日本のEV用充電インフラは本当に遅れているのか?
2021.09.22 デイリーコラム 拡大 |
電気自動車(EV)の普及にはインフラ整備が重要だ。日本は欧米や中国に比べて整備が遅れているという論調が目につく。確かに欧米中の充電器設置目標や投資計画に比べると、日本の施策は見劣りするかもしれない。世界に先駆けて「三菱iMiEV」や「日産リーフ」といった量産EVを送り出してきたわが国のインフラ事情はどうなっているのだろうか。
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新たな充電インフラ事業者が発足
ゼンリンによると、国内の公共施設や商業施設等にある充電器の設置台数は2021年3月末時点で、前年より1000基少ない2万9214基。減少に転じたのは初めてのことだ。
これには2つの理由と3つの背景があると考える。理由の1つ目は約10年前に設置された充電器が耐用期限を迎えたこと。2つ目は不採算スポットが閉鎖されたこと。背景は「充電関連事業の転換期」「充電関連事業の不確実性の顕在化」「コロナ禍の影響」という3点だ。筆者はこれらが入り交じって充電器設置台数の“一時的”減少につながったと考えている。
まずはこの十数年間を振り返ってみたい。国内の充電スポット整備はEV市販化を機に始まった。iMiEVは2009年、リーフは2010年がデビューの年だ。当時はEVの普及推進に東京電力グループも関与し、充電器設置のお披露目会に行くと、東京電力関係者が説明に立っていたことが思い起こされる。急速充電規格「CHAdeMO」も東京電力が加わっていなければ、違ったかたちになっていたかもしれない。しかし、2011年に東日本大震災が発生。ライフラインが寸断された被災地でのEVの活躍も聞かれたが、東京電力はEVとの関係性を変えざるを得なくなった。
そうしたなかで、政府は充電器設置への補助金交付を開始。一方、日産自動車とNEC、住友商事は2012年にジャパンチャージネットワーク(JCN)を、トヨタ自動車と日産、本田技研工業、三菱自動車工業の4社は2014年に日本充電サービス(NCS)をそれぞれ設立し、充電インフラ事業に乗り出す。両者は政府補助金とは別に、充電インフラ整備を支援・推進したほか、充電を基軸にした各種サービス開発にも取り組んだ。
2019年、東京電力ホールディングスと中部電力はe-Mobility Power(eMP)を設立。今年(2021年)に入ってeMPはNCSから正式に事業を承継し(NCSは解散)、JCNも子会社化したことで国内最大の充電インフラ事業者となった。
まず期待がかかるのが高速道路の充電器の渋滞解消だ。高速道路は長距離移動で使われることが多いために充電スポットの利用率が高く、サービスエリアで充電待ちの渋滞が発生することがある。eMPは今秋にも高出力の200kWを6口持つ新型急速充電器の発売を予定しており、これにより充電時間の短縮と混雑緩和が見込まれる。
急速充電器の高出力化は世界の潮流だ。テスラ開発の「スーパーチャージャー」は250kWを、欧州発の「Combined Charging System(CCS)」は350kWをそれぞれ発生し、さらなる高出力化の計画がある。また、日本発のCHAdeMOと中国発の「GB/T」は共同で新規格「Chaoji」を開発し、最大900kWを目指す。ただし、高出力化には充電器側と車両側に加えて電力供給側でも対応が必要。電力系のeMPがここで大きな役割を果たしそうだ。
近年、自動車業界ではCASEやMaaSといったサービスを盛り込んだフレーズが流行したが、充電インフラはまさにサービスそのもの。初期段階では自動車メーカーによる直接的な関与が必然だったが、ここからはサービスに軸足を置く事業者による整備の時代だ。自動車メーカーは車両側の充電関連情報を通して関与していくことになるだろう。
目標達成よりも大切なこと
一方、政府は2021年6月18日に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表し、老朽化設備の更新と「サービスステーション(SS)における急速充電器1万基等、公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラを15万基設置」という目標を打ち出した。
これに対して、日本自動車工業会(自工会)の豊田章男会長は一定の評価をしつつ、目標値だけが独り歩きすることに懸念を示している。
設置台数は補助金交付などの施策次第で増やせるかもしれないが、重要なのは設置後だ。利用者が少なければ収入がなく、設備更新は難しい。冒頭に設置台数減少の理由として耐用年数と不採算を挙げたが、本質的には原因は同じで、採算が取れていないのである。
グリーン成長戦略では経営が厳しいSSの救済のニュアンスも込められているが、そもそも経営難のSSは立地や競合状況などに問題を抱えている。充電器を置いたところで経営環境は変わらない。政府が目指すべきは数値目標の達成ではなく、EVユーザーが便利に使える環境整備であり、設置した民間事業者がインフラを維持継続できる仕組みづくりである。
カギは充電インフラ事業の不確実性をどう見込むかだ。EVが普及して利用者が増えれば採算性確保の道は開けるが、言うまでもなく簡単ではない。自工会会長であり、トヨタを率いる豊田社長も折に触れてEV一辺倒の政策と世論に警鐘を鳴らしている。政府が掲げるロードマップ通りに普及していくかは甚だ不透明だ。
加えて、内燃機関を持つクルマはSSに行かなければ燃料補給ができないが、EVやPHEVは家庭やオフィスでも電力を得ることができる。近距離移動ならば充電スポットを利用する必要はなく、実際、コロナ禍で遠出を控える人が増えたことで充電スポットの利用は減ったという。また、車載電池の進化で航続距離のさらなる伸長は必定。誰がいつどのようなタイミングで充電スポットを利用するのか、不確実性の多いなかでの需要予測は容易ではないが、持続可能なサービスモデル開発のためには避けられない課題といえる。
さて、海外に目を向けると、充電インフラ整備に対する各国政府の勇ましい掛け声が目につく。米国は50万カ所を、EUは域内に300万カ所を、それぞれ2030年までに整備する計画で、中国も170兆円という多額の投資計画があるという。これらと比べると、日本の15万基という目標は確かに見劣りするが、設置すればいいというものでもないことはこれまでに述べたとおりだ。不採算ならば閉鎖するのはどこでも同じ。充電インフラは過密も過疎も問題になる。国土の広さや交通事情を考慮せず、台数だけを比較することには意味がない。
EV普及と充電インフラ整備は、やはりニワトリタマゴ。どちらが先行し過ぎてもうまくいかない。いかにして両者を連関させて、普及の好循環を生み出すか。政府にはそのためのロードマップを、自動車メーカーと充電インフラ事業者にはデータに基づく連携による振興を期待したい。
(文=林 愛子/写真=三菱自動車、日産自動車、e-Mobility Power、webCG/編集=藤沢 勝)

林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
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