ランドローバー・レンジローバー イヴォークS D200(4WD/9AT)
歴史が支える都会派SUV 2021.10.29 試乗記 ランドローバーのプレミアムライン「レンジローバー」シリーズで、最もコンパクトなモデルが「レンジローバー イヴォーク」。マイルドハイブリッド機構を組み合わせ進化した2リッター直4ディーゼルターボ車の走りを、ワインディングロードで確かめた。いま見ても新鮮なフォルム
2012年にデビューしたレンジローバー イヴォークは鮮烈だった。2008年のデトロイトモーターショーに出品されたコンセプトモデル「LRX」が、ほぼそのままの形で市販されたことに驚いたのである。ランドローバーはオフロード車の老舗であり、どちらかというと保守的なイメージがあった。だからこそ、クーペを思わせる大胆なデザインを採用したことは衝撃的だったのだ。しかも最初に発表されたのは3ドアモデルのみ。発売時には5ドアも追加されたが、クーペとSUVを融合させるというコンセプトの完成度は高かった。
ランドローバーには当時「フリーランダー」というコンパクトSUVがあり、イヴォーク開発のベースとなった。サイズ的にはほぼ同じだったが、見た目も成り立ちもまったく異なる。フリーランダーはカジュアルなコンパクトオフローダーで、道具感が強かった。イヴォークはレンジローバーファミリーの一員で、プレミアムSUVという色合いが強い。長男の「レンジローバー」が2002年に3代目となって大幅にオンロード性能を強化しており、末っ子のイヴォークも同じ方向性で開発された。
イヴォークは2019年にフルモデルチェンジを受けて2代目になり、2020年に仕様変更。パワーユニットは2種類の2リッター直4ガソリンターボエンジン「P200」と「P250」、そして2リッター直4ディーゼルターボエンジン「D200」の3種類に。それぞれ装備の異なるグレードが用意されていて、今回試乗したのは、ディーゼルモデルの「イヴォークS D200」である。
サイドから見た姿は、いま見ても新鮮だ。ルーフが後端に向かって下降していく一方でショルダーラインは上昇していくから、ガラスエリアはどんどん狭くなっていく。後席のスペースが確保されているか心配になるほどだが、これは視覚を欺く巧みなデザイン。実際に座ってみると十分以上の居住空間がある。
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妥協のないインテリア
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4380×1905×1650mm。全長は「トヨタC-HR」や「ホンダ・ヴェゼル」とあまり変わらないが、全幅は100mm以上広い。コンパクトSUVというジャンルでありながらも、ディメンションが違うことで強いオリジナリティーを感じさせる。ワイドなフォルムはデザイン上のアドバンテージになるとともに、走行性能にも好影響を与えているはずだ。
インテリアはまったく妥協がない。小さなサイズであっても、レンジローバーファミリーに課せられた高い水準をしっかりとクリアしている。上質な素材を組み合わせて気品のある空間に仕立てており、レンジローバーや「レンジローバー スポーツ」に見劣りしないクオリティーだ。試乗車はシート生地が明るめのグレーで、ブルーのストライプが入っていた。重厚さより若々しさを前面に出した演出が、イヴォークには似つかわしい。
2リッター直4ディーゼルターボエンジンは、最高出力がマイナーチェンジ前の180PSからアップして204PSに。最大トルクは430N・mで変わっていない。ランドローバーには3リッター直6ディーゼルターボエンジンもあり、数値はわかりやすくほぼ3分の2だ。すっかりトレンドとなったマイルドハイブリッドシステムが採用されている。ただ、アイドリングストップから復帰する時、大きめのショックがあったのが気になった。スタータージェネレーターがうまく働けばスムーズな始動が可能なはずなのだが。
1750rpmから最大トルクが立ち上がるため、発進は力強い。9段ATが効率よく変速してなめらかに加速する。車幅が広いので路地では注意が必要だが、高い視点から見下ろしているので街なかでもさほど苦労はしない。日本の道路事情にマッチしたサイズ感である。
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予防安全装備を強化
レンジローバーやレンジローバー スポーツは、スポーティーでありながら良好な乗り心地が魅力である。イヴォークも、サスペンションが路面をしなやかに受け止めるところは同じだ。しかし、悠揚迫らぬゆったりとした乗り味を持っているとまでは言えない。やはり小さなボディーなりの、せわしない動きを感じてしまう。路面から強い入力があった際に、収まりの悪さがあったことは否定しがたい。とはいえこのクラスのなかでは満足できるレベルであり、とてつもなく優秀な兄貴分と比較してしまうのが酷なのだ。
小体なボディーを生かすなら、やはり山道だろう。アジリティーではアドバンテージがありそうだ。豊かなトルクを生かして俊敏にスポーツ走行ができるのではないかと期待したのだが、思ったよりも加速は活発ではなかった。車重は2tに迫るのだから、目の覚めるような速さを望むのはさすがに無理である。4000rpmほどでシフトアップしなければならないので、シフトパドルを使ってもさしたる効果はない。ワインディングロードを楽しみたいなら、ガソリンエンジンモデルを選ぶべきなのだろう。
ディーゼルエンジンのイヴォークが得意なのは、息の長い加速である。緩やかな上りの直線では、実力を遺憾なく発揮した。高速道路の巡航では静粛性も高い。ステアリングホイールに設けられたアダプティブクルーズコントロール(ACC)のスイッチが使いやすいのは、隠れた美点である。同じような仕立てでも、使いづらいケースが結構あるのだ。
マイナーチェンジでは、予防安全装備の強化も行われている。ACCに加え、「ブラインドスポットアシスト」「クリアイグジットモニター」「リアコリジョンモニター」「リアトラフィックモニター」などが標準装備となった。インフォテインメントシステムは、最新式の「Pivi」が採用されている。試乗車は「S」グレードなので、上級の「Pivi Pro」が装備されていた。10インチのタッチスクリーンで多くの機能を操作し、Apple CarPlayやAndroid Autoにも対応している。
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デザインだけじゃない
走行モードを切り替える「テレインレスポンス2」もタッチパネル操作である。以前は物理スイッチで切り替えていたが、今ではこれが標準となった。運転しながら操作するのは難しいわけで、あまり頻繁に使うことはないという判断なのだろう。普段は「オート」モードを選んでおけば困ることはない。雪道や泥、砂地などの設定もあり、オフロード性能は高い水準を保っているはずだ。実際にはオンロードでの使用が多いだろうが、いざという時のための備えは万全である。
ランドローバーには「ディフェンダー」というガチの本格オフローダーもあるのだから、イヴォークを選ぶユーザーはデザイン性を重視している場合が多いだろう。ラゲッジルームのアレンジに工夫が凝らされていたりして、使い勝手にも十分な配慮がなされている。国産コンパクトSUVと比べても、実用性は引けを取らないレベルだ。
メーカーとしては若い世代に乗ってほしいだろうが、価格を考えると若者が手を出すのは簡単ではない。むしろ、ずっとレンジローバーに乗っていたが大きなボディーをもてあますようになったユーザーに喜ばれるのではないかと思う。近場で買い物に出かけるにも不自由はしないし、プレミアムサルーンに乗るより気がきいている。圧倒的ないいもの感があるから、ダウンサイジングしてもプライドを損なうことにはならない。
イヴォークは、スタイリッシュな都会派コンパクトSUVである。それは、カッコだけのクルマであることを意味しない。見た目はトレンドに乗った、アーバンなオシャレ系のクルマだが、中身は本物である。自然に漏れ出てしまうオーラは、高次元のオフロード性能がもたらすものだ。ランドローバーは、1948年に最初のモデルを発売して以来、四輪駆動車の分野で輝かしい足跡を残してきた。栄光の歴史を背景にしていることが、ライフスタイル商品としてのイヴォークに重みを与えているのだ。
(文=鈴木真人/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー イヴォークS D200
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4380×1905×1650mm
ホイールベース:2680mm
車重:1920kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:204PS(150kW)/3750rpm
最大トルク:430N・m(43.8kgf・m)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)235/50R20 104W M+S/(後)235/50R20 104W M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ オールシーズンPNCS)
燃費:12.3km/リッター
価格:636万円/テスト車=903万円
オプション装備:ボディーカラー<ランタオブロンズ>(8万7000円)/コンビニエンスパック(17万5000円)/2ゾーンクライメートコントロール+リアコントロール(9万9000円)/室内空気浄化システム<ナノイー、PM2.5フィルター、CO2コントロール機能付き>(6万8000円)/Meridianサウンドシステム(15万2000円)/ツインカップホルダー<カバー付き>(1万2000円)/20インチ“スタイル5076”5スプリットスポークホイール<グロスミッドシルバー コントラストダイヤモンドターンフィニッシュ>(21万7000円)/固定式パノラミックルーフ(25万5000円)/プライバシーガラス(6万6000円)/トレッドプレート<クローム、RANGE ROVERスクリプト付き>(6万4000円)/フロントフォグランプ(3万1000円)/マトリクスLEDヘッドライト<シグネチャーDRL付き>(29万8000円)/ヘッドライトパワーウオッシュ(3万8000円)/プレミアムインテリアライト(4万5000円)/シーケンシャルウインカー(9000円)/アクティビティーキー(6万3000円)/コールドクライメートコンビニエンスパック(9万5000円)/テクノロジーパック(37万2000円)/コントラストルーフ<ブラック>(8万7000円)/ダイナミックハンドリングパック(23万7000円)/14ウェイフロントシート<ヒーター+運転席メモリー機能付き>+リアシート<ヒーター付き>(24万円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:966km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:389.5km
使用燃料:46.0リッター(軽油)
参考燃費:8.5km/リッター(満タン法)/8.6km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。