DS 9オペラ(FF/8AT)
大統領に伝えたいこと 2022.04.23 試乗記 DSの新たな旗艦「DS 9」がデビューした。全長5m近い4ドアサルーンなわけだが、何しろ「パリのアバンギャルド」をブランドアイデンティティーに掲げるだけあって、いろいろな点が既存の価値観とは異なる考えのもとに出来ている。1.6リッターガソリン車の仕上がりを報告する。公用車に最適なフォーマルサルーン
「フランスでは、マクロン大統領が後席に乗るそうです」とwebCG編集部のFさん。あまり感銘を受けた風でないライターの顔を見て、「本当ですよ」と念を押す。
DSブランドのフラッグシップ、DS 9が登場したのは2020年。その後のコロナ禍もあって、今年2022年の春になって、ようやく日本での販売が開始された。「DS 7クロスバック」「DS 3クロスバック」に続く「DSブランド専用モデル第3弾!」という触れ込みだが、学術的には(!?)チャイナマーケットで販売される「シトロエンC6」や「プジョー508」のストレッチ版「508L」の親戚筋にあたる。
新しい旗艦は、これまでDSブランドのトップを務めてきたDS 7クロスバックより165mmも長い2940mmのホイールベースに、全長4940mm、全幅1855mm、全高1460mmのボディーを載せる。「メルセデス・ベンツEクラス」に類似した寸法である。
公用車に最適なフォーマルなサルーンという位置づけだが、優雅なルーフラインが特徴。長くなだらかに落ちるCピラーから、“ちょっと古い”フランス車好きなら「もしや5ドア?」と期待するところだが、実際は、ハッチゲートではなく、小ぶりなトランクリッドを持つ。
むしろフランス車らしいのは、環境性能重視の時流もあるが、この立派な体をターボの過給を得て、1.6リッターという小排気量で動かすことだろう。4気筒のツインカムターボは、225PS/5500rpmの最高出力と300N・m/1900rpmの最大トルクを発生。組み合わされるトランスミッションは8段ATだ。
日本では、純然たるガソリンモデルに加え、電気モーターを組み込んでシステム最高出力250PSをうたう、プラグインハイブリッド車も用意される。価格は、ガソリン車が630万円(リヴォリ)と699万9000円(オペラ)。PHEVが718万円(リヴォリE-TENSE/受注生産)と787万9000円(オペラE-TENSE)である。
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グルリと回るヘッドランプ
国内でのポジショニングをみると、「レクサスES」とメルセデス・ベンツEクラスの間を埋める価格帯となるが、フランス発の個性的なFFサルーンを、FR車台をベースとする従来の高級車と比較する人は少ないはずだ。「パリでしか味わえないラグジュアリー。」(ホームページより)に憧れての指名買い、が正しいDS 9の求め方だろう。ちなみに、同車は大型サルーンの人気が高い中国で生産されている。
今回の試乗車は、ガソリン版DS 9の上級グレード「オペラ」。「ノアールペルラネラ」ことシックな黒のペイントが施され、ボンネット中央を縦断するクロームのサーベルラインがよく映える。かの国においては大真面目に権威の象徴となる意匠だが、東洋の島国においては、「なんだかレトロでカワイイ!」ということになりましょうか。
凝った立体造形を採るフロントグリル。表情を豊かにする側面のデイライト。キーを近づけるとポップアップし、普段はサイドパネルに埋め込まれているリトラクタブル式ドアハンドル。そうしたデザイントレンドを抑えたうえ、ドアを開けると、ウオッチストラップデザインと名づけられた凝ったデザインのレザーシートが、DSブランドならではの独自性を主張する。車内はソフトな内張りを中心に、いたるところにひし形のモチーフが反復される。DSのデザインチーム、頑張っとるなぁ。いざエンジンをかけると、インストゥルメントパネル中央のB.R.M社製高級アナログ時計が縦方向に半回転して、フェイスを見せた。
「せっかくなので見てください」と親切なFさんが誘うので、一度かけたエンジンを切り、あらためて車外に出る。webCGスタッフが替わって再始動すると、フレンチサルーンのLEDヘッドランプが派手に輝きながらグルリと180度反転する。うーん、華やか。同車ジマンの「DSアクティブLEDビジョン」である。
「オリジナルの『シトロエンDS』が訴えたかったのは、そういうことではないのでは?」という疑念が一瞬アタマをよぎったが、運転状況に応じて照射位置や範囲などをコントロールする機能を暗に示しているのだと解釈して、納得することにした。
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至れり尽くせりのリアシート
大統領も座るというリアシートにわれも座ってみる。座面はやや低めだが、膝前の空間は十分。FFサルーンらしく、フロア中央のトンネルはごく低い。頭上の余裕は……まずまず。身長173cmと伝えられるマクロン大統領なら問題ないと思う。
後席とその周辺には、電脳時代の必需品、USBソケットを2基備え、エアコン吹き出し口はもちろん、シートヒーターに加え、ベンチレーション機能まで備える。シートバックには、背中の凝りをほぐすマッサージ機能が内蔵される。最近の欧州車は、即物的なおもてなし機能においても日本車に遜色がない。
運転支援装備についても、ひととおりそろっている。レーンキープアシストは、フロントウィンドウ上部のカメラが道路上のラインを認識して、自車がうっかり逸脱しそうになると、警告表示とともにハンドルを「グイ!」と切ってレーンに戻してくれる。
言うまでもなく、カメラに加え、フロントバンパー内のレーダーを駆使して前走車に追従するアクティブクルーズコントロールも搭載する。巡航中にレーンポジショニングアシスト機能を活用すれば、いわゆる半自動運転も可能だ。ステアリングホイールを握っていれば、レーンキープアシスト単体より、はるかに優しく知的に、車線内でDS 9を走らせる。
さらに技術の応用を進めた例が「DSアクティブスキャンサスペンション」で、電子制御式サスペンションとカメラ機能を結合。前方路面の凹凸を検知して、即座に4輪のショックアブソーバーのダンピングを個別に調整、フラットな乗り心地を目指す。ドライブモードで「コンフォート」を選ぶと作動する。
運転して楽しいフォーマルサルーン
試しに走行中に「ノーマル」から「コンフォート」に変更してみると、なるほど、路面の継ぎ目を越えるときのハーシュ(突き上げ)が弱まり、舗装表面の細かい粒が平らにならされる……ように感じる。が、さて、もし助手席に座らされて、「現在のドライブモードはノーマルかコンフォートか?」と問われたら、ばっちり当てる自信はない。常に“特別な足まわり”を意識させられたハイドロニューマチック時代のシトロエンを思うとちょっぴり寂しい気もするが、テクノロジーの進歩とはそういうものなのだろう。
DS 9はステアリングコラム上部の赤外線カメラを使って、運転者の顔の向きや視線、目の開閉をモニター。居眠りはもとより、よそ見運転などを監視している(DSドライバーアテンションモニタリング)。近い将来には、乗り込んだドライバーによって、言われなくとも好みの乗り味、走りを提供するようになるに違いない。
先進機能のチェックはさておいて、DS 9全体のドライブフィールはというと、巌のような頑強なボディーでアスファルトを踏みしめるように走るジャーマンテイストを期待すると、それは少し違う。太いセンタートンネルを持たないフロアは、ドイツ車と比較すると相対的に振動を伝えることがあるし、道路の状態によっては足元がバタついて、「19インチのタイヤを十分に履きこなせていない」と感じる場面もあった。
一方で、ダイレクトでレスポンスのいいハンドリングは秀逸で、DS 9は、後席に収まっているのがもったいないと思わせるフォーマルサルーンである。ラグジュアリーな内外装とは裏腹に、ステアリングホイールを握って活発に走るのが楽しい。「まるで大きなプジョー車のよう」といったら、DSブランドの担当者に怒られるだろうか。
東洋の島国においては、黒塗りの高級車というより、人とはちょっと違った大型車に乗っている、と肩の力を抜いて接したほうがいい。まだまだブランドの知名度が低いこともあって、「このクルマ、何?」と、自動車に興味がある人の関心を引くことは間違いない。ただし、運転席から降りた際に、非常に重要な人物とみなされるか、はたまた運転手と思われるかは、アナタ次第だ。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
DS 9オペラ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4940×1855×1490mm
ホイールベース:2895mm
車重:1610kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:225PS(165kW)/5500rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/1900rpm
タイヤ:(前)235/45ZR19 99Y/(後)235/45ZR19 99Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:14.4km/リッター(WLTCモード)
価格:699万9000円/テスト車=699万9000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:504km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:260.1km
使用燃料:15.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:17.1km/リッター(満タン法)/16.8km/リッター(車載燃費計計測値)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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