売れる? 売れない? トヨタの圧倒的EV戦略に思うこと
2021.12.27 デイリーコラムこのテがあったか!
2021年12月14日、トヨタがお披露目した16台もの電気自動車(EV)たち。最前列5台のデザインを見ると、どれもこれも似たような、適度にEVっぽいスタイリッシュなカッコをしている。誰にも嫌われないけれど、それほどアピール性があるとも思えないEVたちだ。見れば見るほど、どこかで見たことがあるような感覚にも襲われる。
また、これら16台はすべて、トヨタが開発中の全固体電池ではなく、一般的なリチウムイオン電池で走ることになるのだろう。となると、性能もなんとなく想像がついてしまう。
という前提の下、「このなかでどれが一番魅力的に見えますか?」と問いかけられたら、あなたはなんと答えますか。私はですね……。
よく見ると、2列目のレクサス軍団たちが結構カッコいい。何よりもスピンドルグリルがいい。本来グリルだったところがパネルになり、逆にスピンドルの外側や下側がグリル(エアインテーク)になっている。つまり逆スピンドルグリルだ。このテがあったか!
この逆スピンドルグリル、本家スピンドルグリルより上品でカッコよく見えるし、EVらしさとレクサスらしさが同時に表現できていると思うのですがどうでしょう。
なかでも、航続距離700km以上、0-100km/h加速2秒台前半という、スーパーカー級のパフォーマンスを持つ「レクサスElectrified Sport」のデザインには、一瞬「えっ」と思った。
真横から見ると、その超ロングノーズ・ショートデッキスタイルは、実にシンプルかつダイナミック。フェラーリのフロントエンジンV12モデルよりはるかにスッキリしてて美しい! これなら「アストンマーティンDB11」にも、デザインで対抗できるんじゃないか? とすら思いました。「EVにこんな内燃エンジン的なスポーツカーデザインが必要なのか?」「あの長―いノーズの中には何が入るのか?」という疑問も湧くけれど、そんなことはどうでもよくなるカッコよさだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
スモールEVに勝ち目はあるか?
とはいうものの、私はこんなスーパースポーツEVが買えるような身分ではないし、EVにそんなスーパーなパフォーマンスを求めてもいない。私が近い将来EVを買うとしたら、断然ご近所用の軽規格EVだ。中国の「宏光MINI EV」の軽自動車版が出たら、真剣に魅力的だろう。
その観点からすると、最前列の5台の中央に並べられていた「トヨタbZ SMALL CROSSOVER」以外の選択肢はなくなる。後ろのほうの「トヨタMICRO BOX」も、マイクロというくらいだから小さいのでしょうが、まだ現実離れしたコンセプトカーの段階なので、なんとも言えません。
トヨタbZ SMALL CROSSOVERは、デザイン的には平凡でそれほど魅力的ではないけれど、豊田章男社長が「スモールEVでは電費性能にこだわります! 目標は125Wh/kmです!」と明言したことに、ちょっとグッときた。電費がよければバッテリーを小さく軽くできるし、値段も安くできるはず! EVは本来、エコのために内燃エンジン車に取って代わろうとしているわけだから、電気をバカ食いするスーパースポーツEVなんて無意味だし外道! EVはスモール&エコでなくてはイカン!
でも、電費を良くしようとすると、その技術にお金がかかるんだろうなぁ。中国の宏光MINI EVが最安50万円におさめられたのは、回生ブレーキシステムすら持たない超シンプルなメカのおかげだという。電費改善のためにコストをかけた結果、バッテリー容量縮小分より値段が高くなっちゃいましたー、ってなことになる可能性もある。
だいたい125Wh/kmっていう数字も、そんなにすごいわけじゃなく、「日産リーフ」より2割いいだけ。つまり、それほどバッテリーを小さくできるわけでもない。
もちろん電費は電気代次第でもあるので、将来電気代がドカーンと上がれば、今より電費の重要度は上がるわけですが、未来のことは誰にもわからない。結局、ご近所用のスモールEVの分野では、中国にしてやられるのではないかという嫌な予感も漂う、トヨタのEV大お披露目会なのでした。
(文=清水草一/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=関 顕也)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。