ボルボXC60リチャージプラグインハイブリッドT8 AWDインスクリプション(4WD/8AT)
北欧生まれはだてじゃない 2020.12.22 試乗記 プラグインハイブリッドシステムを搭載する「ボルボXC60」で、日本有数の豪雪地帯である青森・酸ヶ湯経由のルートをテストドライブ。後輪にモーターを用いたAWDの性能や、ボルボ自慢のセーフティーデバイスの実力を確かめた。名前の変更とともにADASも進化
東北新幹線の終着点である新青森駅に到着すると、用意されていたのは「XC60チャージプラグインハイブリッドT8」だった。冬の青森・八甲田山をボルボで走るというのが今回のテーマである。T8は2リッター直4ターボ+スーパーチャージャーのエンジンに2つのモーターを組み合わせたプラグインハイブリッド車(PHV)で、AWD機構を備えたXC60の最上級グレードだ。電動化を促進するボルボのハイテクパワーユニットとAWDの実力を、雪道の長距離試乗で同時に確認できる絶好の機会といえる。
実は、2シーズン前にも同車の雪上リポートを行っている。今回の雪上試乗において当時と異なるのは、北海道から青森へと舞台が移されたことと、もうひとつはXC60の車名だ。前回、冬の北海道で「T8 Twin Engine」と名乗っていたモデルは、2020年8月に取り入れられたボルボの新しい名称ルールにより、グレード名が「リチャージプラグインハイブリッドT8」に改められた。いささか長い車名だが、前述の通り2リッター直4ターボ+スーパーチャージャーエンジンに2つのモーターを組み合わせた、外部充電が行えるPHVであることに変わりはない。
そのパワースペックはというと、エンジンの最高出力が318PSで最大トルクが400N・m、フロントモーターの最高出力が46PSで最大トルクが160N・m、リアモーターの最高出力が87PSで最大トルクが240N・mとなる。後輪はモーターでのみ駆動される。
さらにこの2年の間に、仕様変更も行われている。ボルボ自慢のADAS(先進運転支援システム)は、「CTA(クロス・トラフィック・アラート)」に衝突回避・被害軽減ブレーキ機能を追加したほか、ステアリングを自動修正し車線の中央エリアの走行を維持できるよう支援する「パイロット・アシスト(車線維持支援機能)」に、ステアリングホイールの微振動でドライバーにシステムの一時解除を知らせる機能が備わった。新車登録から5年間、走行距離無制限の一般保証制度が導入されたのも、愛車候補として検討している方には大きなトピックになるだろう。
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センスよく仕立てられた内装
呼び名は変わっても、スタイリングは見慣れたボルボのミドルサイズSUV、XC60である。SUVとカテゴライズすべきXC60に泥くささや道具感はなく、誰もが知るプレミアムブランドの都会的なイメージをそのままに、車高をアップさせたという雰囲気だ。ホイールベースの長さに対し、前後のオーバーハングのボリュームが適切で、ホイールの大きさもバランスが取れていると思う。
個人的にはトーマス・インゲンラート氏がボルボデザインの舵取りをするようになって以降、つまり2013年9月のフランクフルトモーターショーで発表されたコンセプトカー「ボルボ・コンセプトクーペ」をプレビューとし現在に続く新世代モデルのデザインに好感を持っている。
ドイツ車とも英国車とも、ましてやイタリア車とも違うボルボ独自のブランドアイデンティティーは、XC60のようなSUVであっても、「V60」や「V90」のようなステーションワゴン、そしてコンパクトクロスオーバーの「XC40」に至るまで明確に表現されていると思う。ボルボという北欧由来のブランドに期待する品質感やエレガンス、そして過剰にならない適度なスポーティネスの調和がうまい。
早朝、まぶたが開け切らないようにどんよりとした空の下、青森の駅前からステアリングを握ったPHVのXC60には、前後255/45R20サイズの「ピレリ・スコーピオン ウインター」タイヤが装着されていた。市街地での乗り心地はよく、ロードノイズも抑え気味。「冬用タイヤなのに、操舵に対する遅れやぐにゃぐにゃ感もなくて結構いいよね。普通に何も意識せず、ドライ路面を走れる」と、同乗するカメラマン氏にもらした感想は、午後の山岳路で訂正されることになるのだが、それは後述。
質感の高いクリーンなインテリアもXC60の魅力のひとつだ。センスのいい「チャコール/ブロンド」と呼ばれる内装色に包まれながらのドライブは快適のひとこと。スイッチオンで即座に温まる標準装備のシートヒーターは心地よく、オプションのBowers&Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステムから流れる音楽に身をゆだねれば、まるで炎が揺れる暖炉の前で猫を膝に抱きながらくつろいでいるような気分が味わえる。
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ボルボには雪が似合う
青森市内を抜け、日本百名山のひとつ八甲田山方面へと向かう。当面の目的地は酸ヶ湯温泉で、このあたりは日本有数の豪雪地帯として知られている。主峰とされる大岳の標高は1500m強でしかないが、酸ヶ湯はアメダスでの観測が始まってから、一日に降った雪の深さを示す“日最深積雪”の日本記録を持っており、その積雪値は566cmに及ぶのだという。当然、冬季の環境は厳しい。最近の人にはドラマ『半沢直樹』に登場する東京中央銀行の中野渡頭取としておなじみの名優・北大路欣也が、昭和の大ヒット映画『八甲田山』で「天はわれわれを見放した」との名ゼリフを放ったあのあたりだといえば、その過酷さも伝わるだろうか。
XC60のプラグインハイブリッドシステムは、エンジンとモーターを効率よく使い分けながら走る。燃費を考えるなら、通常は「Hybrid」モードを選んでおけば間違いない。当たり前だが、車両は今日これからどの程度の距離を走るのかを知らないわけだから、効率化のため、まずは優先的に電力を使用するモーター駆動を選ぶ。30kmの前後の距離で一般道レベルの速度域ならばほとんどをEV走行でまかなえるが、今回はなかなかの長距離だ。
青森市内を抜けるころ、バッテリー残量はすでにゼロになっていた。したがって、モーターで後輪を駆動するXC60のAWDシステムは役に立たないのでは? という心配は無用。たとえバッテリー残量が表示上ゼロになっていても、後輪の駆動用に電力は別途、確保されているのだという。通常は前輪のみを駆動し走行。システムが後輪の滑りを感知するとほぼ同時に、電光石火のスピードでモーターが後輪にトルクを供給する。感覚的にはタイムラグなしでAWDの恩恵にあずかることができる。
山道を進むにつれ、周囲の景色が変わってくる。路面はドライから降り始めた雪で少しウエットになり、気がつけばシャーベット状から完全な圧雪路になっていた。そこから銀世界へは一足飛び。トンネルを抜けるまでもなく、酸ヶ湯温泉はまさに雪国だった。都会派に見られがちだが、やはり北欧生まれのボルボには雪が似合う。こうした路面状況の変化にもかかわらずワインディングロードを難なく上れたのは、後輪がしっかりとしたトラクションを確保していたからに違いない。
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回生ブレーキは使いよう
昼食時、酸ヶ湯で地元の山菜を使った手打ちそばに舌鼓を打ち、午後早めに山岳路を下る。夕方までに八戸市に向かえばよく、帰路は十和田市を経由するルートを選んだ。路面は相変わらず圧雪。スキー場に毎シーズン出かけるなど雪道走行の経験はそこそこにあるものの、2tオーバーの車重とウインタータイヤの組み合わせによる物理の原理からはやはり逃れられない。上りルートとは異なり、下りはスピードを抑え慎重にステアリングの操作をする必要がある。オーバースピードでコーナーに進入しようものなら、容赦なくテールが出るからだ。
1時間近く雪降る道を走る。そこですっかり勘を取り戻し、ペースをつかんだという慢心は禁物だった。進入速度が速すぎたのだろう。左コーナーで盛大にリアがスライド。同時に電動シートベルトテンショナーが作動し、前席に座る2人ともギュギューッとシートベルトに体が締め上げられた。「今の(シートベルトテンショナーの作動)は、かなり危険な状況だったってことですよね」「でも、天はわれわれを見放さなかったね」と笑って会話できたのは、タコ踊り気味の態勢から無事に復帰してからの話である。パニックブレーキや道路外への逸脱、横滑り、衝突などに至る危機的な状況のときに作動するセーフティーシステムを、身をもって体験できたわけだ。さすがに酸ヶ湯の雪道は、ウインタータイヤには荷が重かったのだろう。
そうした経験を踏まえ、山岳路を下りきるまで「B」レンジで走行した。最初から気づけよ、とは言わないでほしい。回生ブレーキを強くしスピードを抑えるとともに減速エネルギーを充電できるので、圧雪の下りルートでは安全の面でも効率の面でもメリットが大。ステアリングからの情報も豊かになった感じがする。そのかいあってか、十和田市内に入るころには、メーターパネル右下に位置する電池残量を示すブルーの表示が少しだけ増えた。
その後、数区間の短い間ではあったが高速道路でACCの動作を試し、無事無傷のまま目的地である八戸駅に到着することができた。高速走行時のしなやかな乗り心地や静粛性の高さといったキャビンの快適性は申し分なく、雪道でヒヤリとした一件も、ボルボのAWDと安全デバイスのおかげで回避できたと考えれば有意義な体験だったといえる。ただし首都圏のような非降雪地とは異なり、それなりの場所を走る際にはタイヤ選びも重要だと、当たり前のことをあらためて感じたのも事実である。
(文=櫻井健一/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ボルボXC60リチャージプラグインハイブリッドT8 AWDインスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1990×1660mm
ホイールベース:2865mm
車重:2180kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:318PS(233kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2200-5400rpm
フロントモーター最高出力:46PS(34kW)/2500rpm
フロントモーター最大トルク:160N・m(16.3kgf・m)/0-2500rpm
リアモーター最高出力:87PS(65kW)/7000rpm
リアモーター最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/0-3000rpm
タイヤ:(前)255/45R20 105V/(後)255/45R20 105V(ピレリ・スコーピオン ウインター)
燃費:12.6km/リッター(WLTCモード)
価格:949万円/テスト車=1001万1650円
オプション装備:メタリックペイント<デニムブルーメタリック>(9万2000円)/Bowers&Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステム<1100kW、15スピーカー、サブウーハー付き>(34万円) ※以下、販売店オプション ボルボ・ドライブレコーダー フロント&リアセット<工賃2万6400円含む>(8万9650円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1155km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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