アウディA3スポーツバック ファーストエディション(FF/7AT)
大人のハイブリッド 2021.06.08 試乗記 フルモデルチェンジした「アウディA3スポーツバック」に試乗。導入記念の限定モデル「ファーストエディション」を郊外に連れ出し、低燃費化とプレミアムな走りを両立させるという1リッター直3ターボ+48Vマイルドハイブリッドの仕上がりを確かめた。ファーストエディションはぜんぶ載せ
「ゴルフ8」よりひと足早く、新型「A3」が国内導入された。2021年輸入車界の明るいニュースのひとつだろう。ともにコロナショックで来日が難航したフォルクスワーゲン&アウディグループの二枚看板だ。A3は1996年の誕生以来、これが4世代目になる。
新型A3のパワーユニットは、新しい1リッター3気筒ターボ+48Vマイルドハイブリッドの110PS、2リッター4気筒ターボの190PSと310PS(「S3」用)という計3タイプから成る。
2リッター系はすべて4WD。1リッターは前輪駆動の2WD。3タイプのパワーユニットはいずれも5ドアのスポーツバックと、先代から加わって人気を博している4ドアの「セダン」との二本立てになる。
今回取り上げたのは、新型A3のハイライトともいうべき1リッターマイルドハイブリッドの「30 TFSI」スポーツバックである。試乗車は限定375台のファーストエディションで、上級グレードの「アドバンスト」にいずれも専用の18インチホイール、LEDヘッドライトやダッシュパネル、ルーフレールなどの特別装備が盛られる。発売記念ぜんぶ載せモデルだ。
スポーツバックの30 TFSIシリーズは310~389万円だが、ファーストエディションは453万円になる。
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あふれ出る“いいもの感”
前の晩にクルマを受け取り、翌朝10時にはロケ地の河口湖で返却しなくてはならない。試乗時間が限られているため、薄暗いうちから動き出し、まずは下道で行けるところまで行くことにした。
30 TFSIユニットは、これまで「A1」にあった3気筒999ccターボに48Vのマイルドハイブリッドシステムを組み合わせたものである。コンパクトなリチウムイオン電池を積み、ベルト駆動のジェネレータースターターが必要に応じて電動アシストや回生制動、エンジン始動を行う。ゴルフでは「eTSI」と呼ばれる電動ユニットだ。
その動作はとてもなめらかだ。低速域でブレーキペダルを踏むと、ヒューンという回生制動のかすかな音がする。少しでも燃料消費を抑えるために、タウンスピードでもアクセルを戻せばエンジンは止まる。
車列が流れて、またアクセルを踏めば、なにごともなく3気筒は始動する。エンジンのオンオフはタコメーターを見ていなければわからない。そのため、アイドリングストップにも“あと付け感”がない。停車するときにはすでに0rpmで、ジェネレータースターターによる再始動もまったく密かに行われるからだ。そのため、街なかではけっこうEVっぽいエンジン車である。
ファーストタッチの第一印象から最後まで、この新型A3に感じたのは“いいもの感”だった。言ってみれば3気筒のリッターカーなのだが、走行感覚、運転感覚にはそんな固定観念を一蹴する高いクオリティー感がある。その源泉がマイルドハイブリッドの30 TFSIである。マイルドなハイブリッドというよりも、大人のハイブリッドという印象を受けた。
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CO2削減にフォーカス
いつもなら中央道で一足飛びだが、そのまま国道20号で大垂水峠越えをした。早朝とあって、麓から峠を越えて中腹に下りるまで、前走車には出会わなかった。雨だったから、そんなにハイペースは刻めなかったが、峠道でも実に気持ちよく走れるクルマである。
足まわりやボディーの動的クオリティーも高い。ファーストエディションのタイヤは225/40R18。試乗車は「ピレリ・チントゥラートP7」を履いていたが、乗り心地は速度にかかわらず上質だ。ズッシリ系ではない。バネ下はむしろかろやかなのに、脚の動きはしっとり落ち着いている。「MQB」プラットフォームのフォルクスワーゲン/アウディ車が持つ美点だと思う。
一方、車重1320kgに対して110PSだから、動力性能に特別みるべきものはない。ここ一発、チカラがほしいときだと、パワーは物足りない。浅いスロットル開度なら問題ないが、深く踏み込むと、右足のレスポンスがデッドになる。スタート直後も含めて、ジェネレータースターターによる電動アシストはとくに感じない。しかしそれでも、ヘンな言い方だが、飛ばそうとしなければ、十分軽快である。
下道を60km走り、高速道路に上がる。100km/hは7段Sトロニックのトップで2000rpm。アクセルを戻せばエンジンは止まってコースティングに入る。
マナーは高速域でも申し分ないが、パワーは追い越し車線だとやはりパンチがない。スポーツモードにしたらどうかと思ったが、アウディお得意のドライブセレクトは30 TFSIには装備されない。一意専心に「CO2削減」なのだろう。
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それを言っちゃあおしまいよ
アウディAシリーズというと、同クラスのフォルクスワーゲンよりフェミニンなイメージを抱いていたが、新型A3のスタイリングは俄然、スポーティーでアグレッシブになった。
ダッシュボードまわりもエッジの効いたシャープなデザインに変わった。ひとことで言うと、内外ともにカッコよくなった。あまり代わり映えしないゴルフ8よりも目を引くと思う。
ツマミのような形状の変速セレクターは、意外や使いやすい。そのすぐそばにある丸いスイッチは、オーディオのコントローラー。最近のクルマは、ラジオのオンオフすらすぐにはわからないことが多いが、この独立スイッチはユーザーフレンドリーだ。円周を指でなぞると、音量調節ができる。新デザインのドアレバーは手に着かず、しばしば空振りした。
さて、肝心の燃費は、265kmを走って、15.0km/リッター(満タン法)だった。もう少し伸びるかと思った。
ストロングハイブリッドの「ヤリス」なら、同じ走り方でおそらくリッター20kmはフツーに出る。しかも、ヤリス ハイブリッドは無鉛レギュラー仕様で、十分、速いクルマである。おまけに価格は……「それを言っちゃあおしまいよ」である。
だが、ヤリスにはA3のようないいもの感はない。そして、いいものはお高い。アウディはそういうクルマである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=花村英典/編集=櫻井健一/撮影協力=河口湖ステラシアター)
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テスト車のデータ
アウディA3スポーツバック ファーストエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4345×1815×1450mm
ホイールベース:2635mm
車重:1320kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:110PS(81kW)/5500rpm
最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)/2000-3500rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:17.9km/リッター(WLTCモード)
価格:453万円/テスト車=453万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3970km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:265.7km
使用燃料:17.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:15.0km/リッター(満タン法)/14.6km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。