「スバル・レヴォーグ」が勝利した理由は? 今年の日本カー・オブ・ザ・イヤーを選考委員が振り返る
2020.12.21 デイリーコラム商品特性に見る「レヴォーグ」圧勝の理由
「2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー」(以下COTY)の結果は、1位が「スバル・レヴォーグ」(437点)、2位が「ホンダ・フィット」(320点)、3位が「トヨタ・ヤリス/ヤリス クロス/GRヤリス」(300点)となった。レヴォーグの得点が圧倒的に高い。
COTYでは、モータージャーナリストなどからなる60人の選考委員が一人25点の持ち点を持っており、各人がイヤーカーに推すクルマに10点を入れ、その他のクルマに残りの点(一台につき9点以下)を配分する仕組みとなっている。
そこで先ほどの3台を見ると、最高の10点を投じた人数は、レヴォーグ:25人、フィット:11人、ヤリス:13人と、やはりレヴォーグが最も多い。ただしフィットは11人、ヤリスは13人となっており、2/3位については、合計得点と10点を投じた人数の順位が逆転した。
各選考委員が2番目に多く配点した車種もレヴォーグが多いが、僅差でフィットも目立つ。3番目に配点された車種は、レヴォーグが減り、最も多いのはフィットで2位はヤリスだ。このように、レヴォーグの配点は10点と2番目、フィットは2番目と3番目が多い。ヤリスに10点を配点した人数はフィットより2人多いが、“2番目以降の配点”が少なかった。
レヴォーグが、10点に加えて6~9点となる2番目の配点を多く得た最大の理由は、どこを取っても高く評価される商品力だろう。新世代プラットフォームはさらに進化して、走行安定性、操舵感覚、乗り心地のバランスがいい。衝突被害軽減ブレーキや運転支援機能も高度化された。同時にレヴォーグは欠点も見つけにくい。そもそもステーションワゴンというカテゴリー自体、ミニバンのような空間効率は求められず、走りの性能を高く維持しやすい。軽自動車やコンパクトカーと違って価格の安さも問われず、内装の質や乗り心地を高めやすい。
つまりレヴォーグは、カテゴリー的にも有利で、そこに入念な開発を行ったから高得点に達した。10点を別の車種に投じた選考委員も、その次に多い点数をレヴォーグに与えている。
拡大 |
製品の違いが得点の仕方にも表れている
フィットは少し地味な商品でもあるから、10点を投じた人数は11人に限られたが、2番目に多い点数を与えた選考委員はレヴォーグとほぼ同じだ。3番目に多い点数を与えた選考委員の人数は、レヴォーグやヤリスを上回った。今年のCOTYは、スター性のある車種としてレヴォーグが勝ち、フィットは名脇役を演じたと言っていいだろう。10点を投じた人数はレヴォーグの半分以下でも、2/3番目の得点をガッチリと稼いだ。
フィットの外観は人によって評価が異なるが、フロントピラー(柱)を工夫して、前方視界を大幅に向上させた。ボディーの側面を水平基調に改めたので、側方や斜め後ろも見やすい。内装の質を高めて計器類や操作系の視認性も向上させた。燃料タンクは従来型と同じく前席の下に搭載されるため、後席と荷室は、全長が4m前後で全高も立体駐車場を使いやすいコンパクトカーでは最も広い。走行安定性と乗り心地もよくなり、ハイブリッドシステムも2モーター方式の「e:HEV」に進化している。
そして安全装備は、正式には公表されていないながら、右左折時に直進してくる車両や歩行者も検知できるという。フィットは今回のCOTYで、優れた商品開発により地道に得点を伸ばした。クルマの性格がそのままCOTYの得点にも表れている。
その点でヤリスは、後席と荷室が狭く、ファミリーカーとして使いにくい。走行性能はフィットよりも機敏で楽しく、クルマ好きの心に刺さるが、汎用(はんよう)性は低い。そのために10点を投じた選考委員はフィットより多かったのに、2番手以降の得票が下回って、合計点数もフィットより20点少なかった。
拡大 |
「ヤリス」と「ヤリス クロス」は同じクルマなのか?
また今回のCOTYでは、前述の通りヤリスとヤリス クロス、GRヤリスが、ひとつの車種として扱われた。日本自動車販売協会連合会の登録台数もヤリスシリーズ全体で集計されるが、少なくともヤリスとヤリス クロスでは、外観が明らかに異なる。一般的な認識では別のクルマだろう。
そうなるとユーザーがCOTYの結果をクルマ選びの参考にする場合、別々にノミネートさせたほうがいいという考え方も成り立つ。「ヤリス」という車種のとらえ方で悩んだ選考委員も多かったと思う。「3車連合はズルイ」という意見も聞いた。仮に、ノミネート車をヤリスだけに絞るなど別の方法を採っていたら、レヴォーグは抜けなくても、フィットを抜いて2位になっていた可能性はあるだろう。
ちなみに私の場合は、悩んだ結果、最も登録台数の多いコンパクトカーのヤリスを念頭に評価した(価格まで含めるとヤリスの評価が最も高かったこともある)。従って、ヤリス クロスとGRヤリスの商品力は、投票に影響を与えていない。
今までにも、第20回(1999-2000)の「トヨタ・ヴィッツ/プラッツ/ファンカーゴ」、第21回(2000-2001)の「ホンダ・シビック/シビック フェリオ/ストリーム」など、複数の車種でエントリーしてCOTYを勝ち取ったケースはある。今回のヤリスもその流れに沿ったものだが、ユーザーがクルマ選びの参考にするという観点では、検討する余地もあるだろう。
最後に、COTYのホームページでは各賞の受賞車とともに、選考委員の投票結果とおのおののコメントが掲載されている。そこまで読んでいただけると、投票の意図が伝わり、クルマを選ぶときの参考にもなると思う。COTYを大いに活用していただきたい。
(文=渡辺陽一郎/写真=日本カー・オブ・ザ・イヤー/編集=堀田剛資)
拡大 |

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
-
日産は“再挑戦”でホンダは“終了” 新型「エルグランド」発売に見る、プレミアムミニバンの今 2026.7.20 トヨタが圧倒的なシェアを占める上級ミニバンの世界において、新型「エルグランド」で復権をねらう日産。しかし、なぜフルモデルチェンジは16年ぶりになったのか? ホンダはどうするのか? この市場の今を考察する。
-
新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く 2026.7.17 アルピーヌが次期型「A110」を示唆する「A110フューチャー」を初公開。グッドウッドで走る姿を披露した。そこから分かる未来のA110の姿とは? 電動化がアナウンスされているが、エンジン車の設定はあるのか? 公式発表とテストカーの姿から深掘りする。
-
九州・熊本で開催 「Lamborghini Summer Days 2026」で極上なる猛牛の世界観を知る 2026.7.16 ランボルギーニが1泊2日の無料招待制イベント「Lamborghini Summer Days 2026」を、九州・熊本で開催。上天草の自然とともに最新モデルの走りと独自の世界観を味わう特別なツアーの詳細を報告する。
-
スライドドアはいつから? 「日産エルグランド」登場前夜の国産ミニバン史 2026.7.14 間もなく「日産エルグランド」の新型が発売される。これに限らずわが国は多くのブランドが多くのモデルをラインナップするミニバン王国なわけだが、そもそも国産ミニバンはどのようなかたちで始まり、どのような進化を遂げてきたのだろうか。多人数乗車モデルの歴史を解説する。
-
みんなで乗れるアメリカンSUBARU 3列シートSUV「アセント」はどれだけ大きいのか? 2026.7.13 アメリカで生産されているスバルの3列シートSUV「アセント」が、日本でも2026年後半から販売される見込みだ。一体どんな魅力の詰まったクルマなのか、発売を前にその特徴を予習しておこう。
-
NEW
電気自動車の人工的な走行音はどうあるべきか?
2026.7.21あの多田哲哉のクルマQ&AEVの走行時に車内で聞こえてくる人工的な“音”は、本来、どうあるべきなのか? やはり、疑似エンジン音が最適なのか? トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんの考えを聞いてみた。 -
NEW
アストンマーティン・ヴァンテージS(FR/8AT)【試乗記】
2026.7.21試乗記アストンマーティンの擁するFRスポーツ「ヴァンテージ」が、より高性能な「ヴァンテージS」に進化。よりたくましいエンジンを獲得し、卓越したコーナリング性能に磨きをかけつつ、“優しさ”も身につけた最新モデルの走りを報告する。 -
第340回:一にエンジン、二にカッコ
2026.7.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。マツダ渾身(こんしん)のラージ商品群を応援するカーマニアのひとりとして、「CX-60」と「CX-80」の動向は常に気になっている。3列シートSUV、CX-80の最新モデルにあらためて試乗して感じたこととは? -
日産は“再挑戦”でホンダは“終了” 新型「エルグランド」発売に見る、プレミアムミニバンの今
2026.7.20デイリーコラムトヨタが圧倒的なシェアを占める上級ミニバンの世界において、新型「エルグランド」で復権をねらう日産。しかし、なぜフルモデルチェンジは16年ぶりになったのか? ホンダはどうするのか? この市場の今を考察する。 -
ホンダ・インサイト(FWD)【試乗記】
2026.7.20試乗記3000台の限定で販売される新型「インサイト」は、クロスオーバー風のフォルムと、これまでのホンダ車にはなかった内外装のデザインテイストが新鮮だ。中国で生産され、日本独自の名前が与えられた新型電気自動車の走りと仕上がりを、ロングドライブで確かめた。 -
ポルシェ911カレラT(後編)
2026.7.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルとSTIでクルマの走りを鍛え、モータースポーツにも積極的に取り組んできた辰己英治さん。彼の目に、“スポーツカーの水準器”こと「ポルシェ911」はどのように映ったのだろう? 走りの楽しさを追求した「カレラT」グレードに乗っての印象を聞いた。
































