FIAの新カテゴリー「電動GT」誕生! EVモータースポーツはこれからどうなる?
2021.04.23 デイリーコラムメーカーの経営戦略に直結
モータースポーツには「見て」楽しむ方法と「参加して」楽しむ方法がある。見て楽しむEV(電気自動車)モータースポーツの代表例は、2014年に始まったフォーミュラEだ。専用開発したフォーミュラタイプの車両にモーターを搭載し、バッテリーに蓄えた電気エネルギーで走行する。コスト抑制の観点からシャシーとバッテリーは共通。参戦するチームは自分たちでモーターとインバーター、ギアボックス、制御ソフトウエアを開発することができる。
45分間+1周のレースで消費できる電気エネルギーは52kWh。限られたエネルギーをいかに有効に使ってスピードに転化するかが技術の見せどころだ。予選はエネルギーの制約がないので油圧ブレーキを使うが、レースはエネルギーを節約したいので油圧ブレーキはほとんど使わず、モーターの発電機能を使い、減速時の運動エネルギーを電気エネルギーに変換する回生ブレーキに頼る。どこでエネルギーを使い、どこでエネルギーを回生すると速く走れるのかを検証して洗練させていくエネルギーマネジメントが、速く走るための重要なポイントになっている。
アウディとBMWが現在行われているシーズン7限りで撤退するが、ほかにDS、ジャガー、マヒンドラ、メルセデス、日産、ポルシェ、NIOのメーカーが参戦しており、電気でクルマを走らせる技術を競っている。これらのメーカーは経営戦略の一環として量産型EVのラインナップを増やしており、モータースポーツに参戦することで技術を磨くと同時に、参戦の事実と活躍をファンに広くアピールして自社製品の認知と魅力を高めている。
意義ある新カテゴリー創設
今季から世界選手権に格上げされたフォーミュラEを統括するFIA(国際自動車連盟)は2021年4月21日、電動GTカテゴリーの創設を発表した。大まかに言えば、市販車をベースにレース車両に仕立てるFIA GT3のEVバージョンである。GT3のエンジンと燃料タンクをモーターとバッテリーに置き換えた格好だ。搭載するモーターは2基または4基、最高出力は430kW(585PS)、最高速は300km/hに達し、0-100km/h加速は2.4秒を想定する。
フォーミュラEは充電せずにレースを走り切る(そのために45分間のタイムレースとしている)が、電動GTはレース中に急速充電を行う。充電時間を短くするため、700kWの高速充電を採用する。現在、国内で整備されているCHAdeMO規格の急速充電の多くが50kW、導入が進みつつある次世代型が150kWであることを考えると、700kWがいかに高性能かわかるだろう。電動GTが搭載するバッテリーの容量は87kWhだが、数分間で60%まで回復させる能力がある。高性能な急速充電の技術をアピールするのも電動GTの狙いだ。
電動GTを開発する自動車メーカーは、2輪または4輪を駆動するモーターを車両の運転状態や姿勢に応じて個別に制御することにより、車両運動性能を向上させる統合制御に取り組むことが可能。この分野はまさに近年、自動車メーカーが積極的に開発に取り組んでいる領域であり、モータースポーツで鍛える意義がある。高性能な電動スポーツカーのニーズは継続的に高まっており、自動車メーカーはそれらのショーケースを求めている。その機運に応えるべく電動GTカテゴリーの創設に乗り出したというのが、FIA側の説明だ。ファンが「見て」楽しむEVモータースポーツは、発展に向けた新たなステップを踏み出そうとしている。
競技人口の増加も期待できる
EVは今後、急速に普及すると思う。それはカーボンニュートラルの観点からではなく、運転すると楽しいからだ。
ドライバーに楽しさを提供する最大の理由は、応答性の高さである。アクセルペダルを踏み込むと、間髪入れずに力を出してくれる。しかもリニア。エンジンの場合はエンジンブレーキ程度の弱い減速力しか発生できないが、モーターの場合は減速側も加速側と同程度の力を発生させることができる。だから、制御性が高く、その制御性の高さを利用して車両の姿勢を積極的にコントロールすることができる(その領域を鍛えようというのが新設の電動GT)。
アクセルペダルの動きひとつでクルマの向きを変えやすいのがEVの特徴のひとつだ。そのため、操って楽しい。量産EVの普及によってEVの楽しさを知る人が増えるにつれ、「参加して」楽しむEVモータースポーツの人気は高まっていくに違いない。ひょっとすると「見て」楽しむEVモータースポーツの人気をしのぐほどに。
モータースポーツとEVの親和性は高い。見て楽しむEVモータースポーツは参戦する企業にとって、参加するEVモータースポーツは運転する個人にとって魅力的だからだ。
(文=世良耕太/写真=FIA、日産自動車、アウディ/編集=関 顕也)
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世良 耕太
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