Shop Exploration Wheel Repair
美しく直して調和を保つ「リペア」という愛情表現 2020.12.07 Gear Up! 2021 Winter レストアと聞くと大ごとのように思えるかもしれないが、同じように気に入ったものを修復して再利用する「リペア」という選択があるのをご存じだろうか。東京・江戸川区に腕の立つ職人がいると聞き、早速そのリペアショップ「R3-BIC」を訪ねた。東京・日本橋から東に伸びる国道14号。京葉道路として知られるこの街道沿いには、立派な構えの自動車ディーラーや関連企業が多数軒を連ねている。その道路の東京と千葉の中間あたり、江戸川区新堀にリペアショップ「R3-BIC」はある。店先にまでところ狭しと並べられたタイヤとホイールのセットの銘柄や本数はバラバラ。よく見ると「AMG」の文字が刻まれたものが多く、メルセデス-マイバッハ用とおぼしき20インチも紛れていた。
「ウチなんか絵にならないけど本当にいいの?」ちょっとはにかみながらそう言ってわれわれを迎えてくれたのがこのリペアショップのオーナー岡田盛男さんだ。
「この仕事を始めたのは2008年頃。クルマが好きで手先が器用だったこともあったし、あとは自分で経営することにも興味があったから」それまでの職を辞し、関連企業のサポートを受けながらリペアショップとして独立・開業という道を歩み始めた岡田さん。そこからコツコツと腕を磨いてきた。
「リペアって基本的に直すことだから、完璧はありえなくて。でもどこまできれいに仕上げられるかにこだわって。もちろん失敗も経験したし、他の人のやり方も見てきました。ダメなところはなぜそうなったかの原因を探って次につなげての繰り返し。それでもなかなか満足いくものはできません」
そのそばから「いや、彼はそういうけどね、僕なんかはほんとわからないんだよ、直した傷が」と話すのは、今回このショップを紹介してくれた原 誠二さん。CG読者諸氏にはフランス車のスペシャルショップ「原工房」の代表と言えば早いだろう。
「もともとは同業者のつながりで知り合ったんだけど、ほんと日本一といってもいいくらいの腕を持ってる。ちゃんと設備投資もしていて、この奥の機械なんか日本初のホイール修正機で300台しかないようなものなんだから」。技術を磨くにしろ、設備投資にしろ、納得のいくよう仕上げるための努力を惜しまないのが岡田さんのスタンスである。
参考までにと、傷ついた1本のホイールを台に載せて作業を見せてくださった。「最初にエアを抜いて、次にタイヤチェンジャーでビードを落とす。次に養生して傷口を荒削りする。ワイヤーブラシをかけたりもしますね」
専用ペーパーを使っての養生は、もちろんタイヤに傷をつけないため。その作業は大事なプレゼントを包むかのように丁寧かつ素早い。荒削りやブラシ掛けをしっかりと行うのは、汚れ落としはもちろん、その後のための下地を作る意味合いが大きい。傷を埋めるには専用のアルミパテを用いる。ホイールの素材によってパテも変える。
「パテが乾いたら形を整えてサフェーサーを吹いて。色味がちゃんと合うように塗料を調合して吹いてクリアをかけて。このあたりは一般的な板金と同じですよね。もちろん塗装でも足付け(塗料の密着性を高める処理)をきっちりと。そうじゃないとバラバラっと剥がれたりします。実際、私がそういう経験をしたし、たくさんの失敗例も見てきたから、事前の準備は怠らない」
色の調合用としてペイントショップにも劣らない塗料が用意してあるのもこだわりのポイント。そんなふうに会話を続けながらの30分ほどで塗装前の工程がほとんど完了していた。これだけ素早いと一日に何本もの作業をこなせるのではと思い聞いてみると、(傷の大小や作業スケジュールにもよるが)朝に修理品を預かって夕方に戻すことは技術的に可能、とのことだった。一日できれいに元どおりになってしまうとは驚きである。だからだろう、原さんと同様に岡田さんを頼る人は多く、いまや関東近郊の輸入車ディーラーをはじめ、地方からも修理の依頼が絶えないという。店先に積まれた多彩なホイールの銘柄はそういう理由からだ。いただいた名刺に記された“10年間で2万本”の修理実績はだてではない。ご自身は当然のことを怠らずにコツコツやってきただけというが、その積み重ねが信頼につながっているのは言うまでもない。
「特に一般のお客さんの場合は、こちらの作業のクオリティーを見ていただいて、直しの方法や用いる素材など、きっちりとヒアリングをして、納得いただいてからの修理になります」と、どこまでも真摯(しんし)にリペアと向き合う岡田さん。一見寡黙そうで、ご自身も最初は冷たい対応かもとおっしゃっていたが、一方で「本当に直したいと思う人に来てほしい」という熱い心をお持ちだ。
クルマ好きならば車両そのものはもちろん、ホイールの1本にも愛情を注いでいるはず。それが傷ついたときに買い換えるのはもちろん簡単。でも、そんなときは修復することに惜しみない情熱を注いでくれる職人さんがいることを思い出してほしい。大きくついてしまった傷ももともとなかったかのような、新品同様に仕上げてもらえるホイールリペア、おすすめです。
(文=桐畑恒治/写真=加藤純也)
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