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日産ノートX(FF)

荒波を乗り越えて 2021.02.19 試乗記 鈴木 真人 いろいろあった日産だが、新型「ノート」の出来栄えをみると完全復活が近いようだ。第2世代へと移行した電動パワートレイン「e-POWER」やマップデータとの連携機能を備えた運転支援システム「プロパイロット」の仕上がり具合を報告する。

日産の進む道

ノートは日産にとって将来を占う重要なモデルだ。先代モデルは2018年の国内登録車販売台数ランキングを制するなどして話題になった。2012年に2代目となってからかなり時間がたっていたが、2016年のマイナーチェンジで追加された電動パワートレインのe-POWERを搭載したモデルが爆売れしたのだ。要するにシリーズハイブリッド車なのだが、モーターのみで駆動するため電気自動車(EV)と同じ運転感覚を持っているのが新鮮だった。

人気車種ではなかったノートがコンパクトカー市場で大きな存在感を示すようになったのはe-POWERのおかげである。e-POWERは「セレナ」にも搭載され、好評を博した。EVの「リーフ」を持つ日産にとって、電動化戦略の幅を広げるキーテクノロジーだ。新しいノートは、e-POWERモデルのみである。新世代のシステムに進化しており、新プラットフォームとの組み合わせはこれからの日産車が進む道を示すことになる。

日産は“ホームマーケット日本の再強化”を掲げている。ニューモデルの投入が遅れていた状況を改善するため、2023年度末までにEVを2車種、e-POWERを4車種発売する計画だ。他メーカーでもコンパクトカーはハイブリッドが主流となっているが、それは燃費競争を意味しているわけではない。燃費のよさが大きなアピールポイントだったのは過去の話で、日産の調査では2018年からは安全性が最も重視されているという。先進イメージも大切で、e-POWERはアドバンテージとなるようだ。

第2世代e-POWERの改良点は3つ。「力強さ」「なめらかさ」「静かさ」だ。いずれもモーター駆動が内燃機関より有利なポイントであり、長所を伸ばしていこうという方針なのだ。乗ってみると、確かに先代モデルから着実な進化を遂げていることがすぐに実感できた。

今回は最上級グレードの「X」に試乗。車両本体価格218万6800円に100万円分以上のオプションが装着され、試乗車の価格は321万1256円にも達していた。
今回は最上級グレードの「X」に試乗。車両本体価格218万6800円に100万円分以上のオプションが装着され、試乗車の価格は321万1256円にも達していた。拡大
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4045×1695×1520mm。先代モデルより55mm短くなったものの、依然として「ホンダ・フィット」や「トヨタ・ヤリス」といった同カテゴリーのクルマよりも少し長い。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4045×1695×1520mm。先代モデルより55mm短くなったものの、依然として「ホンダ・フィット」や「トヨタ・ヤリス」といった同カテゴリーのクルマよりも少し長い。拡大
日産車のアイコンである「Vモーショングリル」のデザインも新世代に。薄型のヘッドランプはグリルと一体化されている。
日産車のアイコンである「Vモーショングリル」のデザインも新世代に。薄型のヘッドランプはグリルと一体化されている。拡大
「X」では16インチのタイヤ&ホイールが標準装備。試乗車にはオプションのアルミホイールが装着されていた(標準はスチールホイール×キャップ)。
「X」では16インチのタイヤ&ホイールが標準装備。試乗車にはオプションのアルミホイールが装着されていた(標準はスチールホイール×キャップ)。拡大
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“ワンペダル運転”はできない

ペダルをひと踏みするとスルスルと音もなく走りだす。モーター駆動がもたらす上質な感覚だ。そろそろ慣れてきてはいるものの、静かなままで加速していくことにあらためて感心してしまう。力強さが増したように感じられるが、荒々しさにはつながっていない。節度を持って丁寧にパワーを扱っている。モーターの特性をそのまま発揮させればもっと素早い加速ができるはずだが、そういう仕立てはすぐに飽きてしまうだろう。

先代ノートe-POWERは、モーターで走る楽しさをもっとストレートに表現していたような気がする。新型はパワーコントロールの洗練度が高くなり、重厚ささえ感じられる。先代の軽やかでスポーティーな走りも魅力的だったが、より広いユーザーに向けてチューニングしたのだろう。ハイブリッド車も含めてエンジン駆動のクルマに乗っている人が大多数なのだから、乗り換えても戸惑わないことが大切だ。

加速よりもっと変わったのが減速のフィールである。先代ノートは“ワンペダルドライブ”を掲げていて、発進から停止までアクセルペダルのオンオフだけで操作できることを強調していた。新型ではこれを推奨していない。というより、できないのだ。クリープ機能を付けたので、アクセルオフだけでは完全には停止しない。駐車時などにはクリープがないと不便であり、要望が多かったのだろう。

「ノーマル」「エコ」「スポーツ」の3種類のドライブモードが用意されている。「エコ」「ノーマル」「スポーツ」の順番が一般的だが、あえてこの並びにしたのはエコがデフォルトであるということを示しているわけだ。エコモードではノーマルに比べてアクセルオフ時の減速力が強くなる。それでもかなりマイルドな設定で、先代モデルで鍛えた停止線にピッタリ止まるというスキルは使えない。

駆動用モーターは先代モデルよりも7PSと26N・m強力な最高出力116PS、最大トルク280N・mを発生。エンジンの出力も高められ、発電効率がアップしている。
駆動用モーターは先代モデルよりも7PSと26N・m強力な最高出力116PS、最大トルク280N・mを発生。エンジンの出力も高められ、発電効率がアップしている。拡大
センターディスプレイとメーターパネルの、2枚のスクリーンが主張するダッシュボード。先代モデルよりも全体的な質感が大幅に高まっている。
センターディスプレイとメーターパネルの、2枚のスクリーンが主張するダッシュボード。先代モデルよりも全体的な質感が大幅に高まっている。拡大
フローティング構造のセンターコンソールを採用。ブリッジの下には収納用トレーとHDMI端子が備わっている。
フローティング構造のセンターコンソールを採用。ブリッジの下には収納用トレーとHDMI端子が備わっている。拡大
写真中央の四角いパーツがシフトセレクター。丸いセレクターをマウスのようにつまんで操作する先代モデルのものよりも扱いやすくなっている。
写真中央の四角いパーツがシフトセレクター。丸いセレクターをマウスのようにつまんで操作する先代モデルのものよりも扱いやすくなっている。拡大

周到なエンジン音対策

高速走行時にもアクセルオフではそれほど速度が落ちなくなった。自然なフィールになったのは確かである。ナビリンク機能が付いたプロパイロットを使ってみた。地図情報に基づいて、カーブの手前などで車速をコントロールする仕組みである。メーターにS字カーブのアイコンが表示された時に作動しているらしい。急激に減速することはなかったから、このコーナーは何km/hと厳密に決まっているのではないようだ。

ワインディングロードではドライブモードをスポーツに設定。加速力が強まるということだが、体感としてはそれほど変わらなかった。上り坂で負荷がかかると電力供給のためにエンジンはかかりっぱなしになり、モーター駆動のクルマに乗っているという感覚は薄くなる。スピードの伸びは割と早く頭打ちになるので、中高速コースではあまり楽しめないかもしれない。細かいコーナーが連続する道でワンペダル気味にリズムよく走るのは楽しかった。

EVのような大容量のバッテリーを積んでいないので、蓄えられる電気の量は少ない。こまめにエンジンを回して充電する必要があるが、無粋な音が発生するのはイヤだ。新型ノートは周到な対策を用意した。平らな道を静かに走っている時は極力発電しないようにし、ロードノイズが大きくなったらエンジンをかけるという制御を取り入れたのだ。どのくらい効果があったのかはよくわからなかったが、日常使いでは差が出るのだろう。もともとノートは耳障りなエンジン音ではなかったのに、この細やかさが日本のメーカーらしい気配りである。

中身の進化に劣らず、デザインも大きく変わった。外観に先代モデルの面影はほぼない。先代ノートはルックスで引きつけるというクルマではなかったから、一新したのは当然である。エッジの効いた面構成はなかなかダイナミックで、太陽光の当たり方で大きく表情を変えるのが面白かった。ノートのデザインテーマは“タイムレスジャパニーズフューチャリズム”。わかりにくいが、EVの「アリア」と共通のデザイン言語なのだそうだ。泥くささが消えたのは歓迎すべき変化である。

「ワンペダルドライブ」を強調していた先代モデルとは異なり、新型ではアクセルを放しても完全停止はしない。駐車時などに役立つクリープができるようになった。
「ワンペダルドライブ」を強調していた先代モデルとは異なり、新型ではアクセルを放しても完全停止はしない。駐車時などに役立つクリープができるようになった。拡大
ステアリングホイールはチルト調整とテレスコピック調整が可能。本革巻き仕様はセットオプションに含まれている。
ステアリングホイールはチルト調整とテレスコピック調整が可能。本革巻き仕様はセットオプションに含まれている。拡大
ステアリングポストの右下には車線維持支援システムとステアリングヒーターのスイッチがレイアウトされる。2つのステアリングアイコンの図柄がまったく違うのが面白い。
ステアリングポストの右下には車線維持支援システムとステアリングヒーターのスイッチがレイアウトされる。2つのステアリングアイコンの図柄がまったく違うのが面白い。拡大
「統合型インターフェースディスプレイ」と呼ばれる液晶メーターは「X」にのみ装着可能なオプションとなっている。
「統合型インターフェースディスプレイ」と呼ばれる液晶メーターは「X」にのみ装着可能なオプションとなっている。拡大

音もつくり込む

グリルが変わったことも大きい。ノートだけの変化ではなく、以前から使われていた「Vモーショングリル」が新しくなったのだ。世界中のメーカーがグリルデザインの派手さを競う中で埋没している印象があったので、これも賢明な判断である。ヘッドライトとナチュラルにつながり、一体感が強まった。リニューアルされたブランドロゴを使ったエンブレムも初めて使われており、新型ノートは日産デザインの新しい方向性を示すモデルとなっている。

伸びやかなフォルムに見えるが、先代より全長が55mm短い。同じプラットフォームを使う「ルノー・ルーテシア」もサイズダウンしていて、コンパクトカーが大きくなりすぎたことを反省する動きが世界的に始まっているのだろう。ホイールベースも20mm縮小されているから室内が狭くならないか心配になる。しかし、後席に座ってみると十分なニースペースが確保されていた。先代ノートの後席はライバルより圧倒的に広かったので、まだまだアドバンテージが残っている。

メーターはモニターと一体になったバイザーレスデザイン。段差があるから「モノリス」と名づけたことには違和感があるが、今風にアップデートされている。センターコンソールの下に広い空間があるのは、ボルボのフローティングセンタースタックに似ているような。「マツダMX-30」も同様の構造で、本家がやめてしまった意匠をなぜか日本のメーカーが相次いで採用したのはなにか理由があるのだろうか。

形状だけでなく、音にもデザインが施されている。プレス向けの資料には“高品質感活動”という項目があって、つくりのよさと演出について詳しく説明していた。バンダイナムコとコラボして警告音の音色を工夫し、ドアを閉める時の音もつくり込んだという。おせっかいなほど丹念にディテールを解説する姿勢に既視感があると思ったら、マツダが技術をレクチャーするやり方とそっくりである。いいところはどんどんマネすればいい。ダッシュボードとドアトリムのつながりなど、まだまだ盗む点はあるはずだ。

さまざまな面に細やかな目配りが行き届き、ノートの魅力は着実に向上した。もともと技術はあるのだ。いろいろあったけれど、日産はいい方向に変わりつつあるのだと思う。

(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

WLTCモードの燃費値は28.4km/リッター。354km余りをドライブした今回は満タン法、車載燃費計計測値ともに19.9km/リッターを記録した。
WLTCモードの燃費値は28.4km/リッター。354km余りをドライブした今回は満タン法、車載燃費計計測値ともに19.9km/リッターを記録した。拡大
センターコンソールの前端にはスマートフォンのワイヤレス充電器がレイアウトされる。その上に付いているUSBソケットともどもセットオプションに含まれる。
センターコンソールの前端にはスマートフォンのワイヤレス充電器がレイアウトされる。その上に付いているUSBソケットともどもセットオプションに含まれる。拡大
試乗車にはオプションの本革シートが装着されていた。縦横に細かなステッチが入った表皮は上質な手触りだ。
試乗車にはオプションの本革シートが装着されていた。縦横に細かなステッチが入った表皮は上質な手触りだ。拡大
後席には背もたれのリクライニング機能が付いている。「フィット」や「ヤリス」よりも明確に広い足元空間が「ノート」の武器だ。
後席には背もたれのリクライニング機能が付いている。「フィット」や「ヤリス」よりも明確に広い足元空間が「ノート」の武器だ。拡大
荷室には後席使用時でも550×400×250mmサイズのスーツケースが4つ搭載できる。
荷室には後席使用時でも550×400×250mmサイズのスーツケースが4つ搭載できる。拡大

テスト車のデータ

日産ノートX

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4045×1695×1520mm
ホイールベース:2580mm
車重:1220kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:82PS(60kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:103N・m(10.5kgf・m)/4800rpm
モーター最高出力:116PS(85kW)/2900-1万0341rpm
モーター最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)/0-2900rpm
タイヤ:(前)185/60R16 86H/(後)185/60R16 86H(ブリヂストン・エコピアEP25)
燃費:28.4km/リッター(WLTCモード)
価格:218万6800円/テスト車=321万1256円
オプション装備:統合型インターフェースディスプレイ+インテリジェントアラウンドビューモニター<移動物検知機能付き>+インテリジェントルームミラー+USB電源ソケット<タイプA×1、タイプC×1>+ワイヤレス充電器+日産コネクトナビゲーションシステム<地デジ内蔵>+日産コネクト専用車載通信ユニット+プロパイロット<ナビリンク機能付き>+SOSコール+インテリジェントBSI<後側方衝突防止支援システム>+BSW<後側方車両検知機能>+RCTA<後退時車両検知警報>+ETC2.0ユニット(44万2200円)/ホットプラスパッケージ<ヒーター付きドアミラー+ステアリングヒーター+前席ヒーター付きシート+リアヒーターダクト>+クリアビューパッケージ<ワイパーデアイサー+リアLEDフォグランプ>+高濃度不凍液+PTC素子ヒーター(7万3700円)/185/60R16 86Hタイヤ&16インチホイール+LEDヘッドランプ<ハイ&ロービーム+オートレベライザー+シグネチャーLEDポジションランプ>+アダプティブLEDヘッドライトシステム+LEDフォグランプ+本革巻きステアリング+ピアノブラック調フィニッシャー<インストロア>+シート地<本革>+リアセンターアームレスト<カップホルダー×2>(33万5500円) 以下、販売店オプション ウィンドウはっ水12カ月<フロントウィンドウ1面+フロントドアガラス2面>(1万0285円)/日産オリジナルドライブレコーダー<フロント+リア>(7万2571円)/フロアカーペット プレミアム<消臭機能付き>(2万9700円)/トノカバー(2万4200円)/ラゲッジアンダーボックス(3万6300円)

テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1180km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:354.2km
使用燃料:17.8リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:19.9km/リッター(満タン法)/19.9km/リッター(車載燃費計計測値)

日産ノートX
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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