ホンダCBR1000RR-RファイアブレードSP(6MT)
すべては速さのために 2021.01.14 試乗記 レースでも活躍するリッタークラスのスーパースポーツ。中でも今注目を集めているのが「ホンダCBR1000RR-Rファイアブレード」だ。「“TOTAL CONTROL” for the Track」をテーマに開発されたニューモデルは、ひたすらに“速さ”を追求したマシンに仕上がっていた。ディメンションは安定性重視
「ホンダCBR1000RR-RファイアブレードSP」(以下CBR)の車重は201kgだ。これは国産リッタースーパースポーツの中で最も軽い。そこに最もパワフルな218PSのエンジンを組み合わせているのだから、その動きは切れ味鋭いものに違いない。
という想像に反して、街なかを行くCBRのハンドリングはややまったりとしている。重いと言っても差し支えなく、ワインディング、サーキットとペースを上げていけばいくほど、それは顕著になっていく。終始、長いモノにしがみついているイメージがあり、これを安定性と捉えて歓迎するか、鈍重と捉えて失望するかは乗り手による。
重いと感じる要因は、従来型から大きく変わったディメンションに起因する。
【従来型CBR】
キャスター角:23.2°
トレール量:96mm
ホイールベース:1405mm
【新型CBR】
キャスター角:24.0°
トレール量:102mm
ホイールベース:1455mm
このように新型になってすべての数値が増大。とりわけホイールベースは50mmも延長されているのだから、見方によってはツアラー化しているようにも思える。
CBRは、レースに直結した「速さありき」のモデルだ。それなのに、なぜわざわざ緩慢にしたのか。
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体を鍛えなければ乗りこなせない
一般的には、車体は可能な限りコンパクトに収め、いつでもどこでもクルクルと曲がるミズスマシのようなハンドリングを理想に思うだろう。
しかしながら、実際はそうとも限らない。なぜなら、パワーウェイトレシオが1.0kg/PSを下回り、しかも最高出力が200PSを大幅に超える領域で俊敏さを追求していくと、神経質さが顔を出し、扱いにくいことこの上ないからだ。事実、スーパースポーツをレーシングマシンに仕立てていくと、多くの場合、スイングアームを延長していくことになる。それによって超高速域でも乱れない路面追従性を確保しているのだ。
つまり、このCBRの車体構成は、最初からそれを見越したものなのだ。それゆえ、低中速域での反応は鈍く、シートに座ったままではあまり曲がりたがらない。持てる運動性を引き出すには体を旋回方向に大きくオフセットし、フロントタイヤへ荷重をかけながら車体を深々とバンクさせなければならず、しかもそれを休む間もなく続ける必要がある。
いわゆるハングオフのライディングフォームで走らせた時に真価を発揮する設定なのだが(これ自体はどのスーパースポーツにも共通する)、その依存度が極端に大きく、高いフィジカルを求められる。シート座面が広く、自由度が高いのも、ライダーが常に前後左右上下へ体を動かすことを前提としたものだ。実際、ペースを上げようとすれば他メーカーのライバルモデルよりも瞬発力や持久力を要し、体力を消耗する。かといって漠然とまたがっていては、真のポテンシャルからは程遠い。
もっとも、そこまでの領域を求めないのであれば、新型CBRは乗りやすい。既述の通り、常識的なペースで走らせている時のハンドリングはゆったりとしたもので、「ソリッド」や「スパルタン」といった表現とは無縁だ。ライディングポジションこそ安楽ではないものの、それ以外はツアラーのように身を委ねたまま流すことができる。3パターンが用意されるライディングモードを穏やかなほうへセットすれば、そのキャラクターが強調され、ストップ&ゴーが続くような場面でもストレスを感じない。ビギナーはビギナーなりに、上級者は上級者なりにうまみを感じられるポイントがある。
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ヒザではなくてヒジを擦れ
一方、新型CBRに乗ってモヤモヤするのは、中級レベルのライダーだろう。特にサーキットで走らせた時は「曲がらない」という第一印象を抱くはずだ。軽くお尻を横にずらし、ヒザを少々擦る程度では機動性に乏しく、なんとなくコーナーをやり過ごすことになる。ブレーキングにしても、車体の倒し込みにしても「なんとなく」な入力には「なんとなく」でしか応えてくれず、その意味では素直そのもの。すべての操作系を駆使し、自由度の高いポジションを生かす積極性がないと、本質が見えてこない。
積極性という文言はいかにも抽象的だが、参考にするべきライディングスタイルは明らかだ。MotoGPライダー、マルク・マルケスを筆頭とする“ヒジ擦(す)りフォーム”がまさにそれ。体も頭もインへ大きく引き込み、車体をねじ伏せるようなイメージで操った時にこそ、しっくりくるようにあつらえてある。
その一端をハンドルバーに見つけることができる。CBRのそれは極端に開いて装着されており、ブレーキング時は踏ん張りやすく、コーナリング時は車体にぶら下がりやすい位置に合わせてあることが分かる。ライダーの好みではなく、CBRにとって最も都合のいい乗り方にアジャストする意識が必要だ。
超高速・超高荷重域に特化したハンドリング同様、エンジンもそのレベルに合わせ込んである。街なかやワインディングロードでピーキーさを感じないのは、電子制御の恩恵もさることながら、ギアレシオの設定が大きい。なにせ、スロットルを全開すれば1速で180km/hに到達するほどハイギアードなのだ。
そのぶん、1速から6速まではクロスしたギアが組み込まれ、スロットルレスポンスが最も鋭くなる1万rpm~1万5000rpmをキープして走らせられる……のだが、その領域では国際レーシングコースでもためらわれるほど、車速の伸びが異常なレベルになる。
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本物は乗り手を選ぶ
すごみを感じさせるのは、ハイギアードをものともしない強烈な加速感の中でも、スタビリティーを失う気配がみじんもないところだ。ウイリーコントロールやトラクションコントロールの作動に加えて、サイドカウルに設けられたウイングレット、従来モデル比で45mmも低くなった燃料タンクカバーといったエアロダイナミクスがそれをサポート。こだわりはリアフェンダーにも及び、タイヤが巻き起こす乱流を防ぐことを目的にデザインされている。泥はねを防止する機能より、整流を促すことを優先して装着されているというわけだ。
このように、新型CBRが躍動する舞台は公道には存在しない。だからといってサーキットへ持ち込んでも、生半可なライディングではただひたすらGに耐えるだけの拷問になるに違いない。
ただし、そこにはダマしもごまかしもない。ホンダはこれまで、歴代のCBRには「Total Contol」というテーマを与えていた。場所を選ばず、操る楽しみを提供するという意味が込められていたわけだが、この新型は「“Total Control” for the Track」、そして「Born to Race」を堂々と公言。すがすがしいほどに割り切られ、乗り手を選ぶことを隠していない。その期待にたがわないスペックが投入されているのである。
(文=伊丹孝裕/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2100×745×1140mm
ホイールベース:1455mm
シート高:830mm
重量:201kg
エンジン:999cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ
最高出力:218PS(160kW)/1万4500rpm
最大トルク:113N・m(11.5kgf・m)/1万2500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:16.0km/リッター(WMTCモード)/21.0km/リッター(国土交通省届出値)
価格:278万3000円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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