ジャガーXJ /XF/XK クーペ【試乗記】
“らしさ”、健在。 2011.03.31 試乗記 ジャガーXJ スーパースポーツ(FR/6AT)/XF 3.0 ラグジュアリー(FR/6AT)/XK 5.0 クーペ ラグジュアリー リミテッド(FR/6AT)……1685万円/650万円/1200万円
スポーティとラグジュアリーをキーワードに掲げる、伝統のブランド「ジャガー」。最上級セダンからスポーツカーまで、最新モデルを駆ってその魅力を探った。
別格の存在感、「XJ」
振り返れば2008年に「XF」で始まったジャガーの新世代化も、昨2010年春にフラッグシップの「XJ」が出たことで、ひと段落した感じがある。当時は「XF」を目の当たりにして、「えっ、これがあのジャガー!?」と戸惑ったもの。しかし、発売から3年もたてばさすがに目も慣れるらしく、あれだけ大胆で型破りに見えたフォルムが、むしろシンプルでフォーマルなカタチに見えてくるのだから、時の熟成というのは不思議なものだ。
今回はそんな“熟しつつある”新世代ジャガー3台を集め、一気に乗ってその世界観をあらためて味わってみる。まずはラインナップの頂点に君臨する「XJ スーパースポーツ」から試してみよう。
ただでさえ存在感がある「XJ」だが、「スーパースポーツ」グレードとなると、もう周囲に放つ“別格感”が圧倒的だ。このクルマが放つコワモテなオーラは相当なもので、これに太刀打ちできるドイツ車などほとんどないように思える。全長5.1m×全幅1.9mという大柄なボディの中には、デザイン性の強い豪奢(ごうしゃ)なインテリアが展開され、それを引っ張るエンジンパワーは510psにも達する。その放埓(ほうらつ)なキャラクターは、昨今の禁欲的な自動車社会において突き抜けており、見ていて痛快ですらある。
5リッターのスーパーチャージャーユニットは6500rpmのトップエンドまで勢い良く吹け上がり、1950kgのボディ(アルミ製なので意外に軽いのだ)をとんでもない勢いで加速させる。その一方、わずか1500rpmで図太いトルクを生み出し、街乗りでも異例なまでの柔軟性を見せる。乗り心地も目地段差から高速道路の大入力までをしなやかにやりすごし、それでいて基本的にはフラットな姿勢を崩さない。加えてワインディングロードでは車名に恥じないハンドリングも披露する。守備範囲は非常に広く、ドライバーズカーとしての実力は相当なものだ。続いては「XF」に乗ってみる。
息づかいが伝わる、「XF」
あらためて「XF」のインテリアを眺めてみると、装飾性の高い「XJ」とは対照的なさっぱりとしたモダンデザインである。「XJ」のインテリアが人生の酸いも甘いもかぎ分けたジョン・ブルの応接間なら、こちらはヤングエグゼクティブ(死語?)のしゃれたオフィスかリビングか、といった感じ。同じジャガーサルーンでも、ずいぶん違った雰囲気が演出されていて面白い。
エンジンスタートボタンが生き物の鼓動のように、赤く明滅している。これを見ていたら、かつてジャガーのあるエンジニア氏が「ジャガーの乗り心地をネコのようだと表現する習慣が日本にはあるのですか? それは英国にはないですが、ジャガーは息をしていると表現することはあります」と教えてくれたのを思い出した。
この言葉、なかなか示唆に富んでいて、今になって「なるほど」と思えるところがたくさんある。たとえばエンジンだが、このクラスの基準からすれば遮音は甘い印象がある。病的なほど突き詰めてエンジンの存在感すら消してしまおうとするどこかの国のサルーンとは違い、むしろ意図的にエンジンの手応えを残して、ドライバーがクルマと対話する余地を残しているように思えるのだ。
足まわりも同様で、ソフトでしなやかな乗り心地(やっぱりネコ足と表現したくなる)が実現されている一方で、ドライバーがクルマに“乗らされている”のではなく、積極的にクルマをコントロールしている手応えがちゃんと残されている。乗り心地とハンドリングのバランスは絶妙。こちらも生粋のドライバーズサルーンに仕上がっている。
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走りにメリハリ、「XK」
2009年春に外装の手直しと5リッターエンジンへの換装が行われた「XK」。こちらも今ではセンターコンソールにダイヤル式の「ジャガードライブセレクター」が付いており、他のモデルと足並みをそろえている。ステアリングに装着されたシフトパドルを操作すると、シフトに要する速度は「XF」より速く、スポーツカーらしいメリハリの利いた走りができる。これがまず「XF」から乗り換えて感じた違いだ。
そして決定的に違うのは、ノーズの軽さである。ステアリングを切ってからノーズがコーナーの内側を向くまでの身のこなしが、他の2台に比べて圧倒的に軽い。アルミボディの面目躍如といった感じである。また、ステアリングの支持剛性やボディの剛性感も非常に高く、それがこの正確な足どりの一助になっているのは容易に想像がつく。
カタチは変われどジャガーらしさは健在。そのジャガーらしさとは、何もネコ足のような乗り心地だけではない。ドライバーがクルマと対話して、ドライバーがみずからの意思でクルマを操作し、クルマはその操作に忠実に動くという、このごく当たり前の関係性がとても健全な形で実現されていること。これはシンプルにして、“電化”が進むこれからのクルマにとって、なかなか難しいテーマであると思う。
(文=竹下元太郎/写真=小河原認)

竹下 元太郎
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