三菱デリカD:2 S(FF/CVT)【試乗記】
明確な違い 2011.04.05 試乗記 三菱デリカD:2 S(FF/CVT)……165万6000円
ミニバン「デリカ」シリーズのエントリーモデル「D:2」に試乗。兄弟車「スズキ・ソリオ」と乗り比べ、その違いを探ってみた。
間違い探し
2台並べてじっくりと眺める。同じだ。どこにも違いが見つけられない。エンブレム以外は、まったく差異をつけようとしていない。ランプの形状やグリルの意匠が少しは変えられているかと思って吟味するが、徒労に終わる。ホイールすらまったく同じものが使われているのだ。車内を見ても、一緒。シート生地だって同じものが使われている。
「三菱デリカD:2」が「スズキ・ソリオ」のOEMであることは周知のとおりだ。日本の自動車会社では、他社の開発したクルマを自社のブランドで販売するという手法が拡大しつつある。「日産モコ」は「スズキMRワゴン」、「日産オッティ」は「三菱eKワゴン」、「スズキ・ランディ」は「日産セレナ」、「スバル・トレジア」は「トヨタ・ラクティス」のOEMだ。この秋からは、トヨタがダイハツから軽自動車のOEM供給を受けることが発表されている。
メーカー間の関係も錯綜(さくそう)していて、全容を把握するのが難しいほどだ。開発費を抑えてラインナップを充実させたいという思惑は、自動車産業の置かれた厳しい状況を見れば理解できないことはない。しかし、供給を受けるにしても、多少はメーカーのアイデンティティを見せようとするものだ。フロントマスクのデザインを自社のラインナップに合わせて変更したりして、なんとか違いをアピールしようとする。デリカD:2には、そんな素振りすら見られない。
広くて便利で燃費もいい
すでにソリオの試乗記は掲載されているので、それをコピペしていいかと聞いてみたのだが、駄目と言われた。しかし、当然のことながら、乗ってみても印象は同じだった。実によくできたクルマである。とてつもない広さの「ワゴンR」と比べても、軽自動車の枠を外れているからさらに広い。特に室内幅は10センチ以上の差だから、前後左右を行ったり来たりするウォークスルーが可能になる。力もコツもいらないリアシートのフォールディング機構を使えば、自転車でも家具でも平気で積み込める巨大な空間が出現する。
最上級グレードの「S」は両側電動スライドドアになっているという豪勢さだ。子供たちにとってはスライドドアであるか否かがクルマの価値を大きく左右するらしく、大きなアピール点になる。ヒンジドアに比べてボディ剛性がどうのというのは、子供はあまり気にしないだろう。親は気にしたほうがいいと思うのだが。
中が広くなれば外も大きくなるのが理の当然で、何しろ背高だ。どうしたって頭部肥大気味で、モデル体型とはほど遠い。それでも、日常的な使い方をする限り、ぐらついて不安を抱くようなことはなかった。街中での走行に支障がないのはもちろんのことだが、高速道路でのコーナリングでもドライバーを心細がらせたりはしない。ロールはことのほか小さく、しっかりと路面を捉え続ける。「スイフト」ゆずりの足まわりというのも、なるほどと納得してしまう。
エンジンとトランスミッションはどのグレードも同一で、1.2リッター直4にCVTの組み合わせだ。91psというのはまったくたいしたことのない数字だが、不平を言う人はいないだろう。流れについていけない場面はなかったし、そもそもこの手のクルマでこれ以上のパワーを求めるのはお門違いである。今回は山道を走ることはできなかったが、そういう道で走りを楽しむためのクルマではないから構わない。そこそこ元気に走って燃費はリッター14km弱だったから、これも合格点だ。
同じじゃなかった
「まったく同じ」と書いたけれど、乗り比べたデリカD:2とソリオでエンブレム以外の違いがひとつだけあった。D:2がカーナビ付きであったのに対し、ソリオはオーディオ&バックモニターが装備されていたのだ。要するに、オプションの違いである。どちらの装備もD:2、ソリオ双方で選ぶことができるから、これはクルマ自体の違いとはいえない。
資料を見たら、目には見えないところで装備の差があることがわかった。ソリオにはカーテンエアバッグとESP(横滑り防止装置)のセットオプションが付けられていたのである。対してD:2は、標準装備のABSのみ。ESPが働くような走り方はしなかったので、差はわからない。それでも、緊急時に大きなアドバンテージになる装備であることは間違いないだろう。
念のためにD:2のオプションリストを参照してみた。なぜかESPの項目が見当たらない。OEMなのだから、アクセサリーの選択肢が狭まるのは仕方のないことだ。実際、D:2のカタログのページ数はソリオの半分以下である。でも、ESPはアクセサリーではない。標準装備でないことはともかく、オプションでも安全装備が選べないのは、あまりほめられたことではないと思う。違いを示したいなら、もっとほかの方法があるはずだ。
(文=鈴木真人/写真=峰昌宏)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)【試乗記】 2025.11.12 レーシングスピリットあふれる内外装デザインと装備、そして最高出力258PSの電動パワーユニットの搭載を特徴とする電気自動車「MINIジョンクーパーワークス エースマン」に試乗。Miniのレジェンド、ジョン・クーパーの名を冠した高性能モデルの走りやいかに。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.11.11 ボルボの小型電気自動車(BEV)「EX30」にファン待望の「クロスカントリー」が登場。車高を上げてSUVっぽいデザインにという手法自体はおなじみながら、小さなボディーに大パワーを秘めているのがBEVならではのポイントといえるだろう。果たしてその乗り味は?
-
メルセデス・ベンツGLB200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.10 2020年に上陸したメルセデス・ベンツの3列シート7人乗りSUV「GLB」も、いよいよモデルライフの最終章に。ディーゼル車の「GLB200d 4MATIC」に追加設定された新グレード「アーバンスターズ」に試乗し、その仕上がりと熟成の走りを確かめた。
-
アウディSQ5スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.8 新型「アウディSQ5スポーツバック」に試乗。最高出力367PSのアウディの「S」と聞くと思わず身構えてしまうものだが、この新たなSUVクーペにその心配は無用だ。時に速く、時に優しく。ドライバーの意思に忠実に反応するその様子は、まるで長年連れ添ってきた相棒かのように感じられた。
-
MINIジョンクーパーワークスE(FWD)【試乗記】 2025.11.7 現行MINIの電気自動車モデルのなかでも、最強の動力性能を誇る「MINIジョンクーパーワークス(JCW)E」に試乗。ジャジャ馬なパワートレインとガッチガチの乗り味を併せ持つ電動のJCWは、往年のクラシックMiniを思い起こさせる一台となっていた。
-
NEW
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】
2025.11.15試乗記ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。 -
谷口信輝の新車試乗――ポルシェ・マカン4編
2025.11.14webCG Moviesポルシェの売れ筋SUV「マカン」が、世代交代を機にフル電動モデルへと生まれ変わった。ポルシェをよく知り、EVに関心の高いレーシングドライバー谷口信輝は、その走りをどう評価する? -
ホンダが電動バイク用の新エンブレムを発表! 新たなブランド戦略が示す“世界5割”の野望
2025.11.14デイリーコラムホンダが次世代の電動バイクやフラッグシップモデルに用いる、新しいエンブレムを発表! マークの“使い分け”にみる彼らのブランド戦略とは? モーターサイクルショー「EICMA」での発表を通し、さらなる成長へ向けたホンダ二輪事業の変革を探る。 -
キーワードは“愛”! 新型「マツダCX-5」はどのようなクルマに仕上がっているのか?
2025.11.14デイリーコラム「ジャパンモビリティショー2025」でも大いに注目を集めていた3代目「マツダCX-5」。メーカーの世界戦略を担うミドルサイズSUVの新型は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 開発責任者がこだわりを語った。 -
あの多田哲哉の自動車放談――フォルクスワーゲン・ゴルフTDIアクティブ アドバンス編
2025.11.13webCG Movies自動車界において、しばしば“クルマづくりのお手本”といわれてきた「フォルクスワーゲン・ゴルフ」。その最新型の仕上がりを、元トヨタの多田哲哉さんはどう評価する? エンジニアとしての感想をお伝えします。 -
新型「シトロエンC3」が上陸 革新と独創をまとう「シトロエンらしさ」はこうして進化する
2025.11.13デイリーコラムコンセプトカー「Oli(オリ)」の流れをくむ、新たなデザイン言語を採用したシトロエンの新型「C3」が上陸。その個性とシトロエンらしさはいかにして生まれるのか。カラー&マテリアルを担当した日本人デザイナーに話を聞いた。






























