スバル・レヴォーグSTI Sport EX(4WD/CVT)
ワゴンがあるじゃないか! 2021.01.22 試乗記 いまやスバルの中核モデルへと成長した「レヴォーグ」。六連星(むつらぼし)の新たなフラッグシップと位置づけられる新型は、スポーツワゴンらしい走りと使い勝手のよさが実感できる一台に仕上がっていた。低いことはいいことだ
『webCG』編集部で試乗車をピックアップして、流れの速い駒沢通りに出る。右折する鎗ヶ崎の交差点までは短い上り坂だ。2車線をすみやかに斜行して右に寄らないといけない。強めにアクセルを踏み込んだところで、オーッ! と思った。間髪入れず反応したエンジンがイイ。それだけではない。やっぱりこういうのはイイなあと思った。屋根も車高も高すぎない、こういうクルマ。
増える一方のSUVと違って、まずアイポイントが低い。つまり路面に近い。成人の目線よりずっと低い位置に座って動くこういうクルマは、本来、それだけで非日常的でリフレッシングなのだ。身のこなしのレスポンスも背高のSUVとは初期設定が違う。なんてことをファーストタッチで再認識させてくれたのが新型レヴォーグである。
試乗したのは「STI Sport EX」。シリーズ唯一400万円を超す最上級モデルだが、これまでの販売比率ではSTIが全体の6割を占め、2グレードあるSTIでは上級のEXが95%を占めるという。
新開発の1.8リッターエンジンは全車共通だが、電子制御ダンパーやドライブモードセレクトなど、スバル初の機能装備や専用の内外装をまとうのがSTIである。さらにEXは最先端の運転支援システム「アイサイトX」や11.6インチのセンターディスプレイといった新型レヴォーグ自慢の装備を持つ。「出たては高いほうから売れる」という定石どおりのナンバーワン売れ筋モデルである。
歴代最高のフラットフォー
先代の1.6リッターより軽量コンパクトな1.8リッター水平対向4気筒ターボは177PSのパワーを発する。旧1.6リッター(170PS)に対して数値的なアドバンテージは大きくないが、乗るとスペック以上に力強い。とくに動き出しの素早さが特徴的で気持ちいい。ボア×ストローク=80.6×88.0mmというロングストロークユニットだが、6000rpm以上まで回し切ったときのフリクションの少なさとなめらかさは、スバル歴代フラットフォー随一だと思う。ピストンの動きそのものがバランサーとして働くという、水平対向方式のうたい文句をかつてないほど納得させるエンジンである。
しかも、ただモーターのようにスムーズなわけではなく、回転マナーにはかつてのボクサーサウンドをキメ細かく濾したような独特のフィールも残っている。2030年代半ばにはなくなるという噂もある純内燃機関だが、最近の国産ユニットのなかでは、「GRヤリス」の1.6リッター3気筒ターボとともに「やっぱりエンジンってイイですね大賞」を差し上げたい。
約240kmを走って、満タン法測定値、車載燃費計表示いずれも8km/リッター台だった。40%という世界トップクラスの最大熱効率を掲げるわりに、燃費はそれほどでもなかった。パワフルな1.8リッターターボのフルタイム4WDならこんなものだろうか。レギュラーガソリンが使えるのは救いだ。
STIでも総じてマイルド
エンジンに負けず劣らずシャシーもイイ。というか、シャシーは明らかにエンジンより速く、コーナリングマナーはすばらしく安定している。それでいて乗り心地も快適なのが普段使いでの大きな美点だ。
走行系ではパワートレイン、ダンパー、ステアリング、4WDシステムなどに効くドライブモードセレクトは5パターンだが、最強の「スポーツ+」を選んでも、上下動の振幅がわずかに小さくなるだけで、乗り心地のよさは変わらない。
並のクルマなら突き上げを食らうような凹凸でも、ショックのカドが丸いのは、ZF製電子制御ダンパーの恩恵大だろう。ダンピングはスポーツ+がデフォルトでもいいくらいだと感じた。でも、ハンドルはいちばん軽い「コンフォート」でいい。ACC(アダプティブクルーズコントロール)の反応は「スポーツ」がいい。といったように、可変アイテムをそれぞれ自分好みに設定できる「インディビジュアル」モードもある。
「インプレッサWRX」VS「ランサー エボリューション」の時代と違って、いまのSTIは大人の高性能モデルである。新型レヴォーグもまさにそうで、スポーティーさよりむしろ快適性のほうに感心させられた。それは結構だが、ただ一点、ドライバーズシートはもう少しサポート性の高いつくりのほうがいいのではないか。ワインとブラック、ツートーンのレザーシートで、見た目は好印象だが、座るとブニュッと柔らかくて、ちょっとコンフォートに振り過ぎに思える。
ファン・トゥ・ドライブかつ快適
首都高で渋滞に巻き込まれたら、青い道路上にレヴォーグが連なるイラストが眼前に出た。そこでステアリングパッドのボタンを押すと、手放し運転ができる。アイサイトXの「渋滞時ハンズオフアシスト」だ。
自動運転に近づいた分、人間(ドライバー)への監視も強まって、横を向いたり、上半身を大きく傾けたりすると、たちまち警告が発せられる。停止時にハンドル上にトリセツを広げて読もうとしたら、ピピピピと鳴って「居眠り警告」というメッセージが出た。センターディスプレイ近くにあるカメラで常にドライバーをモニタリングしているからだ。
人間に運転をさせたいのか、それとも人間から運転を取り上げたいのか、どっちやねん? と言いたくなるようなフクザツな思いにかられるのはこうしたハイテクカーに共通だが、新型レヴォーグは運転もとびきりイケるクルマだ。
いいエンジンといい足まわりのおかげで、ファン・トゥ・ドライブかつ快適だ。しかもステーションワゴン。後席を畳めば、床は完全フラットになり、テールゲート開口部に邪魔な敷居もない。車高を上げていないから、荷室フロアも低い。とくに重いかさものを運ぶヘビーユーザーにとって、ステーションワゴンは最適解である。409万2000円だが、内容は濃い。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
スバル・レヴォーグSTI Sport EX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4755×1795×1500mm
ホイールベース:2670mm
車重:1580kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.8リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:177PS(130kW)/5200-5600rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/1600-3600rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(ヨコハマ・ブルーアースGT)
燃費:13.6km/リッター(WLTCモード)/16.5km/リッター(JC08モード)
価格:409万2000円/テスト車=409万2000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:3584km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:236.5km
使用燃料:27.3リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:8.7km/リッター(満タン法)/8.4km/リッター(車載燃費計計測値)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。