BMWアルピナB8グランクーペ(4WD/8AT)
秘伝のレシピ 2021.11.24 試乗記 最高出力621PSを誇る、BMWアルピナのフラッグシップモデル「B8グランクーペ」が上陸。1982年に登場し、かつて“世界一美しいクーペ”と称されたE24型「B7Sターボクーペ」をルーツとする、最新4ドアクーペの走りやいかに。アルピナらしさでも最上級
アルピナに試乗できる機会はそう多くはなく、これまでの自動車雑誌編集者とモータージャーナリスト人生のなかでもしっかり乗れたのは両手の指で足りるぐらいだと思う。
乗るたびに「まいりました」と脱帽させられてきたのだが、最新のB8グランクーペもまたあきれるほどに良かった。いつものワインディングロードを一往復、時間にすれば30分程度のなかで「これこれっ!」と自分の膝をたたきまくりすぎて、膝の皿こと膝蓋(しつがい)骨が割れるほどだったのである。
ただ、その良さを明確に言語化するのはなかなか難しい。最近では日本の自動車メーカーからも聞かれる“いいクルマづくり”という、曖昧にして、でもクルマ好きならなんとなくわかる職人の技みたいなものを、ステアリングホイールを握る手やシート越しのお尻や背中のセンサーからビンビンと感じるのだった。
アルピナはご存じの通りBMW車をベースに高性能車を製作するが、単なるチューナーではなく、れっきとした自動車メーカーだ。BMWの生産ラインの途中からホワイトボディーを抜いてきて、独自かつ大胆に手を加え、新たな車両識別番号を刻み込み世に送り出す。50年以上の歴史のなかでBMWと確固たる信頼関係を築いてきたが資本関係はなく、あくまで独立独歩。年間の生産台数は1700台程度にとどまる自動車メーカーとしては超スモールプレーヤーだが、その存在感の大きさはよく知られているところだ。
アルピナB8グランクーペは、1982年に30台限定で販売された「B7Sターボクーペ」や、初代「8シリーズ」がベースとなる1990年の「BMWアルピナB12 5.0クーペ/B12 5.7クーペ」、さらには2014年に登場した「B6ビターボグランクーペ」の系譜を受け継ぐモデルであるという。
ポートフォリオのなかでも、ドライビングパフォーマンスだけではなくエレガンスでも心を豊かにさせてくれる、アルピナの新たなフラッグシップたる存在である。大きさやパフォーマンスで上位にいるだけではなく、それをあえてひけらかさないという品のあるアルピナらしさでも最上級だ。
たとえば加速感。0-100km/hデータは3.4秒であり、5人乗りの4ドアクーペにとって爆発的な加速と表現してもいいのだが、実際にそれを試してみれば過剰な荒々しさはなく、あくまで上品に、息をのむ加速体験をさせてくれる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
絶妙なシフトプログラム
エンジンはBMW製の4.4リッターV8ツインターボがベースで、さらにターボチャージャーのレスポンスと冷却性能を大幅に向上。専用設計のアルミ製オイルパンなども装備している。スペックとしてはベースとなった「M850i」の最高出力530PS/5500rpm、最大トルク750N・m/1800-4600rpmから、同621PS/5500-6500rpm、同800N・m/2000-5000rpmへとスープアップされている。
組み合わされるトランスミッションはBMW車でおなじみのZF製8段ATの8HPをベースに専用開発。これのセッティングがまた絶妙だ。たとえ全力でダッシュさせても、わかりやすいスポーティー感の演出めいたシフトショック的なものはない。素早いギアチェンジとスムーズネスのハーモニーは、上品に“とんでもない速さ”を演出する一助となっている。
アクセルペダルを深く踏み込むと、エンジンは瞬間的なタメの後に豊かなトルクを湧き立たせ、トップエンドの6500rpmまでシャープかつ滑らかに回っていく。サウンドは、音質に迫力があるものの、音量は盛大ではなく、やはり品がある。回転上昇とともにパワーが盛り上がっていくドラマもしっかりあって、内燃機関のそれこそ爆発的な魅力にあふれているのだ。
シフトプログラムもまたいい。DレンジよりもスポーティーなSレンジや、ドライビングモードの「SPORT」「SPORT PLUS」などを選択すれば、たとえばタイトコーナーへ向けて強めにブレーキングしていくと「ブォンッ、ブォンッ」とブリッピングしながらドライバーの意図をくみ取って適切なギアまで落としてくれる。
試乗車にオプションのシフトパドルは装備されておらず、ステアリング裏の「アルピナ スイッチトロニック」のボタンしかなかったが、それを使う必要性をあまり感じなかった。2ペダルは制御をしっかりつくり込んでいけば、少なくともワインディングロードを駆けぬけるようなシチュエーションではマニュアル操作の必要性は減っていくはず。
自分のプライベートカーもパドルシフト付きの2ペダルだが、高速道路で遅い前走車に追いついてしまった、あるいは下り坂が長く続くシチュエーションぐらいでしかパドルは使わない。ワインディングロードでは、ブレーキングでのGの出し方とアクセルペダルを踏む量と速度でギアが変わるのを期待しながら走らせている。思い通りにならないことも少なくないが、制御を見込んで右足の動きを合わせ込むのも運転の楽しさだ。
ところがアルピナB8グランクーペは、気ままにペースを上げ下げすれば、ほぼ思い通りのギアが選択されるのだ。その背後に、素晴らしい能力を持ったテストドライバーと、その要求に応えるエンジニアの存在を感じる。独りよがりかもしれないが、自動車という機械を介して向こう側にいる同好の士と通じ合えたことに心が温かくなった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
開発は地道な積み重ねの連続
そうしたパワートレイン以上に感心させられるのがシャシー性能だ。大径で薄っぺらい(偏平率の低い)タイヤを履きながら、路面変化に富んだワインディングロードで「うそでしょ!?」と思わずつぶやいてしまうほど見事な接地感をみせながら駆けぬけていく。硬いはずのタイヤのトレッドを、しなやかに、ヒタヒタと路面に押し付けるのである。
一般的には、こういったタイヤを履いてロールやピッチを抑えたサスペンションにしていけば、サーキットなど路面がきれいなステージでのパフォーマンスは上がるものの、路面の荒れたワインディングロードではトリッキーで扱いづらくなる。しかしアルピナB8グランクーペには、まったくあてはまらない。路面が荒れれば荒れるほど、その一体感の高さ、底知れぬ信頼感にうれしくなる。
これはアルピナ車全体に言えることであり、それをもってしてアルピナマジックなどと表現されてきた。マジックと呼ぶのは理解を超えているということだが、自分なりに理由を考察してみれば、正しいことを愚直にコツコツと積み上げていった結果なのではないかと思う。
たとえばホイールを締め込む方式が、日本車の多くはスタッドボルト+ナット式であるのに対して欧州車の多くはボルト式でという違いがある。前者は部品点数としては多いが整備性がいいという大きなメリットがあるのに対して、後者は部品点数が少ないゆえに剛性が増す。「レクサスIS」がビッグマイナーチェンジでプラットフォームをキャリーオーバーとしながらシャシー性能をフルモデルチェンジ並みに向上させたのは、ボルト式を採用した効果が大きかったからだというのは記憶に新しい。
ボディーやサスペンション取り付け部など大物だけではなく、細部の至るところまで剛性強化および剛性バランス向上を図る。その地道な積み重ねの上にアルピナマジックはあるように思えるのだ。
逆に、そういった基本をしっかりつくり込まなければ、ハイテクな飛び道具を使っても効果はきちんと引き出せないはずだ。アルピナB8グランクーペでは、フロントアクスルのサスペンションストラットやロアコントロールアームのベアリングを高剛性化することで、ダイナミクス向上を図ったとアナウンスされている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
狙ったラインをミリ単位でトレースできる
もうひとつ、ロールやピッチが抑えられた、基本的には引き締まったサスペンションなのに、嫌な硬さをまるで感じないのもマジック的だ。足がよく伸びて路面を追従している感覚がある。どうやら、縮み側と伸び側のバランスに、アルピナ秘伝のレシピがあるようだ。
スプリングはコンベンショナルな金属製コイルだが、アイバッハ製を用いてしっとりと仕上げている。ダンパーは可変式で、後輪操舵のインテグレーテッドアクティブステアリングも装備。「xDrive」をベースに、リアにリミテッドスリップデフを装着した駆動システムだが、それらの制御に違和感はない。
コーナーへ向けてステアリングを切り込んでいけば、応答遅れの類いがまるでなく、かといって切れ込みすぎることもない、まさにリニアな感覚でノーズがインに向く。アクセルを踏み込んで621PSをさく裂させてもきっちりと路面を蹴って立ち上がる。日陰には朝露の湿り気が残っていて、ドライとウエットの入り交じる難しい路面だったが、それでも臆することなくハイパフォーマンスを操れるのがすごい。
前後の駆動力配分がもたらすフィーリングには、いたずらにFR感を出そうなどという演出はなく、ひたすらにドライバーの意思に忠実で、狙ったコーナリングラインをミリ単位でトレースできると思えるほどに正確性が高いハンドリングを生み出している。
一般道や高速道路での快適性の高さも見事だった。21インチタイヤをきっちりと履きこなし、サスペンションがよく伸びる感覚を伴いながら、さまざまな路面に対してやはりヒタヒタと走っていく。サイドウォールに「ALP」の刻印がある専用開発の「ピレリPゼロ」は、フロントのみPNCS(ピレリノイズキャンセリングシステム)だが、十二分に静粛性も高かった。
あまりの動的質感の高さにすっかり魅了されてしまったが、あえて言えば、エンジンサウンドにレーシングカーのような爆音や硬派でわかりやすい乗り味を求める人には不向きだろう。そういう人にはBMWの「M」やメルセデスAMGのラインナップのなかから好みのモデルを見つけられるはず。アルピナは、究極まで洗練された乗り味をじっくりと走り込んで堪能すべき滋味深いモデルなのだ。
(文=石井昌道/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
BMWアルピナB8グランクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5090×1930×1430mm
ホイールベース:3025mm
車重:2140kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:621PS(457kW)/5500-6500rpm
最大トルク:800N・m(81.6kgf・m)/2000-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR21 96Y/(後)285/30ZR21 100Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.4km/リッター(WLTCモード)
価格:2557万円/テスト車=2850万9000円
オプション装備:ボディーカラー<アルピナグリーン>(63万円)/右ハンドル(45万円)/フルレザーメリノ(56万2000円)/ラヴァリナステアリング バイカラー(17万3000円)/アルピナベロアフロアマット(11万円)/パノラマサンルーフ(28万8000円)/アサンプロテクションガラス(11万5000円)/Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(61万1000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2341km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:302.2km
使用燃料:48.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.3km/リッター(満タン法)/6.3km/リッター(車載燃費計計測値)

石井 昌道
-
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(4WD)【試乗記】 2026.8.31 フルモデルチェンジした「アウディQ3スポーツバック」に試乗。プラットフォームやパワートレインこそ従来型の改良版ではあるものの、内外装のデザインやインフォテインメント、効率性のすべてにおいて大幅な進化を遂げたという。その仕上がりやいかに。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(4WD)【試乗記】 2026.8.29 「トヨタbZ4X」にワゴンのようなロングボディーを持つ「ツーリング」が登場。ただ長くなっただけではなく、今回試した4WDモデルではパワーもアップ。乗り味にも微妙な影響を及ぼしているから見逃せない。経路充電を試しつつ、370km余りをドライブした。
-
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.25 BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。
-
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】 2026.8.25 カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。
-
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2026.8.24 スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。
-
NEW
第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?―
2026.9.2カーデザイン曼荼羅その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。 -
NEW
BMW X1 sDrive20iオリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.9.2試乗記BMWのコンパクトSUV「X1」に新グレードの「オリジナル」が登場。走りの楽しさをはじめとしたBMWらしさをキープしつつ、装備の厳選によって価格抑制を図った新たなエントリーグレードだ。都市部におけるドライバビリティーとユーザービリティーをリポートする。 -
スポーツカーに未来はあるか?
2026.9.1あの多田哲哉のクルマQ&A年々、開発環境が厳しくなるといわれるスポーツカーは、この先も存在しうるのか? トヨタのエンジニアとしてさまざまなスポーツカーを開発してきた多田哲哉さんに“未来のスポーツカー像”を聞いた。 -
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.9.1試乗記2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。 -
“自然を連想する車名”の名車特集
2026.9.1日刊!名車列伝暑さが和らぐ一方で、台風シーズンとも呼ばれる9月。その風をはじめ、星座、景観など自然を連想させる名前が与えられた、世界の名車を日替わりで紹介します。 -
興味があるのはたったの3割!? 自動車業界を揺るがすSDVやAIって本当に必要なの?
2026.8.31デイリーコラム自動車も、スマホのように機能がアップデートできるようになる! ……ということで注目されるソフトウエアディファインドビークル(SDV)だが、日本のユーザーの多くが「いらない」と思っていることが判明! 急速に進むデジタル技術の、必要性について考えた。

























































