ホンダ・フィットe:HEVモデューロX(FF)
空気が味方 2021.09.21 試乗記 現行型「ホンダ・フィット」のなかで唯一のスポーツモデルとなる「フィットe:HEVモデューロX」。専用パーツで武装し徹底的なテストで磨き込まれたコンプリートカーは、つくり手の技が光る特別な一台に仕上がっていた。プロこだわりの一台
「モデューロX」は、ホンダの100%子会社であるホンダアクセスが手がける純正コンプリートカーだ。同社が開発した専用カスタマイズパーツを、ベース車両の量産過程で装着するカタチで生産される。
ホンダアクセスの本業は、ナビやホイールからドアバイザーにフロアマット、そしてエンジンオイルなどの消耗部品を含む純正用品の提供だが、同社の白土清成現社長はもともと、ホンダで初代フィットの車体開発や「Nシリーズ」の開発責任者などを担当した腕利きのエンジニアだった。また、現在モデューロXの開発統括をつとめる福田正剛氏も、サスペンション担当として初代「オデッセイ アブソルート」や3代目「レジェンド」などをつくった走りのプロフェッショナルだ。
そんな歴戦のプロ技術者が多く在籍するホンダアクセスがつくるのがモデューロXであり、フィットのそれは今回が初となる。先代フィットにはスポーツグレードの「RS」が存在したが、新しい4代目フィットではその用意がなくなった。ホンダアクセスが現行フィットに目をつけた大きな理由もそこである。
今回のモデューロXも、4代目フィット自体のデビューからは1年半近く経過しての登場となる。純正コンプリートカーとしては悠長にすぎる気もする。ただ、これは「発売期限は決めない、納得できるものにならなければ発売しない」という信条のもとで、感応評価によるトライアンドエラーを繰り返すアナログな開発手法によるところが大きいようだ。
パワートレイン(今回はe:HEVのみ)には手を入れない、特別なタイヤを使わない……という彼らの流儀は、この最新モデューロXでも健在だ。モデューロの代名詞ともいえるホイールはもちろん、サスペンションと“実効空力”をうたうエアロパーツによって、ベース車両とはひと味もふた味もちがう走りを実現するのがモデューロXである。
制約あっても結果は出す
実効空力のための専用エアロパーツは、今回は前後バンパーとリアスポイラーである。
フロントバンパーでは車体上下にきれいに整流すべく、ボンネットフードを延長したかのようなグリル形状と、バンパー下面のスロープとフィンが興味深い。さらに、前輪前方にあるフィンやバンパーサイドのエアロフィンはホイールハウスやタイヤ周辺の乱流を抑制して、ステアリングフィールや直進性の向上に寄与するのだという。
リアバンパーは下面のディフューザー形状と、エッジが立ったサイドコーナーの処理が目につく。これに車体上部を整流するリアスポイラーがあいまって、揚力と空気抵抗の低減、サイドの流れを整流することによる直進性と旋回性能の向上をねらったとか。
聞けば、これらの空力開発も、ハンドメイドによる試作品とテストドライバーの感応評価の繰り返しで仕上げていく。最後にホンダ本体の風洞で実験するそうだが、ノーマルで前輪付近にあった空力重心が、モデューロXでは開発陣のねらいどおりに、車体のほぼ中央になっていることが最終確認できたという。「4輪に均等に接地荷重がかかる等価リフトを達成して安定性が向上した」というのが開発陣の主張だ。
このクルマでもうひとつ興味深いのは、スプリングがノーマルのまま変更されていないことだ。モデューロXといえば赤く塗装された専用スプリングを備えるのが普段のお約束だが、今回は車高とバネレートはイジるべからず……が、ホンダ本体からのお達しだった。標準装備の「ホンダセンシング」の作動を保障するためらしい。この最新世代の先進運転支援システムをきちんと働かせるには、通常時の車高はもちろん、乗員や積載などの荷重変化による車高変動も、正確な規定範囲内におさめる必要があるということか。
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乗り心地は速くなるほど好印象
というわけで、今回はダンパーだけが専用となるモデューロXのフットワークだが、低速ではノーマルより明らかに硬めである。路面が荒れた市街地では少しゴツゴツするし、4輪がバラバラに蹴り上げられると、素直に上下に揺すられてしまう。
まあ、小型軽量のスポーツモデルがこういう場面を不得意とするのは宿命ともいえる。しかも、ベースとなった4代目フィットは先代からシャシーの基本設計をキャリーオーバーしつつ、各部のフリクションを徹底排除したのが特徴である。つまり、低中速での乗り心地とフラット感が現行フィットの真骨頂であって、そこはノーマルの完成度がすごく高い。正直いって、この領域ではモデューロXの利点をあまり感じない。
高速道に踏み入れても、車速が70~80km/hのうちは、その歯応えあるサスペンションはまだまだ本領発揮していない感が強い。ただ、ステアリングはなぜかドシッとした感覚となり、もともと良好だった接地感はさらに鮮明になる。ホンダアクセスがいう実効空力とはこのことか。
そこから100km/hまで速度を上げると、細かい突き上げが減ってフラット感が増すようだ。アシそのものはもともと滑らかに動くので低速でも乗り心地が“悪い”とは思わないのだが、どこか芯のある硬さはこの領域でも完全解消にはいたらない。
しかし、国内でも高速道の一部区間で試すことができる120km/h近辺になると、いよいよ目地段差の吸収もしなやかになってくる。フラット感もさらに強まり、クルマが1クラス上等になったような錯覚におちいる。専用ダンパーと実効空力の仕事をしているのが、如実に伝わってくるのだ。
ただ、同時にスイートスポットはもっと高い速度か……と感じられたのも事実。開発担当氏も「150~160km/hはもっと良いです」と笑うが、公道試乗のみの今回は試すことはできず、もどかしく思うしかなかった。
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空力ってすごい!
そんなモデューロXも、山坂道ではスカッと留飲が下がった気分になれる。ターンインひとつも、正確性と接地感が確実に高まっている。タイヤやバネがノーマルのままなので飛躍的に鋭くはなっていないが、ブレーキングで前荷重したときのジワリと抑制された身のこなしなどは、なんとも滋味深い。
フィット本来の旋回はフロントを軸にした、いかにもFF車らしいものだ。それはそれで悪くないが、モデューロXでは開発陣の主張どおり、4輪にバランスよく荷重が乗った旋回姿勢が醸成されている。運転操作がピタリと決まったモデューロXは、脱出加速でわずかにテールを沈めつつ、後輪がしなやかに接地した独特の安定感でコーナーをクリアしていく。なんの変哲もないエコタイヤなのに、上級スポーツタイヤに履き替えたかのような操縦性と接地感には素直に驚く。かぎられたリソースでここまで仕上げた職人技に感心するとともに、あらためて「この瞬間がモデューロだね!」とヒザをたたきたくなる。と同時に「空力って、すごい!」と驚くほかない。
もうひとつ、今回フィットであらためて山坂道を走ってうれしい発見もあった。それはノーマルフィットと同形状の2スポークステアリングホイールが、古典的な送りハンドル操作をするのに、すこぶる具合がいいことだ。ステアリングのどの部分を握っても、スポークがほぼ邪魔にならない。スポーツステアリングといえば3スポークが定番だが、それはスポーク1本ずつの剛性が足りなかった時代の名残だ。現代の市販車ステアリングはスポーク2本で十分な剛性や強度が確保されているのが大半で、その場合は中央スポークはただの飾りだそうだ。よって、このステアリングも剛性や強度になんら遜色はない。
このフィットe:HEVモデューロXの価格は、同じく本革ステアリングホイールや一部本革のシート表皮、16インチアルミホイールを備える「LUXE(リュクス)」グレードの44万円高。装備表で比較するだけだとハードル高めの価格に思えるかもしれないが、開発にかけられた手間ヒマも考えると、バーゲン価格というべきか。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ホンダ・フィットe:HEVモデューロX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4000×1695×1540mm
ホイールベース:2530mm
車重:1190kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5600-6400rpm
エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm
モーター最高出力:109PS(80kW)/3500-8000rpm
モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3000rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ヨコハマ・ブルーアースA)
燃費:--km/リッター
価格:286万6600円/テスト車=322万3000円
オプション装備:有償ボディーカラー<プラチナホワイト・パール×ブラック>(8万2500円) ※以下、販売店オプション ナビ&ドライブレコーダーあんしんパッケージ<9インチプレミアムインターナビ+ナビ取り付けアタッチメント+フロントドライブレコーダー+後方録画カメラ>(25万5200円)/ETC車載器<音声ガイドタイプ>(1万1000円)/ETC取り付けアタッチメント(7700円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1636km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:298.3km
使用燃料:17.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:17.3km/リッター(満タン法)/18.2km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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