アウディe-tron 50クワトロ アドバンスト(4WD)
明日のために 2021.04.12 試乗記 近年、さまざまなタイプのEVを矢継ぎ早に送り出しているアウディ。なかでも身近な車型の「e-tron 50クワトロ」に試乗した筆者は、その走りのよさに感心しつつも、どうしても看過できない点があるという。ベースはエンジン搭載モデル
アウディe-tron 50クワトロは、SUVタイプのBEVである。内燃機関を持たず、総電力量71kWhのリチウムイオンバッテリーからの電力のみで走る。カタログ上の航続距離は316kmとされる(WLTCモード)。
もしアナタがe-tronのオーナーになったなら、友人に愛車を見せびらかす時に、フロントのボンネットを「ボン!」と開けてあげるといい。中央に大きなフタ付きの樹脂製バケツ(!?)が収まり、中にはゴロンと充電用のケーブルが置いてあるだけ。「エンジンの時代は終わったんだなァ」と実感させる風景である。
ちょっと意地悪な見方をすると、最新のEVにしてはスペースの使い方に無駄がある。それは、e-tronが内燃機関モデルとプラットフォームを共用しているからだ。具体的には、同社の中核たる「A4」が用いる「MLB evo」をベースにしている。とはいえ、e-tronのサイズは、同じくMLB evoを使うSUV「Q5」のフットプリントを上回る、全長×全幅×全高=4900×1935×1630mmという立派なもの。ホイールベースは、オリジナルのMLB evoより100mm以上長い2930mmである。
間もなくデビューするひとまわり小さい「Q4 e-tron」がアウディ製EV-SUVのいわば本丸で、こちらにはBEV専用の「MEBプラットフォーム」が与えられる。MLB系シャシーは、その後も内燃機関と共存するモデル、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車で引き続き活用される予定だ。
EV感は細部に宿る
2021年1月にわが国でも販売が開始されたアウディe-tron。同社のEVイメージをけん引する4ドアSUVにしてクーペルックの「e-tronスポーツバック」から遅れること約4カ月。より実用性を重視したとうたわれる通り、ルーフラインは素直に後方に伸び、リアシートの居住性も高い。荷室容量が660リッター(VDA法)と、スポーツバックと比べて44リッターも大きくなったのがジマンだ。
e-tronスポーツバック同様、前後に電気モーターを配した4WDモデルで、価格は、ベーシックな「e-tron 50クワトロ」が933万円、装備をおごった「e-tron 50クワトロ アドバンスト」が1069万円、そして「e-tron 50クワトロSライン」が1108万円となる。
外観では、特徴的な八角形グリルがアウディ一族のSUVであることを、配光を細かく制御するマトリクスLEDランプ、モニター式のドアミラー……じゃなくて小型カメラを使った「バーチャルエクステリアミラー」が「技術による先進」を、そしてテールパイプがないツルンとしたリアエンド下部がピュアEVであることを主張する。
1000万円級のクルマを持つオーナーを喜ばせるわかりやすいギミックが、左右のフロントフェンダー後部に設けられた、ボタンひとつで開閉するシャッター「充電フラップ」である。その奥には、車体右側には家庭用などの普通充電器用の、左には急速充電器用のコネクターが設けられる。後者は、国内で一般的なCHAdeMO方式に対応する。
アウディならではの安定性
グレーの革内装にオレンジのステッチがすてきな運転席に座って走り始めると、EVらしいスムーズな出足のよさはあるけれど、「重いモノを動かしている」感は拭えない。思わず「重戦車のよう」との第一印象を抱いたが、さすがにそれは大げさか。今回の試乗車は、上級版の50クワトロ アドバンスト。4ゾーンのエアコンやBang & Olufsenのサウンドシステムなどを装備して、車重は2420kgに達する。
それでも、システム全体の最大トルクが540N・mという、いきなり5リッターエンジン並みの駆動力を発生する駆動系が文字通り力ずくで電気SUVを加速させる。静止状態からわずか6.8秒で100km/hに達する怒涛(どとう)の加速力は「EVならでは」だが、むしろ運転者を感心させたのは、そのハンドリング。足腰のしっかりしたヘビー級といった趣で、コーナリング中のロールがしっかりチェックされ、まるで不安を感じさせない。
高速巡航中は標準装備されるエアサスペンションが長所を発揮し、フラットで快適な乗り心地を提供する。2モーター式の駆動方式は、通常は後輪重視、必要に応じて前輪が加勢する仕組みというが、運転中にその分配具合を意識することはない。あたかも路面にレールが敷かれているかのようなアウディ車ならではのスタビリティーの高さを、e-tronでは濃厚に堪能できる。
肝心のスタミナは……
アウディe-tronは、クルマであると同時に一種の“ブランド品”である。自分のリッチさを誇示し、自己の主張を喧伝(けんでん)するためのアイテムだから、ガチな実用性をうんぬんするのはやぼというもの。しかし空気を読まないクルマ好きとしては、その使い勝手をテストしないではいられない。
個人的に設定している「EV実用度テスト」、つまり「東京~箱根往復約200kmで、1回の急速充電までOK」を実施したかったのだが、諸般の事情で「東京~九十九里浜の往復約200km、1回の急速充電までOK」に変更した。
取材日の朝、東京~千葉間を結ぶアクアライン上のパーキングエリア「海ほたる」で急速充電中のe-tronを受け取る。メーターパネルには、航続可能距離236kmと表示されていた。東京湾を渡りきった時点で、充電率78%で228kmだったから、計算上は満充電で292km走ることになる。この手の表示はそれまでの実電費が反映されるから、カタログ通りの数値になることは事実上ない。
房総半島を横断する「首都圏中央連絡自動車道」と「東金九十九里有料道路」を使って九十九里浜に至り、九十九里インターチェンジで一般道に下りる。20kmほど南下した一宮海岸で走行可能距離が44kmといささか心細くなる。海ほたるからの距離は、オドメーターによると159kmだから、当初の予想では77kmの走行可能距離があるはずだが、実際には6割にも満たない。「そんなものか」と独り愚痴を言っても始まらないので、e-tron搭載のナビゲーションシステムを使って急速充電器の設置場所を探す。
残距離延長はなかなかシビア
試乗車に備えられた充電案内のリーフレット(e-tron Charging Service)によると、「ご利用できる充電器は全国約2万1700基」あり、うち急速充電器は約6700基を数えるという(2020年4月末現在)。実際、e-tronのナビにも、わずか7.9kmしか離れていないファミリーマート長生七井土店(出力20kW)はじめ、ズラズラと多数の急速充電器設置場所が表示され、気の小さい運転者を安心させる。
とはいえ、“チョイ足し充電”ならコンビニエンスストアが便利だが、30分間つなぎっぱなしとなると、多少は時間をつぶせる場所を選びたい。16km離れた「道の駅 むつざわ つどいの郷」(同25kW)にステアリングを向けることにする。同地到着時には、バッテリー残量9%で、走行可能距離は28km。海ほたるを出発してから170.7km走っているから、8割充電では200km弱が現実的な航続距離といえよう。
むつざわでは、バッテリーの充電率が9%から24%、走行可能距離が28kmから67kmにしか伸びなかったので、36.3km離れた「道の駅 木更津うまくたの里」(同25kW)で、再び急速充電を実施する。充電前のバッテリー残量は前回と同じ9%で、走行可能距離もやはり28kmまで減っていた。
1回のドライブのうち、30分×2回、約1時間を充電に費やすのはリッチな体験とはいいがたい。あたりがすっかり暗くなったなか、急速充電器につないだe-tron 50クワトロ アドバンストの車内でそんな感想を持った。
充電後には、バッテリー残量27%、走行可能距離78kmまで回復した。現在は電気自動車の普及期なので「仕方ない」と考えるしかないのだが、使用する急速充電器によって充電効率が異なるのは、地味に不満を蓄積させる。
もちろん、事前に出力の大きな最新急速充電器の設置場所を入念にリサーチして、あわせて充電中の時間のつぶし方……じゃなくて活用方法を考えておく“EV達人”の方もいらっしゃいましょう。素晴らしい。自分のようなズボラなドライバーはその計画性に敬意を表しますが、しかしそれはクルマが本来持つべき利便性とはまた別のハナシだと思う。
誰もが選べるわけじゃない
ちなみに、先のリーフレットによると、充電器の使用料金は月額5000円、1分につき15円(新車購入時はいずれも初年度無料)。都度使用料は15円×30分で450円。仮に1リッターのガソリンが150円とすると3リッター分だから、航続距離が50km伸長するならリッター16.7kmに相当する。
このずさんな計算をもって「大型SUVなのに燃費がいい! 環境に優しい!!」と主張するのは明らかに論理が破綻しているけれど、いまのCO2/燃費規制におけるEV優遇は、それに近いものがあるのではないでしょうか。言うまでもなく、恣意(しい)的、政治的な“EV推し”には注意が必要だ。
この日、海ほたる~九十九里浜~東京・恵比寿の『webCG』編集部まで、266.1kmの行程で、急速充電を2回施し、帰着時の走行可能距離は12kmだった。
新たな時代の「Audi」をつくった、とメーカー自らが宣言するe-tron。同社の特設サイトには「明日を、いま選ぶ。」とスケールの大きなキャッチコピーが掲げられるが、明日より今日の糧を得るのに忙しい庶民には、なかなか“明日”は選べない。e-tronが1000万円級の高額車だからではない。いや、それもあるけれど、走行中にCO2を排出する内燃機関車にすっかり慣れた身には、電気自動車はまだまだ不便だからである。
だからこそ、リッチピープルにはぜひe-tronを購入して、今後のEVの発展に寄与していただきたい。バッテリー技術にブレイクスルーが訪れると既存のEVが一気に陳腐化してしまう恐れがあるけれど、だから何でしょう!? なろうことなら、「30分の急速充電で50kmしか走れない時代があったんだよ」と、近い将来に笑える太っ腹なアナタでいてほしい。
(文=青木禎之/写真=山本佳吾/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
アウディe-tron 50クワトロ アドバンスト
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4900×1935×1630mm
ホイールベース:2930mm
車重:2420kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:非同期モーター
リアモーター:非同期モーター
フロントモーター最高出力:--PS(--kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:--PS(--kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:313PS(230kW)
システム最大トルク:540N・m(55.1kgf・m)
タイヤ:(前)255/50R20 104H/(後)255/50R20 104H(ブリヂストン・アレンザ001)
一充電走行距離:316km(WLTCモード)
交流電力量消費率:237Wh/km(WLTPモード)
価格:1069万円/テスト車=1258万円
オプション装備:コンフォートパッケージ<バルコナレザー×ミラノレザー+フロントシートメモリー+シートベンチレーション マッサージ機能+エクステンディッドフルレザーパッケージ+サンブラインド リアドア+エアクオリティーパッケージ+ミュージックインターフェイス リア+シートヒーター リア+4ゾーンオートマチックデラックスエアコンディショナー+コンフォートセンターアームレスト>(110万円)/バーチャルエクステリアミラー(26万円)/アシスタンスパッケージ<アダプティブドライブアシスト&エマージェンシーアシスト+アダプティブウィンドウワイパー+アウディプレセンスベーシック&リアサイドエアバッグ+フロントクロストラフィックアシスト+マトリクスLEDライト&ダイナミックインディケーター>(20万円)/サイレンスパッケージ<プライバシーガラス+アコースティックガラス+Bang & Olufsen 3Dサウンドシステム 16スピーカー+パワークロージングドア>(33万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1777km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:266.1km
消費電力量:63.3kWh
参考電力消費率:4.2km/kWh
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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