マツダCX-8 25Tエクスクルーシブモード(FF/6AT)
ミニバンを超えて 2022.04.01 試乗記 国産の主要ミニバンが続々とモデルチェンジされ、ファミリー層の需要も高まりそうな2022年。それに代わる選択肢となり得る“3列シートSUV”はどうなっているのか? 代表的なモデルのひとつ、「マツダCX-8」に試乗して確かめた。振り返れば英断だった
マツダのラインナップからミニバンが消えて久しい。「MPV」「ビアンテ」は早々となくなっていて、4年前に「プレマシー」が販売終了した。売れ筋のミニバンを廃止して大丈夫なのか、と心配になったが、今になってみれば英断だったと思う。マツダは2017年12月に3列シートSUVのCX-8を発売した。ミニバンに代わる選択肢として世に問うたのである。
ミニバンも根強い人気を保っているけれど、SUVの勢いはますます強まっている。コンパクトSUVから堂々としたプレミアムSUVまでそろえてフルラインナップ化するメーカーもあるほどで、トレンドではなくメインストリームになった。3列シートを持つSUVも多い。国産では「日産エクストレイル」「ホンダCR-V」「レクサスRX」などがあり、海外からは「ジープ・グランドチェロキー」や「ボルボXC90」などが導入されている。
実際に3列シートSUVがミニバンの代替となっているかというと、なんともいえないところがある。ミニバン人気の大きな理由にスライドドアの便利さが挙げられるが、SUVはヒンジ式ドアだ。乗降性では明らかにミニバンが有利である。SUVのアドバンテージは、スタイルのよさと運転の楽しさだろう。マツダがミニバンをやめた理由がまさにそれである。魂動デザインとミニバンは相性が悪く、スカイアクティブ技術が目標に掲げる運転感覚も実現が難しい。さらに、スライドドアは衝突安全で不利な面がある。
マツダが2012年に発売したSUV「CX-5」は好評で、日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。2015年にコンパクトな「CX-3」を追加し、2019年に「CX-30」、2020年に「MX-30」と、SUVラインナップを充実させている。フラッグシップSUVのCX-8は、2022年1月から最上級グレード「Exclusive Mode(エクスクルーシブモード)」に2.5リッター自然吸気ガソリンエンジンモデルが追加された。2.2リッターディーゼルターボ、2.5リッターガソリンターボと合わせて3種類のエンジンから選べるようになったわけである。
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意識はされない“いいところ”
CX-8には、6人乗りと7人乗りの2種類がある。試乗したのは、6人乗りのエクスクルーシブモードの2.5リッターターボモデルだ。2列目がキャプテンシートになっており、電動スライド&リクライニング機構を備える。アームレストも付いていて、ゆったり座れる2列目は一番のおもてなし席である。パノラマルーフが後方まで届いておらず、空を見上げる楽しみがないのは残念だったが。
運転席はマツダ車共通の居心地のよさだ。サイズの大きいSUVでも、コンパクトカーの「マツダ3」と変わらない感覚が得られる。ドライビングポジションの自然さは、マツダが主張する「クルマを意のままに操る楽しさ」のベースになっているのだ。ペダル位置が足を真っすぐに伸ばした先にあり、正しい姿勢で運転することができることを重要視している。まっとうな考えではあるが、派手さがなくて気づきにくいのが難点だ。
マツダが狙っているのは自然さや安心感なので、当たり前のことにみえてしまう。ドライバーの運転しやすさや疲れにくさを向上させるが、強烈なキャラは生まれない。むしろ、意識されないことが成功なのだともいえる。久しぶりにマツダのクルマに乗り、ああ、こんな感じだったなとしみじみ感じたのに、しばらくすると慣れてしまった。
CX-8には、マツダの誇る「G-ベクタリングコントロールプラス(GVCプラス)」が装備されている。ハンドル操作に応じてエンジンの駆動トルクを制御してクルマの挙動をスムーズにするという技術だが、非装備車と直接比較しなければ作動状況を感知するのは困難だ。なんとなくマツダらしいいい感じ、とは思うけれど、やはり乗っているうちに忘れてしまう。
まるでコンパクトカーのよう
それでも、ほかの大型SUVやミニバンと明確に異なるポイントがある。まるでコンパクトカーを運転しているかのような気分になるのだ。全長4900mmでホイールベースは2930mmだから、日本の道路状況では持て余してもおかしくない大きさだ。コインパーキングに駐車すると、鼻先がはみ出してしまう。大きさを感じさせない敏しょう性や取り回しのよさ、スポーティーな運転感覚はこのクルマのわかりやすい美点である。
本来の目的ではないが、山道でも楽しめるクルマだ。230PSの最高出力はパワフルとはいえないけれど、ハンドリングの正確さとレスポンスのよさが痛快である。ここでもGVCプラスが貢献しているのだろうが、やはり自然に働いているから意識することはなかった。コンパクトに感じられるという点ではデメリットもあって、クルマの挙動は落ち着きがない。ピョコピョコとせわしない動きがあり、路面の悪いところでは不愉快な振動がクルマ全体に広がることもある。
楽しいからといって、むやみに飛ばすのは控えたほうがいいだろう。ミニバンの代替という役割を与えられているのだから、ファミリーカーとしての使用が重要な役割なのだ。2列目はキャプテンシートなのだから、ゆったりと過ごせるのは当然である。センターコンソールが備えられていて、物入れやドリンクホルダーは使いやすい。エアコンを調整するボタンがあり、シートヒーターのスイッチも使える。
3列目に乗り込むためには、2列目シートを前に動かす必要がある。立派なつくりなので、手でパタパタとたたむことはできない。ボタンを押すと電動で道を空けてくれるのだが、これがまどろっこしかった。作動を始めてからストップするまでにたっぷり15秒。わずかな時間かもしれないが、待つ身にとっては長く感じられるものだ。
優秀な3列目シート
シートの移動が完了しても、大人が乗り込む際には少しばかり不自然な姿勢をとることになる。ドアが大きく開くのでなんとかなるが、ミニバンに慣れていると不満を覚える人もいるだろう。入ってしまえば、思いのほか広い空間がある。2列目シートは前に動かしたままにする必要があるが、もともと広いのだから文句は言わせない。フロアから座面までの高さはそれなりに確保されており、極端な体育座りにはならないから長時間の移動も苦痛にならないはずだ。
横方向の余裕はあまりないが、閉塞(へいそく)感はさほど覚えなかった。後方に向けてだんだん高くなっていくつくりなので、前方視界が開けていることが大きい。ドリンクホルダーとUSB端子も左右それぞれに用意されていて、辺地に追いやられたように感じることはないだろう。新型「ジープ・グランドチェロキー」の3列目のほうがもう少し広かったが、全長が5200mmもあるのだから当然だ。CX-8の3列目シートは全長5000mmの「レクサスRX」のものよりもはるかに快適であり、優秀なパッケージングだといっていいだろう。
インテリアは最近のマツダデザインに共通のきめ細やかなディテール処理が施されており、上質で心地よい空間が演出されている。登場したころの驚きは薄れてしまったが、それはスタンダードとなったということなのかもしれない。他メーカーのクルマに乗って、マツダっぽいな、と思ったこともある。エクステリアもマツダ全車に通じる美意識が貫かれていて、ミニバンをやめて3列シートSUVをつくった意味が腑(ふ)に落ちる。
CX-8がかつてマツダのミニバンユーザーをすべて引き受けるのは難しいだろう。スライドドアが必須という子育てファミリーには、3列シートだけでは購入動機にならない。ミニバンをラインナップから落とすことは、ビジネス的にはつらい決断だったはずである。デメリットを勘案したうえで、マツダはデザインと操縦性能でブランド価値を高める道を選んだ。運転が楽しく実用的な3列シートSUVを開発できたのは、志を貫いたからである。あっぱれな仕事だと思う。
(文=鈴木真人/写真=山本佳吾/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
マツダCX-8 25Tエクスクルーシブモード
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4900×1840×1730mm
ホイールベース:2930mm
車重:1830kg
駆動方式:FF
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:230PS(169kW)/4250rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)225/55R19 99V/(後)225/55R19 99V(トーヨー・プロクセスR46)
燃費:12.4km/リッター(WLTCモード)
価格:476万3000円/テスト車=476万3000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:6922km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:534.9km
使用燃料:12.4リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:8.8km/リッター(満タン法)/9.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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