第185回:「大矢アキオ さすらいのジュネーブショー2011」(後編) 来年はハリボテ・コンパニオンがお出迎え?
2011.03.19 マッキナ あらモーダ!第185回:「大矢アキオ さすらいのジュネーブショー2011」(後編) 来年はハリボテ・コンパニオンがお出迎え?
予想を上回った入場者数
第81回ジュネーブモーターショーが2011年3月13日に閉幕した。入場者数は目標の70万人を上回る73万5000人で、前年比6パーセント増だったという。
そういえばボクの知り合いのおじさんも、イタリアのコモから早朝出発で往復8時間、700kmの見物ツーリングをした。このおじさん、「アルファ・ロメオ4Cコンセプト」を見るのが目的だった。たしかに今年は市販を前提としたコンセプトカーが目立ったのも、来場者を増やした背景にあるだろう。
さて、そのジュネーブショー訪問記、第2回目である。
「報道関係者の総入場も1万人にのぼった」というデータに裏付けられるように、プレスデイも大にぎわいだった。
27km離れたフランス側の安宿でダラダラ起きてチンタラやってきたボクを待ち受けていたのは、駐車場の大渋滞だった。優に1時間ほどはまってしまったうえ、遠い駐車場にまわされてしまった。
仕方がないので、駐車場からパビリオンに至る通路を歩く。すると、矢印を抱えたコンパニオンの写真がたくさん立てられていることに気づいた。欧州系タイヤメーカーの提供らしい。このままだと、来年あたりは、立体、つまり「はりぼて」のコンパニオンフィギュアがお出迎えか?
そんな冗談を考えながらローアングルから撮影していたら、かのレオナルド・フィオラヴァンティ氏に見つかってしまった。こういうことだから、ボクはイタリア自動車社交界における地位が向上しない。
「三菱i-MiEV」は現代版「イセッタ」に?
今回会場で目立ったのは、意外にも三菱の電気自動車「i-MiEV」である。三菱のスタンドだけでなく、充電設備の展示コーナーにもi-MiEVが置かれていた。姉妹車「プジョー・イオン」や「シトロエンC-ZERO」は各社のスタンドに次世代車の華としてディスプレイされ、とくに「C-ZERO」は「緑のパビリオン」と題した低公害車コーナーでも取り上げられていた。
それだけではない。水中走行車をはじめ奇抜なモデルで知られるスイスのリンスピードも、i-MiEVをベースにしたコンセプトカーを持ってきていた。マットカラーのボディをまとい、カスタムサスペンションとグッドイヤー製ロープロファイルタイヤで足元を固め、インテリアもスパルコのペダル、レカロシートなどで武装したものである。
一方、本家である三菱のスタンドは上りエスカレーターの反対側という、ちょっぴり不利な位置にあって、いまひとつ目立たない。このままでは元祖イタリア版よりもBMW版のほうが有名になってしまった戦後のマイクロカー「イセッタ」のように、本家の影が薄くなっちゃうのではないか? という心配までよぎった「i-MiEV現象」だった。
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iPadの新しい使い方発見!
時代が変わったなーと思ったのは、会場を歩いている間にも、手元のスマートフォンにバシバシとプレスリリースが飛び込んでくるようになったことだ。
日産は報道資料のダウンロード用ステーションを設置して、各自持参したUSBメモリを挿すと、ダウンロードできるようにしていた。ボクは以前別のショーでもらったピニンファリーナのUSBメモリを「他社ので失礼しま〜す」と唱えながら挿してみた。当たり前といえば当たり前だが、ちゃんとダウンロードできた。
2010年パリサロンのとき、日産のスタンドでボクはコンパニオンにUSBを渡してダウンロードしてもらったのを覚えている。いわば“人力”だったが、今度は“無人”である。
ところで本欄でボクはちょっと前に、タブレットPCがモーターショーのアンケートに活躍していることを記した。ジュネーブでも、さまざまなメーカーのコンパニンオンたちがiPadなどを抱え、巧みに操作していた。加えて今回は、タブレット型PCの新しい使い方もいくつか目にした。
ひとつは、タブレットPCを電源ケーブル内蔵のポールに固定して、タッチパネル式説明ボードとして使用する方法である。電源や各種操作ボタン類のところは触れられないようにカバーがされている。
こうして既製タブレットPCがショー設備のスタンダードになってゆくのは、その昔各業種で使われていた専用コンピューターと専用ソフトが、次々とWindowsパソコンや、それをベースにしたソフトに置き換えられていった過程を彷彿(ほうふつ)とさせる。
もうひとつは、スクリプトとしての活用だ。あるテレビクルーは、スクリプトすなわち原稿をタブレットPCに表示して、リポーターに読み上げさせていた。次なるショーでは、どんな使い方が飛び出すか? クルマ以上に面白そうだ。
そんななかで残念だったのは、ある欧州ブランドである。会場のあちこちに、巨大折り詰め風の箱が積み上げられているので、いやしくもボクは、「特製幕の内弁当でも配布しているのか?」と思ってしまった。しかし、カウンターに行ってみてわかった。折り詰めに見えたのは、報道資料で、その大きな紙箱だけならともかく、中にはCD-ROMを納めた、これまた立派なアルミ製ケースがふたつも入っている。前述の光景は、少しでも荷物を減らして取材現場の機動性を高めたいジャーナリストたちが困って捨てたものだったのである。ボクもリサイクルされることを願いつつ、箱一式をカウンターにお返しした。
日ごろ先進性と環境性能の高さを標榜(ひょうぼう)しているメーカーだけに、前時代的な、いや前時代を超える広報資料の過剰包装は残念だった。
このマジメさが消えてしまうのか……
帰り際、われらがダイハツを忘れていたことに気がついた。同社のスタンドは例年どおり、トヨタと向かい合わせの角地にあった。振り返れば、今年2年ぶりに復帰した韓国サンヨンと背中合わせである。
展示されたダイハツ車の側面には「燃料1年分タダ!」と大書されている。それによれば、今年6月いっぱいまでに「クオーレ(日本名:ミラ)」か「シリオン(日本名:ブーン)」の対象車種を購入すると、燃料価格(1リッター1.7フランで計算)、走行距離(最大1万5000キロ)そして燃費から算出した年間燃料代相当の金額を還元するというキャンペーンだ。ダイハツらしい、ダイレクトな訴求力あるキャンペーンである。
しかし気になったのは、トヨタの先代「ヤリス(2代目ヴィッツ)」のリメイクで、近日“新シャレード”として登場するといわれるモデルが見当たらないことだ。
ダメもとで、スタンド内にいた女性に聞く。すると
「現段階でスイス法人が輸入を正式に決めていないため、今回は出品していないのです」
と丁寧に教えてくれた。
とかくモーターショーのスタンドに立つ人たちは男女とも臨時要員が多いため、こちらがそれほど詳しい質問をしているわけでもないのに「ええっと……」と資料探しに没頭してしまったり、人から人へのたらい回しになってしまうことが多い。
今回のジュネーブで新型シャレードについて興味を示した人は恐らくボクくらいだったろう。にもかかわらず、即座に答えることができたダイハツのスタンドには驚いた。
すでに報じられているとおり、ダイハツは2013年1月をもってヨーロッパの新車販売から撤退する。このマジメさが欧州大陸から失われるかと思うと惜しい。
たとえニュースリリースがスマートフォン経由で舞い込んだり、iPadが多用される時代になっても、やはりスタンドで迎える人は、ハリボテではダメなのである。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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