第229回:急速充電はレクサス店で
2022.04.04 カーマニア人間国宝への道ロールス・ロイスだと思えば問題なし
カーマニアもいつかは電気自動車(EV)に乗らなくてはならぬ。いや、その前に死んじゃえばいいんだけど、なんとなく長生きしてしまいそうな予感がするので、死ぬまでにはおそらく乗る(買う)ことになるだろう。
そこで今回は、いつかはやってくるその試練に慣れるため、BMWの最新EV「iX xDrive50」をお借りすることにした。
本当の試練が必要なら、もっとバッテリー容量の小さいEVに乗るべきかもしれないが、バッテリー容量がデカいと、そのぶん充電に時間がかかる。つまり試練である。現在最大級のバッテリー容量(111.5kWh)と、現在最大級のキドニーグリル(穴は開いてません)を持つiX xDrive50こそ、わが試練に最適であるとの判断である。
BMWジャパンにてお借りしたiXだが、次世代「iDrive」がチンプンカンプンでいきなりビビッた。加えてボディーサイズも特大級。もっとデカいクルマもあるけれど、なぜかiXは妙にデカく感じる。車体が微妙にラウンドしているせいだろうか。いきなりのダブル試練である。
しかしそれらは、試練の本題ではない。真の試練は充電なのだ。どのEVに乗っても走りには問題なく、むしろ内燃機関(ICE)車より優れている点は数多い。充電の問題さえクリアできれば、EVには課題は皆無と言ってもいい。
iXも、クルマとしては十分優れていた。加速は狂ったようにいいし、EVらしく重心は低いし、エアサスなので乗り心地も抜群。ものすごく重い物体(約2.4t)が動いている感覚は強烈だが、ロールス・ロイスだと思えばそれも問題ない。
が、走っているうちに、だんだん怖くなってきた。
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実質的な航続距離は400km強か
このままバッテリーをカラッポ近くまで使い果たしたら、充電にいったい何時間かかるのか。111.5kWhということは、50kWのCHAdeMO(チャデモ)規格の急速充電器で最低2時間。一回あたりの制限時間は30分なので、4つの充電ポイントを渡り歩かねばならない。
200kmほど走ると、バッテリー残量は54%に低下した。航続距離は650kmとうたわれているが、アメリカのEPA基準だと490km。今回の試乗ではそれよりもさらに一段悪く、実質航続距離は400km強か。111.5kWhちゅーバッテリーを積んでいても、重量に食われてあまり航続距離は延びないようだ。
「もう走るのやめて充電しよっと!」
さて、どこで充電するか。BMWディーラーで充電できればいいのだが、近くのディーラーではまだ設置されていないようだ。EVを売っているディーラーに急速充電スポットがないのはいかがなものか。BMWは日産や三菱を見習ってもらいたい。アウディも同罪である。
調べたら木場(東京・江東区)のBMWディーラーには56kWのがあるようだが、遠すぎる。だいたいiXは「最大150kWの急速充電に対応」とか言っているが、そんな充電器、どこにあるのか。国内ではテスラスーパーチャージャーやポルシェターボチャージャーくらいじゃないのか。絵に描いたモチとはこのことだ。
私は取りあえず、近所の三菱ディーラーに行くことにした。三菱車じゃなくて申し訳ないので、開店前の9時半に到着し、こっそり充電する作戦だ。
到着すると、三菱の人に「何かご用ですか?」と声をかけられた。「あのー、充電を……」と言うと、「わかりました。いま動かします」と、急速充電器のスペースに置いてあったPHEV「アウトランダー」をどかしてくれた。ウェブサイトには24時間営業と書いてあったが、そうでもないようだ。やはり充電は試練の連続である。
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レクサスのディーラーマンに褒められる
三菱の急速充電器では、いまひとつ充電がうまくいかず、充電前の54%から68%までしか回復しなかった。充電は常に不確実性との戦いだ。50kWだからって、額面どおりの性能が発揮される保証はない。よくあることである。
次はどこに行こう。検索すると、近所にレクサス店がある。1年ほど前に開店したばかりの超絶立派なディーラーだ。そこに行ってみよう! レクサスならBMWのガチライバルだし。
敷地内にiXを入れた途端、受付嬢が玄関から飛んできた。さすがレクサス店のサービスはケタ違いである。「あのー、充電を……」と言うと、「あっ! こちらです!」と、店の裏手に案内された。まだ他社のEVが充電に来た例はほとんどなさそうな様子だ。確かに「リーフ」ではレクサスに乗りつけられまい。
充電を開始すると、再び受付嬢がやってきて、「よろしかったら店内でお待ちになりますか?」と、優しく声をかけてくれた。
店内はウルトラ広くてゴーカだった。ここまで立派なディーラーは生まれて初めて見た。レクサスすげえっ!
平日の朝でヒマということもあってか、受付嬢は万事愛想よく、うまいコーヒーまで入れてくれた。他社のEVで乗りつけながらこの厚遇……。涙が出る。
レクサスのうまいコーヒーでパワー充塡(じゅうてん)。iXの充電完了予定時間の10分ほど前にクルマに戻ると、年配のディーラーマンがiXを見て足を止め、偵察に近づいて来た。
ディーラーマン:あっ、失礼しました! すごいおクルマですね~。
オレ:はい! バッテリー容量111.5kWh。世界最大級です!
ディーラーマン:はぁ~! 初めて見ました! インテリアも未来的で素晴らしいですね~。
コーヒーをごちそうになったうえに、クルマまで褒めてもらって、本当にうれしかった。バッテリー容量も87%まで順調に回復。100%にするとバッテリーが傷むし、これくらいでお返しすることにしよう。
BMW iXを購入予定の皆さま! 急速充電はレクサス店がオススメです!
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。