。試乗から戻ってきたばかりのアストンマーティンDBXが用意されていた。緩やかな曲線で描く凸型のグリル。涼しげな切れ長のヘッドランプ。まごうかたなきアストン顔。これならブランドを間違えようがない。
スマートなフォルムにだまされがちだが、DBXは大きなクルマである。3060mmという3mを超す長いホイールベースに、全長×全幅×全高=5039×2050(ミラー格納時)×1680mmの立派なボディーを載せる。「ベントレー・ベンテイガV8」(2081万7000円)、「ポルシェ・カイエン ターボ」(1937万2222円)あたりといい勝負。価格は? というと、DBXの“素”の値段は2299万5000円だから、単純比較では三者の中で一番高い。
DBXでまず目につくのは、車高をググッと持ち上げている大きなタイヤである。前285/40、後325/35という薄くて太いラバーが22インチホイールに巻かれる。「標準でサマータイヤもありますが、このクルマはオールシーズンを履いています」と、メカニックの方。銘柄は、ピレリの「スコーピオン ゼロ」だ。
立派な体格ながら、ドアを開ければ思いのほかすんなりと運転席に座れる。片足を車内に入れて思わずグリップに手をのばすでもなく、「ヨイショ」と声を上げることもない。この種のクルマとしては、フロアが低い。
結論を先走るようだが、DBXは、アストンマーティン史上初のSUVとされ、実際その通りなのだが、キャラクターとしては乗用車に近いクロスオーバーと捉えていいと思う。もちろん、後輪駆動をベースに、駆動力を前後に自動配分する4WDシステムや電子制御式のリミテッドスリップデフを備え、エアスプリングを生かして悪路では最低地上高を上げて走ることもできるけれど、言うまでもなくメインステージはオンロードだ。高速移動時の空力特性を鑑みて、むしろ自動的に車高が下がる機能のほうが多用されるだろう。
DBXは、足場の悪いところを通るグランピング会場やぜいたくなスキーリゾートにも「アストンで行きたい!」というわがままに応えるためのクルマである。ワタシもそんなわがままを口にしてみたい……じゃなくて、年産5000台前後と決して大きな自動車メーカーではないアストンマーティンが、スポーツカーから違和感なく乗り換えられるSUVをさらから開発して市販したことに、拍手!
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