ハスクバーナ・ノーデン901(6MT)
北欧からの風 2022.03.18 試乗記 ハスクバーナから新型アドベンチャー「Norden(ノーデン)901」が登場。北欧発祥のバイクブランドが放つニューモデルは、荒々しいライバルとは一線を画す落ち着いたスタイリングと、マルチパーパスモデルとしての本格的なスペックを併せ持つ一台に仕上がっていた。燃料タンクの位置にみる独自性
シート高は854mmと874mmの2段階で切り替えることができる……のだが、低いほうにセットしたところで、足つきがいいとはもちろん言えない。身長174cmの筆者がまたがるとツマ先で体と車体を支えることになり、170cmを切るライダーなら、サイドスタンドを払う際にコツや勢いを必要とする。
とはいえ、それがプレッシャーになるかといえば、意外とそうでもない。なぜなら軽いからだ。スペック上の車重は、204kgと発表されている。これは燃料なしの半乾燥状態ゆえ、容量19リッターの燃料タンクを満タンにすれば、220kg弱といったところ。この数値自体は特別軽量ではないものの、車体を直立させる時はスッと起き、押して歩く時もそのままスルスルッと転がすことができる。
最大の要因は、燃料タンクの搭載位置にある。給油口こそ一般的な場所に設けられているが、そこから入ったガソリンは車体の左右、そして下部に振り分けてためられる。重心が低いところにとどまり、ガソリンが満タンの時も、少なくなった状態でも、バランスがあまり変わらない。重量物が車体上部にないため、取り回しや低速走行時の手応えは軽く、ギャップを拾ってもすぐに収束してくれるというわけだ。
これはダルマをイメージしてもらうと分かりやすい。ダルマの頭頂部は軽いため、少ない力で揺することができるが、その揺れ幅が大きくなるとどっしりとした下半身がストッパーになって、動きを抑制する。これとほぼ同じ理屈が再現されているのが、ハスクバーナの新型アドベンチャー、ノーデン901(以下、ノーデン)である。
ノーデンは2019年のEICMA(ミラノショー)において、プロトタイプが披露された。それからおよそ2年半がたち、先ごろ日本へと上陸。この3月から順次デリバリーが始まる予定だ。
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どんなライバルにも似ていない
ハスクバーナのモデルとしては、これまで692.7ccの水冷単気筒エンジンを搭載したモデルが最大排気量だったが、ノーデンのそれは889ccの水冷並列2気筒だ。また、同ブランド初のアドベンチャーでもあり、しかし他のモデル同様、そのスタイリングにはちゃんと「らしさ」が、つまり独自性が貫かれている。
近年、このカテゴリーは、多かれ少なかれ競技車両のイメージを盛り込んだものがメインストリームだった。かつてのパリ・ダカールラリーだったり現代のダカールラリーだったりとモチーフはさまざまながら、いずれにしても砂漠を突き進む姿によって、タフな走行性能がアピールされてきた。
その意味で、ノーデンは一線を画している。懐古的にも未来的にも見える外観は、どのライバルにも似ておらず、とはいえ奇をてらっているわけでもない。シックなカラーリングの効果も手伝って、随所に上質さが漂っている。そしてノーデン(Northを意味する独語)という車名が示すとおり、荒涼として、刻々と地形が変化する北の大地を見据えているのだ。
水冷並列2気筒エンジンのクランク位相角は、180°や270°、360°が主流ななかにあって、75°に設定されている。これは兄弟モデルでもある「KTM 890アドベンチャー/890アドベンチャーR」と並ぶ独自のもので、285°-435°の不等間隔で爆発。軽々とした蹴り出しと、それに伴う小気味いい吹け上がりが魅力だ。
トルクに任せるというよりは、ある程度回すことを望んでくる特性ながら、2800rpmあたりからスロットルレスポンスは増し、3000rpmを少し超えるとリニアに追従。2速以下の低速区間でもピーキーさはなく、クラッチのつながりも穏やかだ。100km/h巡航時の回転数はおよそ4000rpm。スロットルを開ければ9000rpm超まで爽快に回り、その車重を一段と軽く感じさせてくれる。
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多機能かつ使いやすい電子デバイス
シフトアップにもダウンにも対応するオートシフター(イージーシフトシステム)はどんな回転域でも正確に作動し、特にダウン側のスムーズなギアの送り込みとブリッピングは見事だ。スリッパークラッチとの相性もよく、一気に3段変えるようなスポーティーな走行にも、疲労を軽減するためののんびりとした走行にも応えてくれる。
トラクションコントロールの介入度やスロットルレスポンスを最適化するライドモードには、「ストリート」「レイン」「オフロード」の3つのモードが標準装備されるほか、今回の試乗車には設定の自由度が高まるオプションの「エクスプローラー」(2万6906円)が組み込まれていた。これを機能させると、9段階のトラクションコントロールが走行中も切り替えられ、スロットルレスポンスも「ストリート」「ラリー」「オフロード」の3段階のなかから選択できるため、よりアクティブなパフォーマンスを望むライダーは追加する価値がある。
洗練されているのは、こうした電子デバイスのあれこれを選択したり、設定したりするインターフェイスの分かりやすさだ。フルカラーのTFTディスプレイには整理された情報が並び、その操作は左ハンドル側のメニューボタンで統括。この手の機能は階層が入り組んでいたり、なにかを選んだつもりでもセットされていなかったりとなじむのに時間がかかるものだが、ノーデンにその心配はない。表示される単語に小難しさはなく、バーグラフやアニメーションによって、車両が今どういう状態にあって、あとなにができるのか、それを直感的に把握できるはずだ。
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グランドツアラーとしての資質にも優れる
ハンドリングも好ましい。フロントに21インチ、リアに18インチホイールを履くオフロード指向の強いサイズながら、アスファルトが敷き詰められたワインディングロードもスムーズに駆け抜けていける。もちろん、オンロードモデルのようにシャープ、もしくはクイックな手応えではない。車体をバンクさせるとリアから徐々に旋回力が高まり、半テンポ遅れてフロントが追従してくる、その穏やかさがちょうどいい。減速から旋回に至るプロセスが常に一定で、なにをどうやっても破綻しそうにない。
コーナーの曲率を予測して飛び込み、どうにか帳尻を合わせるような緊張感は強いられない。目で得た情報をもとに、道なりに車体をリーンさせ、状況に応じてもうひと寝かせしたり、起こしたり。そうやってユラリユラリとラインをトレースしていけるおおらかさと手の内感が心地いい。
タイヤはブロックの高い「ピレリ・スコーピオンラリーSTR」が標準装着されている。これまたオフロード指向が強いキャラクターながら、オンロードでもしっかりグリップし、ゴツゴツとした乗り心地を伝えてくるわけでも、ブロックがよじれるわけでもない。たっぷりとしたストロークを持つWP製の前後サスペンションがタイヤを路面に食いつかせ、スリッピーな路面やタイトなヘアピンでギクシャクするスーパースポーツを尻目にコーナリングを楽しむ余裕がある。
105PS/8000rpmの最高出力を発生するエンジンと、既述のオートシフターを駆使しながら中回転域を維持すれば、スポーツモデルに近い運動性を披露。見晴らしのいいライディングポジションがもたらす快適性とウインドスクリーンによる防風性は、グランドツアラーとさほど遜色なく、つまり万能性は極めて高い。
ひとつアドバイスしておくと、オンロードをメインで使う場合でもブーツ類はなるべくしっかりしたものを履いたほうがいい。カジュアルなものだと、フットレストをホールドしようとしても太ももやふくらはぎが先にシート下部に当たり、足首まわりがなんとなく心もとない。小ぎれいなマシンに見えても、本質的にはヘビーデューティーな装備で乗ることを前提としたつくりなのだ。
さて、というわけでノーデンの本領はやはりオフロードにある。与えられた試乗時間のなかには特設のダートセクションもあり、ここでもやはり低重心設計がもたらす安定感を体感することができた。
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冒険に出かけたくなる
「ダートも多少イケますよ」的なおしゃれアドベンチャーじゃないことは、カタログからも明白だ。なぜなら、WPのスペシャルサスペンション「XPLOR PRO」を前後に装着可能で(フロントフォーク:42万5977円/リアショック:22万4288円)、さらにはアップタイプのフロントフェンダーを筆頭とする各種オプションパーツも用意されるからだ。試乗車はこれらが組み込まれた本気仕様で、そのたたずまいにはKTM 890アドベンチャーRとはまた異なる孤高感があった。
もっとも、筆者のオフロードスキルではノーデンの秘めたポテンシャルは秘めたままにせざるを得ない。ノーマルサスペンションに対して30mm上がった車高は、それだけで素人お断り感をまき散らしてこちらを怖(お)じ気づかせるわけだが、乗り手と環境に合わせて、いかようにも走ってくれる底知れなさが頼もしい。これは本気のサバイバルマシンであるということで、いざという時が来なくとも、その一端を知っているだけで所有欲は満たされるに違いない。
多くのアドベンチャーモデルが飛んだり跳ねたり、砂ぼこりを巻き上げるイメージをアピールし、その外観やグラフィックでも存在感を際立たせようと派手さを競っている。あるいは至るところがとがり、跳ね上がり、鋭利に仕立てられている。
そうしたなかにあって、「オールラウンダーとして乗りたいんだけど、最近のはちょっと気恥ずかしいんだよね」という向きには、ノーデンが持つ優美さは好ましく映るのではないだろうか。レスポンスに優れたエンジン、ナチュラルなハンドリング、安全性とスポーツ性を引き上げる電子デバイス、豊富なオプションのすべてがそろい、それらが確固たるブランドの上に成り立っている。
オフィシャルサイトで公開される、著名なアンバサダーがアイスランドを縦横無尽に駆け抜け、創業の地スウェーデンを旅するプロモーションビデオは必見である。ノーデンを手にすれば、どんな世界が待っているのか。そこには夢を見る自由と権利がある。
(文=伊丹孝裕/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ハスクバーナ・ノーデン901
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1513mm
シート高:854-874mm
重量:204kg(半乾燥重量)
エンジン:889cc 水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:105PS(77kW)/8000rpm
最大トルク:100N・m(10.2kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:4.5リッター/100km(約22.2km/リッター、WMTCモード)
価格:174万5000円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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