No Garage, No Life! | 達人たちのガレージライフVol.2
工作派のためのビルトインガレージ 2021.07.05 Gear Up! 2021 Summer 人気グラフィックデザイナーのガレージを取材。そこはクルマの棲家(すみか)であり、工作好きの作業場であり、忙しい毎日を送る男がリフレッシュするための空間だった。 拡大 |
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ガレージの主(あるじ)は白石良一さん。雑誌のデザインの世界で大活躍しているグラフィックデザイナーである。『CAR GRAPHIC』や『CG classic』のアートディレクションも白石さんの仕事のひとつだ。今回取材させていただいたことからもおわかりのとおりクルマ好きなのは当然だが、自転車、プラモデルといった趣味もこよなく愛する。何より手先が器用なので、白石さんのガレージはクルマの保管のためだけではなく、ものづくりの場としても機能している。
家を建てる時は必ずガレージ付きにしようと思っていた白石さんだが、都内で暮らすとなると住宅用の敷地の面積は限られる。だから、白石さんのガレージは、限られたスペースを効率的に使える“ビルトインガレージ”である。住居のベース部分にガレージを設けるのは一般的だ。彼にとってのガレージのコンセプトも特別珍しいものではなく、「自動車と自転車の置けるスペースがほしい」というシンプルなものだ。しかし、大きな木製の引き戸を開けて中を見回せば、そこかしこに白石さんのこだわりと生き方がカタチになっていることが見て取れる。
まず目に飛び込んでくるのはカニ目(オースティン・ヒーレー・スプライトMk.1)とスーパーセブン(ロータス・スーパーセブンSr.2)の2台。性格は異なるものの、英国を代表するオープン2座スポーツカーである。しかもとびきりのコンディション、ひと味違うボディーカラーにしてもデザイナーならではのセンスの良さとアイデンティティーを感じさせる。
ジャガーEタイプSr.1クーペの代わりにガレージに収まったスーパーセブンは、最近ようやくナンバーが取れたのだという。今から15年ほど前、白石さんは栃木県今市にある旧車専門の工場の片隅に捨てられたも同然のスーパーセブンを引き取ってきた。フレームの一部は腐っていてそう簡単には修復できないだろうと思いつつも、書類がそろっていたことをよりどころに譲り受けたのだ。結局、ひどい状態のフレームは諦めて英国から新品を輸入するのだが、そのフレームは何年ものあいだなじみの修理工場のオブジェと化すことになる。
そのフレームが日の目を見るのが2年ほど前のことだ。カニ目のメンテナンスを手がけていた敏腕メカニックが体調を崩したことなどいろいろな理由が重なり、白石さんはスーパーセブンを復活させるために動いた。もとより手先が器用な白石さんなのでその気になれば事は早く進む。
専門業者に依頼したのは1.5リッターコスワースエンジン、ギアボックス、ドライブシャフトといった動力・駆動系くらいだったという。フレームへのサスペンションの取り付け、デフの取り付け、ブレーキの配管、ボディーのフィッティング、灯火類の装着などすべて自身で行った。
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「一番手こずったのはサスペンションのオーバーホールかなあ。ボディーの組み付けなんかプラモデルを作っているみたいで簡単でしたよ」。そう語る白石さんだが、それにしても素晴らしい仕事ぶりである。ロータス・セブン/スーパーセブンは本来キットカーとして売られたものなので、腕に自信のある人なら問題ないのだろうが、組み立てマニュアルと本職のベテランメカニックに教えを請うただけで作り上げたのはやはりすごい。スーパーセブンを新車と紛(まご)うばかりの状態に仕立てられたのは、このガレージあったればこそだ。
打ちっ放しのコンクリートの壁に何台ものお宝の自転車が並ぶのも白石さんのガレージのトピックだ。ロードレーサーも見受けられるが多くはランドナーで、いずれも古いモデル。1950年代製作のアレックス・サンジェといったマニア垂涎(すいぜん)の年代物は、装備されているニベックス製リアディレーラーをはじめ、部品からして希少だ。白石さんの自転車趣味の奥深さがよくわかる。
このところ白石さんが夜な夜なのめり込んでいるのがプラモデルの製作である。凝っているのが1/72スケールの飛行機。ある時期は自動車がメインだったが、スーパーセブンが完成してからは対象が飛行機に移った。後付けのレジンパーツを買い込んではディテールアップにいそしみ、機体のリベット表現も忘れない。本人は自己満足の世界と笑うが、資料と首っ引きで進む工作は際限がない。
深夜のプラモデル作りはガレージとほぼ隣接する自分専用のベッドを備えた工作室。工作机の反対側にはメルクリンZゲージの架線集電式のレイアウトもあり、ホビールームそのものだ。決して広くはないのだが、広くないがゆえに気分は落ち着くものだ。そして何より移動するのが便利このうえない。工作中のプラモデルに色をつけたくなれば、ガレージの塗装ブースでエアブラシを使う。はたまたヒストリックカーやランドナーに関して何か思い立ったら、現物で確認するためにガレージに行く。これぞビルトインガレージの最大のメリットに違いない。ガレージと工作室を行き来しながら、今宵(こよい)もまた白石さんは至福の時を過ごしているはずである。
(文=阪 和明/写真=田村孝介)

阪 和明
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