カワサキ・ニンジャZX-25R SE KRTエディション(MR/6MT)
ライバルはいない 2020.11.28 試乗記 2019年の東京モーターショーで公開されるや、久々の「250cc 4気筒エンジン搭載モデル」として二輪ファンを沸かせた「カワサキ・ニンジャZX-25R」。その走りを、レーシングチームのカラーをまとう上級モデルで試した。非力とはいえ扱いやすい
エンジンを始動して空ぶかししてみると、低回転のレスポンスは相当鈍い。一瞬、スタートするのにも苦労するのではないかと思ったけれど、実際に走りだしてみると杞憂(きゆう)に終わった。予想していたよりもずいぶん簡単にマシンが走りだす。これにはスタート時のマネジメントが関係している。
クラッチレバーを握ってギアを入れると、このタイミングで少し回転が上がってニンジャZX-25Rはスタートに備える。 クラッチレバーをはなしていくと、ここでさらに少し回転が上がる。試しにアクセルを全く操作せずクラッチミートしてみると、通常のスタートができてしまう。ライダーの操作に先行して備えるマネジメントがされているおかげで、ストリートでのスタートがとても楽になっているのである。
中回転域のトルクは250ccの2気筒モデルに比べれば負けているのだろうが、極端にトルクが乏しいという感じはしない。確かに回さないと走らないけれど、昔の250cc 4気筒よりはずいぶんスムーズで扱いやすい。道を選んで試しに6速6000rpmぐらいで走ってみたが、そこからでもスロットルを開ければ、交通の流れに乗ることができるくらいの加速はしてくれる(それ以上は望めないが)。
元気に加速しだすのは9000rpmくらいからで、パワーバンドが始まるのは1万1000rpmを超えたあたり。レッドゾーンの1万6000rpmを超え、レブリミッターの利く1万8000rpmまできれいに回り、澄み切った快音でライダーを興奮させる。試乗した「SE KRTエディション」にはクイックシフターが装備されているから、左足を動かせばシフトアップは一瞬で完了する。高回転の心地よい加速音が途切れることなく加速していく時の感じはとても楽しい。リッタースポーツでこんなことしていたら 一瞬で法定速度を超えてしまうわけで、この楽しさが普通に走ってる速度域で楽しめてしまうというのは、このバイクの大きな魅力だ。
注目すべきはシャシー性能
パワーモードを切り替えて「F(フルパワーモード)」にするとスロットルを開けた時のダイレクト感が増すけれど、それほど大きな特性の変化はない。絶対的なパワーがあるわけではないので、これはしかたがない。パワーモードは電子制御スロットルのオマケという感じだ。
個人的に気に入ったのはエンジンよりもハンドリング。250でありながら非常に安定している。フロントタイヤの接地感とステアリングのどっしりした感じは、まるでビッグバイクのよう。これには装着されているラジアルタイヤの恩恵も大きい。もちろん車体は軽いからバンクは軽快。安心してバイクを倒し込んでいくことができる。
そしてブレーキの制動力は高く、コントローラブルで、とても使いやすい。加えてフロントフォークの動きが素晴らしく、フルブレーキでもシッカリと車体を支えてくれる。今回はストリートだけしか走っていないが、それでもブレーキングから旋回に移るまでの過程が楽しくてしかたがない。車体やサスも余裕があるから、峠やサーキットでは思い切って走ることができそうだ。
ただし、コーナーの立ち上がりでは250マルチ(多気筒)のトルクのなさが影響して、パワーをかけてもトラクションはそれほどかからず、そのまま惰性で曲がっていくような感じになってしまう。高回転を常用していれば、幾分マシになるけれど、ストリートで常にぶん回しているような大人げない走り方をするのも気が引ける。このあたりは割り切りが必要な部分である。
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極めて得がたいフィーリング
元気に走っていると面白いのだけれど、ペースを落として走った時は面白みがずいぶんと減ってしまう。超高回転型エンジンの宿命としてローギアードだから、普通に走っているだけだとずいぶん回転が上がってせわしない感じがする。なにせ、100km/h巡航しているだけで エンジンの回転数は1万rpm近いのだ。
250の超高回転型エンジンは、パワーバンドも広いが、パワーの出ていない回転域のほうが広い。そして普通に走るとそちらの回転域を使うことが多いから、いざ加速をしようとしてもシフトダウンして回転が上がってくるまでには、わずかなりとも時間もかかる。ストリートで長く乗っていると、そういう感じがもどかしくなる。もっとも大排気量車だって法定速度で走っていれば、パワーを使い切れないストレスもあるわけで、これはライダーがどちらを選ぶかという問題だろう。
実は最近、「ニンジャZX-25Rは免許取り立てのビギナーにオススメできるか?」という質問をされた。乗りやすいマシンだし、走ること自体に苦労はない。高回転まで回しても暴力的な加速にはならないから、フィーリングや音を楽しむことができるはずだ、という話をした。
250マルチで1万8000rpmも回る超高回転型エンジンというのは相当特殊だ。今、このフィーリングを楽しむことができる乗り物はほかにない。電気による乗り物が今後台頭してくるであろうなかで、エンジンの付いた乗り物が速さや扱いやすさだけを追求していたら存在価値は薄くなっていってしまう。これくらいフィーリングを追求したバイクが、これから必要になってくるのだろう。
(文=後藤 武/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
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【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1980×750×1110mm
ホイールベース:1380mm
シート高:785mm
重量:184kg
エンジン:249cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ
最高出力:45PS(33kW)/1万5500rpm ※ラムエア加圧時は46PS(34kW)/1万5500rpm
最大トルク:21N・m(2.1kgf・m)/1万3000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:18.9km/リッター(WMTCモード)/24.0km/リッター(国土交通省届出値)
価格:91万3000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。