似ているようで確かに違う! 「ホンダ・フィット」「日産ノート」「トヨタ・アクア」を比較する
2021.10.20 デイリーコラムとどまるところを知らないコンパクトカーの人気
最近は、クルマの価格が15年ほど前の1.2~1.3倍に高まる一方で、所得は依然として伸び悩んでいる。5ナンバー車を中心としたコンパクトカーが注目されるのは当然のことだろう。混雑した街なかでも運転しやすく、その割に車内は広く、ファミリーカーとして使えるモデルも多い。燃費性能も良好で、機能や装備の割に価格は安い。
しかも最近は、内外装の質、乗り心地なども向上して満足度が高まった。クルマを乗り換えるときにボディーサイズやエンジンの排気量を小さくしても、ユーザーが不満を感じにくくなったのだ。それもあって、コンパクトカーの売れ行きはさらに伸びている。
人気のカテゴリーになったから、新型車も次々と登場してきた。2020年2月には新型「ホンダ・フィット」と「トヨタ・ヤリス」が登場し、同年11月には「日産ノート」、2021年7月には「トヨタ・アクア」がフルモデルチェンジした。いずれの車種も全高が1550mm以下だから、立体駐車場を利用しやすい。
今回は、これらの最新コンパクトカーのなかから、ファーストカーとしても使えるユーティリティーを備えたフィット、ノート、アクアの特徴を比較する。
フィットは小さいながらも上質なファミリーカー
まずホンダ・フィットは、実用性に重点を置く。サイドガラスは前から後ろまでしっかり広く、フロントピラー(柱)の構造も工夫されている。インパネの上面も平らに仕上げられており、前後左右ともに視界がとてもよい。居住性も申し分なく、特に後席の足元空間はLサイズセダン並みに広い。大人4人が乗車して、長距離を快適に移動できる。
燃料タンクを前席の下に搭載するので、後席を畳むと床面高の低いボックス状の積載スペースが得られる。全高を立体駐車場が使える高さに抑えながら、荷物をタップリと積めるのだ。また後席の座面ははね上げておくこともできるので、背の高い荷物を運ぶときに便利だ。
パワーユニットは1.3リッターガソリンエンジンと、1.5リッターガソリンエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドの「e:HEV」がある。ノートとアクアはハイブリッド専用車だから、フィットでは純エンジン車を選べることが特徴だ。また、e:HEVは普段は「エンジンは発電、駆動はモーター」と役割を分担するが、高速巡航時にはエンジンがタイヤを直接駆動する。そのほうが効率に優れるからだ。
モーター駆動時の加速はスムーズで、ノイズも小さい。広い室内とも相まって、フィットのハイブリッドは運転しやすい上質なファミリーカーを買いたいユーザーにピッタリだ。価格も割安で、「ホーム」などの売れ筋グレードの場合、純エンジン車と比べたときの価格上昇は35万円以内に抑えられている。
ライバルとは一線を画す走りが自慢のノート
日産ノートは、現行モデルで純エンジン車を廃止してハイブリッドの「e-POWER」のみにパワーユニットをしぼった。エンジンは発電機を作動させ、モーターがタイヤを駆動するから加速は常に滑らかだ。加えてモーターは瞬発力も強いため、アクセル操作に対する反応が機敏でスポーティーな走りを楽しめる。
操舵感や走行安定性も同様で、カーブを曲がるときはドライバーを中心に旋回していく感覚を味わえる。アクセルペダルを戻すことで、車両を内側に回り込ませるコントロールもしやすい。これは、ノートに採用されるプラットフォーム「CMF-B」の開発を担当した、ルノーのクルマに多くみられる特徴でもある。
ノートは内装も上質だ。開発者は「ハイブリッド専用車は価格が高めになるので、内装にも十分なコストを費やせた」という。例えばメーターには7インチカラーディスプレイを全車標準装備。シートの座り心地も適度に柔軟で、ミドルサイズセダンのような雰囲気を味わえる。総じてノートは、上質感や運転の楽しさを重視するクルマ好きにピッタリだ。
なお、ノートの特徴をさらに際立たせた車種が欲しい人は、上級シリーズとなる「ノート オーラ」も検討してほしい。
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多くの要素が高次元でバランスしているアクア
純エンジン車もラインナップするフィット、現行型からハイブリッド専用車となったノートに対し、トヨタ・アクアは当初からハイブリッド専用車として登場している。新型もすべての仕様がハイブリッド車で、しかもFF車では33.6~35.8km/リッター(WLTCモード)と燃費も優れている。動力性能も余裕があり、3気筒エンジンながらノイズは小さめだ。同じトヨタのヤリスと比べると、ホイールベースは2600mと50mm長く、足まわりの設定も安定志向。乗り心地も適度に柔軟で満足できる。遮音を入念に行ったので、エンジン以外のノイズも小さい。
インテリアに目をやると、上級グレードの「G」と「Z」では助手席側のアッパーボックスなどに柔らかいパッドと合成皮革を巻いてある。このクラスのコンパクトカーとしては、手触りや質感も高い。また長いホイールベースの恩恵もあり、居住空間の広さは全長が4m前後のクルマとしては余裕を感じられる。前席に身長170cmの大人が乗車してシートポジションを合わせても、後席に座る乗員の膝先には、握りコブシ2つ弱の空間がある。後席も実用性は十分と言っていいだろう。
こうして見ると、同じジャンルに属する3つのモデルだが、それぞれのキャラクターは明らかに違っている。車両全体の性格としては、ファミリー向けのフィット、ドライバー中心の運転感覚を重視したノートに対し、アクアは個性を抑えた、いわば中間的な性格だ。その代わり、走行性能や乗り心地、燃費、4人乗車時の快適性と、さまざまな機能が高水準でバランスしている。いかにもトヨタらしい、幅広いユーザーに適する買い得なハイブリッドコンパクトカーと言っていいだろう。
(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業/編集=堀田剛資)
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渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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