カーナビがGoogleマップに!? ホンダ×Googleで自動車のインフォマティクスはどう変わる?
2021.10.08 デイリーコラム 拡大 |
2021年9月24日、本田技研工業が2022年度から主要車種にAndroidプラットフォームを搭載することを発表した(参照)。世界の巨大IT企業群“GAFA”のなかでも、とりわけ強い影響力を有するGoogle。方や、テレマティクスやインフォマティクスに格別の思い入れを持って取り組んできたホンダ。両社の提携でクルマはどう進化していくのだろうか。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
“あの日”を共に乗り越えた盟友として
クルマがつながるってこういう意味だったのか――。筆者がそう実感したのは10年前、東日本大震災のあとだった。
ホンダのカーナビゲーションシステム「インターナビ」は、会員の実走行データに基づく情報提供を売りのひとつにしていた。確かに便利そうだと思ったし、ホンダファンの支持も得ていたが、なくてはならないものとまでは思わなかった。しかし、震災で道路が寸断され、カーナビも地図帳も役に立たないなか、インターナビの通行実績情報マップだけが希望の光を放って人々を導いたのである。
この取り組みがすごかったのは、震災発生翌日の3月12日午前から現地情報を発信したことだ。しかも、発災3日後の3月14日からはGoogleに対して、4月21日からはYahoo! JAPANに対して通行実績を提供し、ホンダ以外のユーザーにも貴重な情報を届けている。その年のグッドデザイン大賞を受賞したのは企業の枠組みを超えた取り組みが高く評価されたからだ。
いまでこそ、非常時の連携も、そのための事前の取り決めも珍しくはなく、近年の大規模災害ではその備えが生かされている。しかし、2011年時点ではそこまでの流れはないし、クルマがつながることの意義を理解していた人は多くなかった。後日談として筆者がホンダ関係者から聞いたところでは「被災地のためにできることを」と現場が心をひとつにして奮闘したという。
このとき、Googleはオンリーワンの情報を持つホンダを、ホンダは広く情報を届けられるプラットフォーマーのGoogleを、それぞれ必要としたことは言うまでもない。3年後の2014年、ホンダはGoogle のAndroid搭載促進を目指す団体「Open Automotive Alliance(OAA)」に参画。OAA設立初期に参画した日本企業はホンダだけだ。また、2016年発売の「アコード」からインフォテインメントシステムが「Android Auto」に対応している。こうした流れを振り返ると、今般のホンダの発表は当然の流れといえるかもしれない。
よりよく、より豊かにつながるための条件
気になるのは今後のインフォマティクスだ。ホンダにとってはOS(Operating System:基本ソフト)をゼロから開発する必要性がなくなり、開発コストが低減できる。各種サービスとのコネクティビティーも向上すると思われ、利便性は高まりそうだ。ただ、インターナビのような突き抜けたサービスがホンダファンだけに提供されるといったことは難しくなるだろう。
一方、Googleにとっては新規事業領域を開発する好機だ。自動車業界から見れば、GAFAは異業種参入を狙うIT企業に映るだろうが、GAFAはプラットフォーマーであって、既存の完成車メーカーに取って代わるつもりはさらさらない。自動車という新しいチャンネルをGoogleがどう活用していくのか、われわれの想像も及ばないサービスが生まれるかもしれない。
そのうえで、注視したいのはGoogleによるデータ基盤整備だ。筆者は、インターナビが新しい世界観を切り開けたのは、ホンダだけで完結したことが大きいとみている。データは、いつ、どこで、何を、どう取得し、どのように加工し、そしてどうマネタイズするかといった一連のストーリーが整合性を持っていることが重要だ。しかし、事業体が違うとそれは容易ではない。例えば同一人物でも「山田太郎」「山田 太郎」「やまだたろう」という具合に形式が異なると、情報統合だけでも一苦労。日本政府のデジタル化が進まない理由もこれに近いものがあり、日本はデータを活用した政策決定(EBPM=エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)という世界の潮流に完全に出遅れている。
自動車のコネクティビティーにおいても、データ基盤整備は極めて重要なテーマだ。個人情報保護は大前提のことなので本稿では触れないが、コネクティビティーによるメリットを享受するには保険・決済・各種サービスなども統合的に扱っていく必要があり、同時にその統合化コストは最小化することが望ましい。
すでに私たちはGmailを使い、FacebookやInstagramなどのSNSに、ホテルや新幹線の予約、ネットショッピングなど、さまざまなオンラインサービスを利用している。旅行の予定を入れれば携帯端末のカレンダーに自動で、即データが登録され、前日にはリマインドが届く。こういったことが自動車軸でも起こり得る。不快に思うか、便利だと思うかは人それぞれだが、世界は確実にそちらの方向に向かっている。一人のユーザーとしては便利で豊かなサービスを安心して受けられる世界であることを願うばかりである。
(文=林 愛子/写真=本田技研工業/編集=堀田剛資)
拡大 |

林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
-
空冷の「スポーツスター」が復活!? ハーレーダビッドソンの定番商品はどんなバイクとなるのかNEW 2026.6.5 ハーレーダビッドソンが、一度は廃止した空冷の「スポーツスター」の復活を発表! 伝統の一台はなぜ絶版の憂き目にあい、そしてよみがえることとなったのか? ファンに愛される定番車種を刷新する難しさと、新型に課せられた使命、そして課題を考察した。
-
気づけばすでに4モデル スバルのBEV戦略と水平対向エンジンの未来を考える 2026.6.4 「ソルテラ」に続き、「トレイルシーカー」「アンチャーテッド」「ゲッタウェイ」と、いつの間にか4モデルが顔をそろえたスバルのBEV。伝統的な水平対向エンジンやシンメトリカルAWDはこの先どうなるのか? スバルの未来戦略を探る。
-
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感 2026.6.3 「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。
-
新生アルピナは成功するか? その将来とBMWとの関係について考える 2026.6.1 具体的なデザインスタディーも公開され、いよいよ市場展開が見えてきた新生アルピナ。将来的な成功の“確度”やいかに? BMWによる新たなアルピナ像について、両ブランドに詳しい西川 淳が詳しく解説する。
-
つまずきを糧に成功をつかみ取れ! 新型「CX-5」に宿るマツダの変革と覚悟 2026.5.29 既存のマツダ車とは一線を画す乗り味で、メディアをおどろかせた新型「マツダCX-5」。マツダの最量販車種は、なぜ3代目で大転換を迫られたのか? 賛否両論を巻き起こした“あのクルマ”との関係は? 新しくなったCX-5に宿る、マツダの覚悟と変革に迫る。
-
NEW
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。 -
NEW
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓
2026.6.4マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。 -
NEW
気づけばすでに4モデル スバルのBEV戦略と水平対向エンジンの未来を考える
2026.6.4デイリーコラム「ソルテラ」に続き、「トレイルシーカー」「アンチャーテッド」「ゲッタウェイ」と、いつの間にか4モデルが顔をそろえたスバルのBEV。伝統的な水平対向エンジンやシンメトリカルAWDはこの先どうなるのか? スバルの未来戦略を探る。 -
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。


































