第677回:車間注意のお色気バスも!? イタリア版商用車ラッピング事情
2020.10.15 マッキナ あらモーダ!好調なトラック販売と抱える諸問題
今回はイタリアを走るトラックやバスの楽しいお話である。まずは最近のニュースから。
イタリアでは意外にも、トラックが好調に売れている。車両総重量3.5t以上のトラック登録は、前年同月比で2020年7月が45%アップ、続く8月も31.3%アップといずれも増加している(データ提供:UNRAE)。
新型コロナの影響を受けた上半期(前年同期比34.6%減)とは対照的だ
ただしこの数字には背景があることを、イタリアの商用車専門サイト『オムニフルゴーネ電子版』は2020年9月15日付の記事で指摘している。
イタリアでも走行距離などを記録するタコグラフの装着が長く義務づけられてきた。近年はデジタル式、日本でいう“デジタコ”も導入された。
その流れを受けて、2019年6月15日以降登録の3.5t以上の商用車やバスに、今度はGPS同期型デジタル方式タコグラフの搭載が義務づけられた。
筆者が調べてみると、当該のタコグラフのイタリアにおける価格は、日本円にして最低でも8万円台である。これに取り付け工賃が最低でも約2万円発生する。コスト意識がシビアな運送業界にとっては、決して無視できない金額だ。
そのため、法律施行前夜にトラックの新車需要が高まり、その反動として施行後に落ち込んだ。ゆえに2020年は前年同月で比較すると、大きく伸長したというわけだ。
UNRAEは、残り4カ月の大型商用車販売を左右するのは、新型コロナによる影響で運送業者の流動性資金が枯渇する前に、政府が有効な政策を実施するかどうかにかかっていると訴える。
トラックに関しては、欧州レベルにまで視野を広げれば、また別の課題がある。
欧州各地を往来する長距離トラックの国籍は、ここ20年で様変わりした。実際に路上で観察すれば一目瞭然だが、ポーランドに代表される東欧やバルト三国のナンバープレートを掲げたトラックの増加が著しい。
欧州連合域の拡大で新興国に物流拠点が拡充されたことで、西欧諸国よりも低い賃金で働く運送業者やトラックドライバーが増加したことがその理由だ。
そうしたなか、運送業界における東西ヨーロッパの労働条件の格差解消は、欧州内で大きな課題となっている。特に国境を幾重にもまたいで過労状態で走るトラックドライバーの労働環境が、道路の安全をおびやかすようになっている。
日本では考えられない、大陸ならではの問題なのだ。
あふれるナショナリズム
真面目な話は以上にして、ここからが今回のテーマだ。
東京を訪れるたびに楽しいのは、トラックや営業車のペインティングである。といってもヨーロッパやアメリカ風情を気取ったものを指しているのではない。
「褐色の恋人 スジャータ」「ファッションを心で運ぶ 東京納品代行」「世界のパン ヤマザキ」といった十年一日のごとく変わらぬタイプである。
今回執筆するにあたり、ヤマザキパンのトラック(写真A)に描かれたあの子どもは誰なのか、と同社のウェブサイトを訪問して驚いた。あれは少女であったのだ。筆者などは、今回調べなければ男子と一生信じているところであった。
さらに、彼女の名前が「スージーちゃん」であったこと。1966年からシンボルマークとして使われていること、当時3歳くらいで東京在住であったことなどが紹介されている。存命ならば、現在は57歳ということになる。
そうしたトラックのグラフィックは、景観がめまぐるしく変化する東京という都市において、実は数少ない変わらぬ物のひとつである。従来は色とりどりだったタクシーが、加速度的に黒い「ジャパンタクシー」に置換されていく昨今では、特に感じざるを得ない。
イタリアを走るトラックや商用車のグラフィックには、この国らしさあふれるペインティングやラッピングを施したものが少なくない。
最初は「パスタ系」である。主食ゆえに大手とローカル系が入り交じって走り回っている。
(写真B)は業務用冷凍パスタ企業のスルジタル、対する(写真C)は、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたとされる戦場の名で有名なアンギアーリを拠点とするパスタ工房、ドンナ・エレオノーラのトラックである。
オリーブの酢漬け(写真D)のトラックや、エスプレッソで有名なコーヒーブランドの営業車(写真E)もよく見かける。
また、郷土意識の高い国柄を反映して、自国製を強調したものも頻繁に見られる。(写真F)はイタリア製コンビーフのブランドであるモンターナのものだ。「100%イタリア飼育肉使用」と記されている。そういえば、上述したスルジタルのトラックにも「MADE of ITALY」の文字が見える。
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信心深いプロたちゆえに
(写真G)はフェルカムのトラックである。同社は北部国境に近いボルツァーノに1949年に設立された会社だ。「FERCAM」とはイタリア語で鉄道を表す「FERrovie」と、同じくトラックを表す「CAMion」による造語だ。
高速道路上で頻繁に見かける理由がわかった。管理するトラックの台数は3350台にも及ぶというのだ。
このフェルカムのトラックが面白いのは、シンプルかつ印象に残る力強いロゴもさることながら、次々と特集ともいえるラッピングを後部に施すことだ。10年ほど前には、幼児が描いた数々のトラックの絵を拡大プリントして貼りつけていた。
近年貼られているのは社員のプロフィール写真だ。対象となった本人は、さぞかし士気が上がることだろう。
いっぽう、個人ドライバーの車両にみられるのは「宗教系」である。ひとつはマドンナ、つまり聖母マリア(写真H)である。もうひとつは、幼い時代のイエス・キリストを担いで川を渡ったとの伝説から交通の守護聖人とされている聖クリストフォロスの図(写真I)だ。
ピオ神父(1887~1968年)を描いたトラックに遭遇する頻度も高い。(写真J)は、2020年9月に撮影したものである。巧拙はともかく、筆者が遭遇したピオ神父の図柄の中で、最も大胆なものである。
ピオ神父は20世紀に生きたにもかかわらず、現代科学では説明しきれない数々の「奇蹟」とともに語られてきた。
過酷な環境に身を置くドライバーたちには、信心深い人たちが少なくない。トラックではないが、数年前に訪れた南部アマルフィの路線バスドライバーたちは、海に面した断崖絶壁の見通しの悪いカーブを抜けるたび、ステアリングを片手で握りながら祈りの十字を切っていた。最前列の客席でそれを見ていた筆者はやや不安に駆られながらも、彼らの信仰に恐れ入ったのだった。
ピオ神父は今日に生きる者にとって時代的に最も身近な聖人であることから、プロたちに広く支持されていることには疑いの余地がない。
「車間距離注意」な広告も
路線バスのラッピングやステッカーも楽しい。(写真K)はわが街シエナの小型バスである。幅員の狭い旧市街を走りやすいよう、小型トラックのシャシーにバスボディーを架装したものが使われている。
そのうちの一台に地元スズキ販売代理店の広告がラッピングされている。後輪のホイールアーチと、カッティングシートに印刷された「ビターラ」の前輪ホイールとが重ねられている。
日本でも家電量販店であるヨドバシカメラの広告で、路線バスのホイールアーチ部分を一眼レフカメラのレンズに見立てたものがあるが、それに近い発想といえる。
最後はシエナのスクオラブス(スクールバス)に登場願おう。
後部窓に貼られているのは、赤い下着姿の女性をともなったランジェリーショップの広告である(写真L)。
実は路線バス用の車両なのだが、スクールバスの台数が足りないため、登校前および放課後になると駆り出されるのである。
日本だと、スクールバスにふさわしくないなど諸般の事情で議論の種となりそうだが、少なくともそうした声は聞かない。
それよりも筆者にとって問題なのは、後方を走行中、思わず車間距離を縮めてしまって危険であることだ。さらにこのバスとの間に割り込みをされると、日ごろステアリングを握るときは聖者のごとく穏やかな筆者にもかかわらず、つい暴言を吐いてしまう。
宗教と世俗が巧みに併存する商用車のラッピング&ペインティングは、イタリアという国の縮図なのである。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢麻里<Mari OYA>、Akio Lorenzo OYA/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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