BMW iX xDrive50(4WD)
エンジン屋の誇り 2021.12.25 試乗記 BMWのピュアEV「iX」が上陸。523PSのシステム最高出力と、一充電あたり650kmの航続距離を誇る上級モデル「xDrive50」のステアリングを握った。EV専用としてゼロから開発された新型SUVにも、果たして“BMWらしさ”は感じられるのか。申し分のないクオリティー
ひとことで言うなれば、iXはBMWの電動車においてフラッグシップとなるピュアEV。塊感を強調するようなボディーフォルムに、縦に伸ばされた大型のグリルや薄型のヘッドランプとリアコンビネーションランプ、無駄なラインを省いたサイドパネルなどが組み合わされたエクステリアデザインはまさに最新のBMW流儀であり、クルマ好きが目にすればどこからどう眺めてもBMWである。
比較対象物がなければその大きさはわかりづらいが、全長×全幅×全高=4953×1967×1695mmというボディーサイズは、BMWのSUV「X5」とほぼ同等のフットプリント。全高がやや低いので幾分スマートにも見える。大きさそのものでステータスを示す時代は過去のもので、フラッグシップEVとはいえ圧倒するようなサイズ感や外連味(けれんみ)は控えられている。フロントフェイスの面積に対して大きすぎるグリルが最近のBMWでは何かと話題に上るが、すでに「M4」や「M3」で慣らされていたためか、いまさら取り立ててどうこう言いたくなるようなものでもない。
外から眺めたときにボディーサイズが瞬時に理解できなかったのは、今回の試乗車に装着されていた22インチホイールが、ことのほか存在感を主張していたからかもしれない。ボディー後方に向かってグリーンハウスの下部が上昇カーブを描き、これに加えてボディー下部をブラックで処理したサイドビューは、外板色にかかわらずボディー上下方向の厚みを視覚的に抑える効果をもたらす。
こうしたデザイン上のテクニックは「ランボルギーニ・ウルス」でも用いられていおり、大きく重々しく感じるSUVのルックスに、軽快感や躍動感をプラスしている。もちろん、実際には2tをはるかに超えるヘビー級であり、SUVとしての質量も十分だ。けれどもそうは感じられないどこか鍛え抜かれたアスリートのようなボディーシェイプは、これまでのBMW車の延長上にありながらも、新しい時代の訪れを印象づける。参考までに空気抵抗の指標となるCd値は0.25と発表されている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
あふれ出るイイモノ感
いっぽうインテリアは、従来のBMW車とは異なるデザインキューで構築されている。運転席におさまると、メルセデスのようなと言っては誤解を招くかもしれないが、メーターパネルとコントロールパネルを一体化させたインストゥルメントパネルが目を引く。湾曲したカーブドディスプレイが操作性や視認性を高めたというBMWの主張には同意するし、シンプルでクリーンな仕上がりにも感心する。
スイッチ類を大幅に削減し、スリムなエアコンの吹き出し口を組み込んだコックピットは、現在のBMWオーナーから見ても先進感にあふれるものだろう。六角形をモチーフにデザインされたステアリングホイールも新しい。シンプルすぎて反対に物足りなさも感じそうだが、外に連れ出した試乗車両ではダッシュボード全体に貼られたオリーブの葉の抽出液でなめされたというブラウン系の「カスタネア」が、ラグジュアリーなイメージを後押ししていた。
インフォテインメントや空調の操作は横長のタッチパネル上でも行えると同時に、BMWが各種操作のギミックとして先鞭(せんべん)をつけた「iDrive」のダイヤル式コントローラーも、センターコンソールパネルに残されている。タッチパネルに触れる方式では、現実的には走行中の操作が難しいということを理解しているのだろう。見た目を優先し、潔くタッチパネルに一本化する欧州ブランドが多いなかで、実用性とのバランスが考慮されたこの二刀流は、使う人の気持ちがわかっている。便利だが、操作のたびに触れたいところにタッチできずストレスがたまるようでは、進化したテクノロジーとは言えない。
シートベルトを装着しSTART/STOPの文字が刻まれたメインスイッチを押すと、大げさな演出もなく、走行可能な状態に車両はスタンバイされる。もちろん、スイッチオンでさまざまな効果音も楽しめる。BMWがトグルスイッチと称するクリスタル仕上げの小さなシフトセレクターをドライブに入れアクセルを踏めば、iXはひたひたと歩を進める。スルリという表現でもいい。タイヤが転がるその1回転目から、イイモノ感が伝わってくる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
後輪操舵システムの恩恵は?
前後に1基ずつモーターを搭載する4輪駆動システム「xDrive」を採用するiXは、出力とバッテリー容量の違いにより2モデルがラインナップされている。エントリーモデルに位置づけられるのがシステム最高出力326PS、システム最大トルク630N・mの「iX xDrive40」、上級グレードのiX xDrive50は同523PS、同765N・m。一充電あたりの航続距離(WLTCモード値)は前者が450km、後者が同650kmとなる。今回の試乗車はiX xDrive50である。
標準仕様のエクステリアから両モデルを識別するのは難しく、リアに回ってエンブレムを確認するしかない。大きな違いは「インテグレイテッドアクティブステアリング」と呼ばれる前後輪統合制御ステアリングシステム(後輪操舵)と、4輪アダプティブエアサスペンションの有無。もちろんこれらが標準装備されるのはiX xDrive50のほうだ。さらに言えば、harman/kardonサラウンドサウンドシステムもiX xDrive50ではスタンダードとなる。
今回、iX xDrive50のステアリングを握れるのは実質2時間程度であり、両モデルを乗り比べることもできていないので明言はできないが、エアサスと後輪操舵システムの恩恵を如実に感じるまでにはいたらなかった。カタログをよくよく見れば、不思議なことに後輪操舵システムの有無による最小回転半径の違いはなく、ともに6mとの記述である。
低速域においては後輪を最大3.2°逆位相に操舵して車両の回頭性を高め、高速域においては後輪を最大2°同位相(前輪と同方向)に操舵するとアナウンスされていたが、特に小回りが利いていると意識できるシーンはなかった。もちろんエアサスともども、それらシャシーデバイスは完璧な黒子に徹し、ドライバーに作動を意識させないようなチューニングなのだと言われればそれまでなのだが。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
加速フィールにエンジン屋の知見
EVの試乗リポートゆえにまたかよと思われるかもしれないが、バッテリーを床下に敷き詰めることで実現した低重心化は、快適な乗り心地と安定したハンドリングの実現に大きな貢献を果たしている。しっかりガッチリしたボディーも、iXの特徴だ。アルミやカーボン、ウルトラハイテンションスチールと、最先端の素材をボディー各所に用いているが、つなぎや組み合わせに少しも違和感はなかった。そもそも特別なスポーツモデルでもない限り素材をありがたがったり意識したりすることはないだろうが、あらゆる意味での一体感をもって、先進的なEVを構築しているという印象だ。
アクセルをじわりと踏めばスルスルと、ベタッと踏めば背中を蹴飛ばされたような勢いで加速する。そうしたEVの加速シーンの描写は飽きるほど目にしたと言われそうだが、そのアクセルレスポンスと加速Gが立ち上がるフィーリングは、エンジン屋が時間をかけてアルゴリズムを設定したようで、「速きゃいいんだろう?」と言わんばかりのデジタル的なEV専業ブランドのものとは一線を画す仕上がりだった。スピードが出る出ないだけではなく、ドライバーの操作とスピード感のシンクロにも面白さや感動が隠されているのだとあらためて感じた。もちろん減速もスムーズである。
折に触れ、「ポルシェ・タイカン」や「アウディe-tron GT」「ジャガーIペース」などのステアリングも握ってきたが、そうしたプレミアムEVのなかにあってもiX xDrive50は、パフォーマンスとユーティリティー、そして価格(確かに高価だが)のバランスがとれた最新のEVであると紹介できる。ただ、いかにWLTCモードで一充電の最大走行可能距離が650kmと発表されようとも、充電にはある程度の時間がかかり、液体燃料のような簡便さにはまだまだ及ばない。
今回のようにバッテリーを使いっぱなしで充電作業も行わない試乗で結論じみたことを述べるのもなんだが、尺とり充電が苦にならず時代の先端を走りたいという向きには、未来感にあふれBMWらしさ満点のiX xDrive50は、EV選びの最適解になりそうだ。ただ、半分近くがディーゼルといわれるBMWのSUVオーナーには、「いまどきはEVも面白いよ」とは言えても、「次はEVも考えては?」とはまだ言えないのである。
(文=櫻井健一/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
BMW iX xDrive50
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4955×1965×1695mm
ホイールベース:3000mm
車重:2530kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:258PS(190kW)/8000rpm
フロントモーター最大トルク:365N・m(37.2kgf・m)0-5000rpm
リアモーター最高出力:313PS(230kW)/8000rpm
リアモーター最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/0-5000rpm
システム最高出力:523PS(385kW)
システム最大トルク:765N・m(78.0kgf・m)
タイヤ:(前)275/40R22 107Y/(後)275/40R22 107Y(ブリヂストン・アレンザ001)
一充電走行距離:650km(WLTCモード)
価格:1116万円/テスト車=1389万8000円
オプション装備:メタリックペイント<アヴェンチュリンレッド>(31万5000円)/ナチュラルレザーカスタネア<ブラック/カスタネア>(0円)/ファーストクラスパッケージ(63万5000円)/ラウンジパッケージ(65万2000円)/テクノロジーパッケージ(75万8000円)/エアロダイナミックホイール1020(15万8000円)/スポーツパッケージ(22万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1734km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
スズキDR-Z4S(5MT)【レビュー】 2026.1.7 スズキから400ccクラスの新型デュアルパーパスモデル「DR-Z4S」が登場。“Ready 4 Anything”を標榜(ひょうぼう)するファン待望の一台は、いかなるパフォーマンスを秘めているのか? 本格的なオフロード走行も視野に入れたという、その走りの一端に触れた。
-
NEW
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。 -
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気
2026.1.15エディターから一言日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。 -
ルノー・グランカングー クルール
2026.1.15画像・写真3列7座の新型マルチパーパスビークル「ルノー・グランカングー クルール」が、2026年2月5日に発売される。それに先駆けて公開された実車の外装・内装を、豊富な写真で紹介する。 -
市街地でハンズオフ運転が可能な市販車の登場まであと1年 日産の取り組みを再確認する
2026.1.15デイリーコラム日産自動車は2027年に発売する車両に、市街地でハンズフリー走行が行える次世代「ProPILOT(プロパイロット)」を搭載する。その発売まであと1年。革新的な新技術を搭載する市販車の登場は、われわれにどんなメリットをもたらすのか。あらためて考えてみた。 -
ホンダ・プレリュード(前編)
2026.1.15あの多田哲哉の自動車放談トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんが今回試乗するのは、24年ぶりに復活した「ホンダ・プレリュード」。話題のスペシャルティーカーを、クルマづくりのプロの視点で熱く語る。

























































