ジープ・グランドチェロキー リミテッド(4WD/5AT)【試乗記】
破格のプレミアム 2011.04.13 試乗記 ジープ・グランドチェロキー リミテッド(4WD/5AT)……523万円
新開発の3.6リッターエンジンを搭載し、エアサスペンションなどの新機構を採用した新型「グランドチェロキー」。オンロードでの走りと乗り心地を試した。
欧州SUVと戦う姿勢
春浅いトスカーナで、ぶどう畑の中を穏やかな気分で走ったことを思い出した。「グランドチェロキー」に乗るのは、先代の海外試乗会以来になる。今回は試乗車を借りだして、秩父路を走ってきた。季節は同じだが、道の様相は異なる。それ以上に、6年前とは人とクルマが置かれている環境がまったく違う。
2005年に3代目になった時も、その洗練ぶりに目を見張った。フロントサスペンションがリジッドから独立懸架に換えられ、ステアリングフィールからルーズさがなくなった。ジープの名がイメージさせるアメリカンな乗り味から、欧州SUVのテイストへと転換したことがはっきりと示されていた。
今回は、さらにリアサスペンションも一新され、四輪独立懸架となった。オフロードとオンロードの性能の両立をうたうが、オンがより重視されるようになったことは間違いない。
車内のしつらえを見ても、それは感じられる。ウッドパネルと本革で構成されたインテリアは、ワイルドさとは無縁の高級感を醸しだす。駆動モードを選ぶ「セレクテレインシステム」はダイヤルで操作する仕組みで、無骨なレバーを力任せに動かす必要はない。顔つきにしても、ジープのアイデンティティである7本のスリットは健在だが、丸目のヘッドランプは残ってはいるものの、一見すると細長い長方形に見えるデザインだ。ジープブランドのフラッグシップとして、ポルシェ、アウディ、BMWなどと真正面から戦う姿勢を明確にしたのだ。
「アメ車=V8」は過去のもの
先代のひとつのウリは、「ヘミ」こと5.7リッターV8エンジンの採用だった。「クライスラー300C」に採用されて好評を博したパワーユニットである。326psを誇るハイパワーとアメリカ車らしいサウンドが気持ちよく、大きな魅力となっていた。それに加えて4.7リッターV8も選べたが、今回導入されるのは、ツインカムヘッドを得た3.6リッターV6エンジン搭載モデルのみだ。「アメリカ車=V8」なんていう図式は、今や過去のものなのかもしれない。
286ps、35.4kgmの数値は決して低いものではないけれど、2.2トンの車体はさすがに手ごわい。発進や急加速でアクセルを思い切り踏んづけると、一瞬ためらうかのように身をすくめた後でエンジン音を高めながら前へ進んでいく。右足に即座に反応するという感覚ではない。このクルマが得意とするのは、そんな乱暴な振る舞いではなく、ある程度スピードに乗ってからゆったりとクルージングする場面だ。エンジンの回転数は低く、瞬間燃費計を見るかぎりでは、リッターあたり10キロ台中盤の数字を保っている。
試乗した「リミテッド」は上級バージョンで、エアサスペンションをオプションで装備していた。金属バネとの差はわからないが、この「クォドラリフトエアサスペンション」がオンロード向けによくしつけられていることは確かだ。中央高速から圏央道へと抜け、結構なハイペースで走った。圏央道は間断なくカーブが続くが、ロールは小さめでドライバーは不安を抱かない。車体の重さをつい忘れてしまう。そして、なめらかでどっしりとした乗り心地である。車内の静かさも一級品だ。流している限りエンジン音は控えめで、風切り音もよく抑えられている。
バリュー・フォー・マネー戦略!?
青梅から奥多摩方面に進み、飯能を経由して秩父を目指した。急な勾配とRの小さいコーナーが連続する山道である。このクルマが得手とするステージではないだろう。それでも、存外身のこなしは敏捷(びんしょう)なのだ。楽しむとまではいかないけれど、難行苦行というほどではなかった。途中、すれ違いができない道幅になってくると、さすがにゆっくりと気遣いながらの進行となる。
フロントウィンドウから前を眺めると、こんもりと力感あふれるボンネットが広がる。狭い場所では、慣れるまで恐る恐る自車の位置を見極めなくてはいけない。コインパーキングに駐車するのは、かなり厄介だった。モデルチェンジでボディはますます成長し、横幅はもう少しで2メートルに届きそうだ。日本の都市部の駐車場は、こんなサイズのクルマを想定していない。バックソナーはあるがモニターは装備していないので、奥まった場所に駐車するのは一苦労だった。
堂々たる体躯(たいく)にプレミアムの香りをまといながら、車両本体価格は498万円である。エアサス付きでも523万円だ。HDDナビやレザーシートを必要としなければ、ベーシックな「ラレード」が398万円で用意されている。ライバルたちのプライスタグと見比べると、破格なんて言葉では足りないほどだ。バリュー・フォー・マネーの観点からは、手放しでオススメしなくてはならない、のかもしれない。
カタログ燃費がJC08モードで7.7km/リッターなのに対し、試乗でも7.67km/リッターとほとんど変わらない数値だった。一昔前を思えば、このクラスとしては頑張った数字である。たゆまぬ技術開発のたまものなのだと思うし、賞賛すべきだろう。しかし、どうしても「過剰感」を拭い去ることができない。それは、このクルマのせいではなく、この1カ月のあいだ日本を襲った過酷な現実がもたらしたものだ。エネルギーの置かれた状況に関して、もはや無垢(むく)を装うことはできない。リスクを宿命として背負った世界では、電気ですら手を汚していないとは言えない事態なのだ。天真爛漫(らんまん)に走り抜けたのどかなトスカーナの風景が、今はひたすら懐かしい。
(文=鈴木真人/写真=峰昌宏)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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