BMW X1 sDrive18i(FR/6AT)【試乗記】
BMWの斥候 2011.04.27 試乗記 BMW X1 sDrive18i(FR/6AT)……450万3000円
「Xシリーズ」の中で唯一の後輪駆動(FR)モデル「X1 sDrive18i」を箱根で試乗。BMWらしい「歓び」を感じることはできたのか?
どこか不思議なSUV
「なんだか間延びしたビーエムだなぁ」というのが、「BMW X1」を最初に見たときの印象である。いきなり個人的な嗜好(しこう)を押しつけるようで恐縮だが、BMWをして「なにはともあれ二枚目な自動車メーカー」と理解しているリポーターの目には、新しい「Xシリーズ」の末弟はどこか不思議な姿に映った。素直に「カッコいい!」と言えないものがある。
ボディサイズは、4470mmの全長に1800mmの横幅。「日産デュアリス」よりわずかに大きく、「エクストレイル」より短い。「フォルクスワーゲン・ティグアン」あたりといい勝負だ。「X」一族らしさが一番表れているのが後ろ姿で、なるほどリアゲートのカタチは「X3」「X5」そっくりである。ところが、全高は1545mmと、SUVにしてはずいぶん抑えられていて、これがX1のプロポーションを独特なものにしている。
X1の後部を見て、「これが新しいビーエムのSUVか」と納得しつつ横にまわると、FR(ベース)らしいロングノーズに、しかしやけに胴の長い「1シリーズ」といったクルマが目の前にある。ホイールベースは2760mm。なんのことはない。名前は「1」だが、3シリーズワゴンにSUV風味をふりかけたのが、X1というわけだ。
名前にSUV、BMWいうところのSAV(Sports Activity Vehicle)を表す「X」が付いているが、理解の一助としてあえてカテゴリー分けすると、さまざまなジャンルが入り混ざった「クロスオーバー」ということになろうか。
そんなことをグジグジ考えながら、ドアを開けて運転席に座ると、「あらら……」と意外な発見をするのであった。
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装備もしっかりプレミアム
X1の室内は、いかにもBMWらしい機能的な眺め。スタイリッシュなシフトレバー。トンネルコンソールにはiDriveの丸いコントローラー。試乗車にはちょっと珍しい濃い茶色のウッドパネルが使われていて、大人な感じで、なかなか粋だ。ねじれたような複雑な造形を見せるドアオープナーが、プレミアムブランドを主張する。オプションの大きなガラスルーフもいい。
……と、意外な装備を見つけた。サイドのドアポケットに、ゴムが縫い込まれた太い帯が仕込まれている。SUVらしく「荒れた道を駆け抜けても中のモノが飛び出さないように」というよりは、単に地図やノートを挟むのに便利だからだろう。
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あらためて車内を見まわすと、ペットボトルやカップホルダーがここかしこに設置され、12Vの電源ソケットも散見される。アームレスト、センターコンソール、ラゲッジルームと、4カ所に設置されているという。
そういえば、クルマの各部を撮影していて話題になった小物がある。X1は荷室の床下に薄い収納スペースがあり、そこを仕切るための板が用意されていた。十字に組み合わることで、かなり自由にスペースを設定できるのだ。質実剛健を売りにしていたドイツ車も「変わったものだ……」と嘆息する偏屈な人がいるかもしれない。一方で、「やはりBMWだ!」と感心するところもある。
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「曲がり」が楽しい
当面、日本でラインナップされるX1は2種類。4気筒の「sDrive18i」と6気筒の「xDrive25i」である。実際の排気量は車名より大きく、前者が2リッター(150ps、20.4kgm)、後者は3リッター(218ps、28.6kgm)となる。トランスミッションはどちらも6段AT。ただし駆動方式は、18iが後輪駆動、25iは4輪駆動と二者の間で異なる。
ベースの価格は、363万円と480万円。sDrive 18iなら、1シリーズの価格(120iが364万円)で「押し出しの利く3シリーズ」が買えるわけで、考えようによっては、そうとうなバーゲンプライスかもしれない。
さて、18iのハンドルを握って走り始めると、1560kgの車重に150psだから「目が覚めるほど速い!」とはならないが、4気筒らしい元気なエンジンで、「駆け抜ける歓び」を上手に演出する。シフトのアップ・ダウンが多い街なかでは(個体の問題かもしれないが)オートマチックのショックが少々気になったものの、一旦、高速道路に乗ってしまえば、いつものジャーマンプレミアム。硬めのアシながら、路面からの入力を強靱(きょうじん)なフロアで跳ね返しながら、矢のように走ってゆく。
外観からは想像しにくかったが、溜飲(りゅういん)を下げたのが峠路。前770kg/後790kg(車検証記載値)と空車ではやや後ろ寄りの重量配分ながら、すばらしいバランスでカーブをこなしていく。ややアンダーパワーゆえ、速度を殺さず、丁寧に「曲がり」に入る工夫が楽しい。加速時のパンチに欠けるきらいはあるが、しばしSUV風ボディを忘れさせるハンドリングのよさを披露して、運転者を喜ばせる。ドアポケットのゴム織りのバンドは、山岳路でモノが飛び出さないための装備だったのか!?
X1は、生粋のビーエムファン向けというより、「BMWなんかどうだろう?」と迷っている新規ユーザーに、より魅力的に感じられるモデルだろう。リーズナブルな価格。国産車から乗り換えても不満を感じさせない親切装備の数々。大人4人が余裕をもって乗れ、十二分に荷物も積める。走らせればしっかり「ドイツ車してる」。クルマ好きの判断を狂わせる外観もまた、新たな顧客獲得のための、戦略的なアプローチなのかもしれない。
(文=青木禎之/写真=荒川正幸)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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