ベントレー・ベンテイガ ハイブリッド(4WD/8AT)
風林と火山 2022.02.25 試乗記 日本に初導入された「ベントレー・ベンテイガ」のハイブリッドモデルに試乗。環境性能とパフォーマンス、そしてラグジュアリーモデルとしての快適性に磨きをかけたとうたわれる“電動化ベントレー”の走りを確かめた。感動的な発進フィール
ベントレーの「ベンテイガ ハイブリッド」が発表された時に、ほほぉーと思ったのは、2269万円という価格だった(現在は2280万円)。これは4リッターのV8ツインターボエンジンを積む「ベンテイガV8」と、まったく同じなのだ。ちなみに、6リッターのW12ツインターボエンジン搭載の「ベンテイガ スピード」は現在3356万円だから価格的にややレベチ。ハイブリッドにするか、V8を選ぶかで悩む人が多いだろうと想像する。
以前に試乗したベンテイガV8の滋味深いエンジンと、懐の深い乗り心地に大いなる感銘を受けたので、同価格のベンテイガ ハイブリッドがどんなSUVに仕上がっているか、試乗するのは楽しみだ。
起動する前にハイブリッドシステムの成り立ちをおさらいしておくと、外部電源からの充電が可能なプラグインハイブリッドで、リチウムイオン電池に蓄えた電気でモーターを駆動する。3リッターのV6ツインターボエンジン(最高出力340PS)とモーター(同128PS)の組み合わせで、4輪を駆動する。システム全体の最高出力は449PS、最大トルクは700N・mとなる。
ベンテイガV8の最高出力が550PS、最大トルクが770N・mだったことを思うと、動力性能はハイブリッドが半歩ほど劣るのか──、という想像は、発進時にアクセルペダルをひと踏みした瞬間に的外れだったと思い知らされる。
音もなく、振動も感じさせないまま、小山のような巨体がなんの抵抗も感じさせずにスーッと発進するのは、ちょっと感動的だ。頭に浮かんだのは、「風林火山」という言葉だ。疾(はや)きこと風のごとし、静かなること林のごとし。
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存在を主張しないエンジン
ベンテイガ ハイブリッドは、システムを起動するとデフォルトで「EVドライブモード」を選び、電気がある限りモーターの駆動力だけで走るEV走行を続ける。車内は静穏で、どれくらい静かで平和かというと、オリンピックやコロナ禍でがやがやしている下界とは切り離されているように感じるほどだ。こういう状態を浮世離れと呼ぶのか。ハイブリッド化は省燃費だけでなく、このクルマのプレミアム性も高めている。
モーターがもたらす快適な加速に身を委ねつつ、これまでエンジンの開発に携わってきた、無数のエンジニアたちのことを考えずにはいられなかった。パワーを出すために排気量を上げ、でも1気筒あたりの容量が大きくなると荒っぽくなるからシリンダーの数を増やし、やがて12本のシリンダーを緻密にコントロールするという高みに到達したエンジニアたちに、心の中で拍手を送った。同時に、力強く加速しなおかつ静かさと滑らかさを追求した、内燃機関のエンジニアたちの夢をあっさりと実現してしまうモーターの威力にも、あらためて脱帽した。
ベンテイガ ハイブリッドはフル充電の状態だと約50kmのEV走行が可能だ。ヨーロッパの人は距離を走るというイメージがあるけれど、とあるメーカーの調べによると、ヨーロッパでも一日あたりの走行距離が50km以下のドライバーが全体の3分の2を占めるという。ベンテイガ ハイブリッドは200Vの普通充電で満充電に要する時間はおおよそ2時間45分。夜のうちに充電しておけば、前述のドライバーの使い方ならほとんどエンジンがかからないという計算になる。
そうこうするうちに、電気を消費したことでエンジンも駆動に関与するようになる。感心したのは、エンジンの音と振動がまったく気にならなかったことだ。ハイブリッド車“あるある”で、静かなぶんだけエンジンが介入すると音量や音質が気に障ることが多いけれど、このクルマにはそれがない。
センターコンソールのモニターには、エンジンとモーターがどのように働いているかがグラフィックで表示される。ただ、普通に運転している限り、エンジンの始動を意識させられることは少ない。エンジンとモーターの連携や遮音対策に、細心の注意を払っていることが伝わってくる。
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これからはこっちなのか
ハイブリッドシステムには、「EVドライブモード」「ハイブリッドモード」「ホールドモード」の3つの走行モードがあり、ドライブダイナミクスモードで「スポーツモード」を選ぶと、自動的にホールドモードが選ばれる。
高速道路をハイブリッドモードで巡航しながらモニター画面をチェックすると、割と頻繁にエンジンが始動したり停止したりすることがわかる。ただし前述したように、その切り替えポイントは体感できない。室内はひたすら静かで、風切り音もほとんど気にならないことから、パワートレインだけでなく遮音対策全般が入念に施されていることがわかる。
アクセルペダルを踏み込むと、V6エンジンとモーターが力を合わせて約2.6tの巨体を引っ張る。ここでも音量の増加は最低限で、「トゥルル」という音質が耳障りでないこともあわせて、上品に感じる。
ベンテイガV8のように、カーンという快音と心地よい微振動によって、回転が上がるのと比例してライバーの気分もアガる、ということは期待できない。けれども、ハイブリッドの整然とした加速に体が慣れてくると、これからはこっちなのか、という気になってくる。でも、あっちの興奮も忘れがたい。EVとクラシックカーの両方を所有する人の気持ちがよ〜くわかる。
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V8とはキャラが違う
ベンテイガ ハイブリッドで気になったのは、乗り心地だ。といっても、悪いわけではなく、普通に考えれば良好な乗り心地だ。けれども、ベンテイガV8で感じたような、乗れば乗るほど体が癒やされるブ厚い魔法のじゅうたんのような、深みのある乗り心地とは少し違う。
コツコツという微小なハーシュネスが伝わってくるし、高速域で段差を乗り越えるような場面で、車体の揺れが収束するのに時間がかかる。あくまで感動的だったV8に比べれば、ということではあるけれど、あくまで常識的な乗り心地のよさで、魔法は存在しない。
理由として考えられるのは、ハイブリッド化に伴う重量増に対応するために、セッティングが変わったのではないだろうか、ということだ。V8の車重が2470kgであるのに対して、ハイブリッドが2648kgと、178kgの差がある。特に重量物のリチウムイオン電池を荷室床下に配置することで、シャシーバランスの黄金比が崩れた可能性がある。
ハイブリッドシステムがもたらす、市街地での滑るような加速感。高速道路での静粛性。対して、喝采を送りたくなるV8エンジンのグルーブ感と、重厚な乗り心地。冒頭で「風林火山」という言葉を使ったけれど、ハイブリッドが「風林」で、V8が「火山」だった。価格は同じであるけれど、ハイブリッドとV8、両者のキャラはかなり違う。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
テスト車のデータ
ベントレー・ベンテイガ ハイブリッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5125×2010×1710mm
ホイールベース:2995mm
車重:2690kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:340PS(250kW)/5300-6400rpm
エンジン最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/1340-5300rpm
モーター最高出力:128PS(94kW)
モーター最大トルク:350N・m(35.7kgf・m)
システム最高出力:449PS(330kW)
システム最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)
タイヤ:(前)285/40ZR22 110Y/(後)285/40ZR22 110Y(ピレリPゼロ)
燃費:3.4リッター/100km(約29.4km/リッター、WLTPモード)
価格:2280万円/テスト車=3076万0720円
オプション装備:ソリッド&メタリックボディーカラー<ICE>(84万1400円)/ファーストエディション(617万7640円)/ダイヤモンドアルミフェイシア+ドアウエストパネルダークティント(54万1750円)/3本スポークシングルトーンステアリングヒーター(7万3140円)/バッテリーチャージャー<ソケット付き>(1万8600円)/ハンズフリーテールゲート(12万7610円)/TVチューナー(18万0580円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3173km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:319.4km
使用燃料:30.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.6m/リッター(満タン法)/11.0km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。