レクサスNX250“バージョンL” (4WD/8AT)【試乗記】
じんわり染みる 2022.01.28 試乗記 2.5リッター直4自然吸気エンジンを搭載する「レクサスNX250」の4WDモデルに試乗。フルモデルチェンジを機に登場したPHEVや、パワフルなターボ車の陰に隠れて目立つ存在ではないが、このパワーユニットはNX本来の“うま味”をしっかり伝える滋味深い逸品だった。余裕が感じられる
2021年の年末に行われた新型レクサスNXの試乗会、4種類のパワートレインがあるなかで、一番心に染みたのが2.5リッターの直列4気筒自然吸気エンジンを積むNX250だった。
その試乗会では、プラグインハイブリッドの「NX450h+」(システム最高出力309PS)→ハイブリッドの「NX350h」(システム最高出力243PS)→2.4リッター直列4気筒ターボの「NX350」(最高出力279PS)→2.5リッター直列4気筒のNX250(最高出力201PS)の順に乗った。試乗前にこのスケジュールを見て、「最後のNX250はショボいと感じるんだろうなぁ」と思ったけれど、予想は覆された。なぜ、最も非力なNX250に好感を抱いたのか、試乗しながらあらためて考えた。
レクサスは、新しいNXと「LX」からブランド全体が新しいフェーズに入ると言明している。それはデザインにも表れていて、好評だった従来型のフォルムを踏襲しつつも、よ〜く見るとかなり違う。従来型がキラキラ感のあるラインや面の凹凸を多用していたのに対して、新型はゆったりとした大きな面でフォルムを構成している。従来型のデザインには、「盛っている」とか「頑張っている」という印象を受けたけれど、新型は肩の力が抜けた余裕が感じられる。
この余裕はどこから生まれたのか? 「レクサスというブランドをアピールしなければ!」という呪縛が解けたのではないかと感じる。従来型は「ここがレクサスらしいので、ここを見てください」という主張が強かった。それは悪いことではないけれど、ときとしてちょっとうるさく感じることもある。でも新型は、ブランドをアピールすることよりも、ストレートに格好(かっこ)いいクルマをデザインすることに主眼が置かれている印象で、確かに新しいフェーズに入ったと思わされる。
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執事のような8段AT
乗り込んで感じるのは、運転席と助手席ではまったく景色が異なることだ。まず運転席は、14インチの大きな液晶パネルがドライバーに向けられていることから、タイトで操作に集中できる雰囲気になっている。一方、助手席からの眺めは開放感にあふれていて、運転席とは対照的だ。そうしたインテリアに身を置いた際の印象は、尖(とが)った意匠でブランドをアピールすることよりも、乗る人が心地よい時間を過ごすことを主眼に置いている、というもの。ここでも新しいフェーズを体感する。
インテリアをチェックしてから2.5リッター直4エンジンを始動、8段ATをDレンジにシフトして走りだす。発進加速では、ターボやモーターのアシストがあるモデルに比べれば、力が満ちあふれているとは感じないけれど、1.7tの車重に対しては十分な印象。そして車速が10km/hにも達すれば、ターボやモーター付きのモデルの存在が頭から消える。踏めば「パチン」と跳ね返ってくるレスポンス、フン詰まり感のない素直な回転フィール、混じり気のない澄んだ排気音。この時代、なかなか言いにくいことなので少し筆圧を下げて書きますが、「自然吸気の内燃機関っていいな」と、しみじみと感じた。
こう思った背景には、8段ATの出来のよさ、エンジンとのマッチングのよさがある。基本的には早め早めにシフトアップして燃費を稼いでいるけれど、加速が欲しいところではドライバーの意図を敏感に察知して、素早くスムーズにギアを落としてくれる。ドライバーの機微を捉え先回りする巧みなセッティングは、非常によく訓練されている印象だ。
高速道路の登り勾配では、正直、もうちょっと力があってもバチは当たらないのではとも思う瞬間もある。けれど、まるで仕事のできる執事のような8段ATのおかげで、もっと力が欲しいという思いよりも、持てる力を使い切っているというすがすがしさのほうが上回る。足るを知る、というか。
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このボディーがあってこそ
「レクサスが新しいフェーズに入った」ということが最も強く感じられた試乗セクションは、ワインディングロードだった。とにかくボディーがしっかりしていて、舗装の荒れた箇所を、ハンドルを切り込みながら強行突破してもびくともしない。ドイツ車的なカタマリ感がある。
開発陣によれば車体の骨格から徹底的に鍛え上げたとのこと。ハンドルの手応えを通じて、路面とタイヤがコンタクトしている状態がまさに手にとるように伝わってくるのもそのおかげだろう。
ハンドル操作の入力に対する反応もすこぶる正確で、頭の中で思い描いたラインをそのままトレースできるのは気持ちがいい。ハンドリングの楽しさに関しては、ラグジュアリークーペの「レクサスLC500」と並ぶのではないかと思えるほどだった。
正確なハンドリングと懐の深いハンドリングが両立していることも、ボディーを鍛え上げたことが貢献しているのだろう。ボディーがねじれたりゆがんだりしないから、4本の足は設計者が考える理想のかたちで路面と接することができる。
とにかくボディーも足まわりも鍛え抜かれている印象で、操縦性と乗り心地とが高次元でバランスしていることを体験すると、新しいフェーズに入るというセリフが大言壮語ではないと感じられる。
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丁寧につくり込まれている
じっくり乗ってみると、試乗会で乗ったなかで、最もベーシックなNX250が心に残った理由がよくわかった。レクサスNXというモデルは素性がよくて、それはターボもモーターも付いていない、NX250だと一番ダイレクトに伝わってくるのだ。おいしいと評判の蕎麦(そば)屋を初めて訪ねるときに、いきなりカレー南蛮やとろろそばを頼まないのと同じ。最初はざるかせいろ、それが正しい。
で、レクサスNX250にじっくりと乗ると、レクサスが言う「新しいフェーズ」というものが見えてくる。まずデザインで言えば、「オレがオレが」とクルマが目立ったり、インスタ映えを狙ったり、ブランドをアピールするのではなく、むしろクルマは半歩下がっていて乗る人がすてきに見えるような造形である。
ドライブフィールで言えば、スポーティーな味つけをしてライバルと差別化を図るのではなく、根っこの部分からいいクルマをつくること。滋味深いパワートレインや懐の深い足まわりは、小手先の調味料では実現不可能で、良質なそば粉と出汁(だし)を仕入れて、水にもこだわって、丁寧につくり込まないといけない。
文字にするとシンプルであたりまえのことに見えるけれど、実践するのは面倒だし時間もかかる。NXの出来栄えに接すると、これからのレクサスがちょっと楽しみになってくる。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
レクサスNX250“バージョンL”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4660×1865×1660mm
ホイールベース:2690mm
車重:1730kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:201PS(148kW)/6600rpm
最大トルク:241N・m(24.5kgf・m)/4400rpm
タイヤ:(前)235/50R20 100V/(後)235/50R20 100V(ブリヂストン・アレンザ001 RFT)
燃費:13.5km/リッター(WLTCモード)
価格:570万円/テスト車=632万7000円
オプション装備:パノラミックビューモニター<床下表示機能付き>+パーキングサポートブレーキ<後方歩行者>+緊急時操舵支援<アクティブ操舵機能付き>+フロントクロストラフィックアシスト+レーンチェンジアシスト(9万5700円)/別体型ディスクプレーヤー(13万7500円)/ルーフレール(3万3000円)/デジタルキー(3万3000円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム(24万4200円)/おくだけ充電(1万3200円)/デジタルインナーミラー(4万4000円)/寒冷地仕様<LEDフォグランプ+ウインドシールドデアイサー>(2万6400円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1651km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:319.6km
使用燃料:37.1リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:8.6km/リッター(満タン法)/10.5km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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